01
王都魔術学院のとある朝。
研究室に一人、便箋を見つめる男がいた。
ひょろりと伸びた背、ぼさぼさの髪に分厚い眼鏡、名前を辰春という。
「あいつ、生きていたのか」
学生時代の友人からの手紙を受け取って、一番に言うセリフではない。
まあ、それには理由がある。
詳しく話すと長くなるので簡単に説明すると、手紙の差出人は先にも述べたように、辰春の数少ない友人の一人、昭夫からであった。
友人というか、学院入学当初から魔術の天才と謳われた辰春を特別扱いするでもなく勝手に「たっちゃん」と呼び、川遊び(川辺で本を読んでいた辰春を蹴り川に突き落とし一緒に泳いだ)や虫捕り(立ち入り禁止の森で魔獣を生け捕りにした)などに無理やり付き合わせられただけだが。
そんな破天荒なこの男、昭夫は、卒業した途端、姿を消したのである。
それから3年間音沙汰もなかった昭夫からの手紙である。訝しげな態度をとってしまうのもおかしくはない。
変な仕掛けがないか十分に確かめた後、おそるおそる封を開ける。
すると中には1枚の紙が入っており、そこには「俺の妹を、たっちゃんにやる」とだけ書かれていた。
「……は?」
お前にやる?とは?自分の解釈が間違っていなければ嫁にということなのだろうか?
あまりに唐突で現実味がないことに辰春は困惑した。それに、昭夫に妹というか兄妹がいたことすら知らなかったからだ。
まだ封筒に何かが入っている。
すこし色褪せた写真。
そこには昭夫と同じ黒髪黒目の整った顔立ちの少女が微笑んでいた。少し幼さが残る。成人はしていないように見える。
じっと見ると色もそうだが、何となく雰囲気が昭夫に似ている気もする。
(この少女と結婚だと……?)
「おはようございまーす」
「…!お、おはよう」
同僚がぞろぞろと研究室に出勤して来たことで、慌てて紙と写真を封筒にしまい、辰春は昭夫の件を頭の隅に追いやり、釈然としないまま、とりあえず机に山積みにされた書類と向き合うことにした。