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6. 驚かされる善良令嬢

ブクマ&評価ありがとうございます。

励みにさせて頂きます。

「何を仰りたいのですか?」


 陛下って・・・この人は、何を知っているというのだろう?


 まさか、来てそうそう、スパイ活動がバレている?


「それをここで言っていいのかい?」


「ダ、ダメです。」


 こんなところで大っぴらにされたら堪ったものではない。


「今夜、部屋に伺うから教えてくれるかな?」


 少し躊躇したが今住んでいるところを教える。一族の呪いが効果を発揮すれば、押し倒されることもあるまい。


「あちゃー。あそこか。トニーの奴だな。」


 確かに斡旋して頂いたのはトニー氏だ。適度に裏通りだけど比較的安全なところ、それに屋台を置いても大丈夫なところと指定したところ、その部屋を紹介されたのだ。


 近くに娼館が3軒もあって、昨夜はホットケーキ100枚が結構なスピードで売り切れてしまったから、200枚焼いてみようと思ったのだが、今夜は無理らしい。


 まあ、ああいうところは毎日売れるとは限らないから、一日置きのほうがいいのかもしれない。


     *


 結局、初日は食堂で200枚のホットケーキを売り切った。まずまずの結果だ。惜しむらくは、生クリームと季節の果物も売り切ってしまい。さらに材料原価の低い、クレープをティータイムに投入できなかったことだ。


 帰り道少しだけ果物を仕入れたが、明日の朝はもっと仕入れることにしよう。


「女将さん。ただいま。」


 このアパートは、近くの娼館が経営する建物で娼婦の方々や警備担当が住んでいるのだ。大家で娼館のオーナーでもあるこの女性は近くに住んでいる。


 アパートに出入りするときは、女将さんか娼館の警備担当の方に挨拶するように言われている。


「ああ。スザンナかい。今日も売れ行きが良かったようだね。」


 ここには、本名をティナさんと仰る方が既に住んでいるのでスザンナと呼ばれている。


 今日の結果が顔に出ていたらしい。


「はい。でも、お皿を沢山割ってしまいました。」


「どうせ、向こうからぶつかってきたんだろ。初日なんだ。仕方がないわ。」


 一族の呪いなのか、世間話の一環なのか。悪くないことにされてしまう。


「でも、みんなスイスイと避けられるので私にもできるはずなんです。」


「本当にいい子ね。今日も店の近くに屋台を出すんでしょ? 頑張ってね。」


「いえ。今日はお客様があるんですよ。ですから、今日は早仕舞いです。」


 本当は火を落さずに何枚かだけでも売ったほうがいいのだが、いつリラ様がいらっしゃるか分からないのでは、どうしようも無い。


「そうなの。勿体無いわね。うちの娘たちも楽しみにしているっていうのに。」


「すみません。」


「いいのよ。謝ることじゃないわ。・・・そうだ。店の近くに屋台を置いて、ホットケーキを100・・・いや200枚焼いておいてくれないかな。こっちで適当に客に売りつけるからさ。もちろん、代金は200枚分払うから・・・ダメ?」


「ダメじゃないです。ありがとうございます。じゃあ、焼いていきますね。」


 200枚まとめて買ってくださるというのだ。悪いわけがない。これで今日の売り上げも予定の2倍があったことになる。


 そもそも、毎日200枚、食堂で売り上げるだけで年収ベースだと男爵の年金を遥かに越える利益を叩き出すのだ。外で売る場合は売れる量が決まっていないのだけど、半分としても同じだけ利益が見込めるのだ。


 借金の支払いに充てなくてもよくなったので、これで来年の領地の予算にかなりの額を回せるのだ。どんなことに使おうかと楽しみである。


「最初の焼きたては、私が頂きますから、ここで待っているわね。」


 屋台を娼館に横付けして、早速焼き始める。うちのホットケーキはサクサクだからか、焼きたてを所望されることが多いのが難点だ。待っていると言われれば、どうしても作らざるを得ないのが客商売のツライところだ。


 保温状態でも数時間はサクサクのままなのだが、どうしても焼きたてには負ける。それでも行列が出来始めれば、そんなお客様も居ないので問題無くなるのだが・・・。


「あっ。リラ様。」


 女将さんが最初の1枚だけと言いながら、2枚目にシロップを掛けだしたところで、今日のお客様が現れた。


「なんだ。リラだったのかい? お客様って。」


「フローラ。こんなところで油を売っていてもいいのかい? これから、お姉さんたちの支度があるんだろ。」


 リラ様が苦々しい顔でそう言う。どうやら、リラ様が頭が上がらない御仁は女将さんのようだ。道理で住んでいるところを教えたときも、苦い顔をしていたわけだ。


「だって美味しいんですもの。今なら焼きたてだよ。どうだい、食べていかないか?」


 昼間、8枚も食べたというのにまだ食べる気らしく。屋台のイスに腰掛ける。まるで欠食児童のようだ。


「うん。食べる食べる。」


 リラ様が4枚、自分で皿に盛り付けると早速食べ始める。


「はい。御代。」


 そう言って、女将さんが何時も屋台で売っている単価の倍をリラ様に請求する。食堂での金額からすれば、数倍だ。どうも、娼館の客にその金額で売るつもりのようだ。


 まあ、いいんですけどね。


「高いなぁ。もう、なんでフローラが請求するのさ。」


「200枚買い取ったのよ。そこには娼館ののれん代も含まれているんだから、当然でしょ。」


「全く、そんなことをしなくても、十分お金持ちのくせに、セコセコと稼ぎすぎじゃないのか?」


「リラこそ沢山稼いでいるくせに、ツケが随分と溜まっているわよ。いい加減、払いなさいよ。」


 それって、リラ様も娼館に通っているってこと?


 リラ様って、相手の職場に恋愛を持ち込まないとか、言っていなかったか?


 めちゃめちゃ持ち込んでいるじゃないか!


 きっと、この人のことだ。モテモテなんだろうな。相手も娼婦って仕事に手がつかなくなりそう。なんか言っていることとやっていることが随分違わないか。


「これもついでにツケでお願いします。代金はユーティーに請求してくれ。」


「そんなこと出来るわけがないでしょ。あの子から不明瞭なお金が私に流れたら、横領していることになるじゃない。だから、予算として通ったものだけしか頂いていないってのに・・・。」


 あの子って・・・まさか?


「ああ、言ってなかったわね。ユーティーもトニーも義理の息子だよ。」


 私の顔に疑問が出たのだろう。気安くそう言ってくる。トニー氏はなんとなくわかるが、現国王は娼館で育ったってこと?

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