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5. 道を踏み外す善良令嬢

ブクマ&評価ありがとうございます。

励みにさせて頂きます。

「ケイ! 失礼じゃないか。」


 後ろから、全ての事情を知っている男性が現れた。トニー氏だ。だが再び奈落の底に突き落とされてしまう。


「あの方と比較するだけならまだしも、代替品にしようなんざ男の風上にも置けない。」


 トニー氏のこのセリフが愛情たっぷりに話すのを見て悟ってしまったのだ。この人が一途に思っている方も同じなのだと・・・。


 やはり、ここは敵国なのだ。不可侵条約を結ばねばならないほど、帝国とは遠く離れた存在。決して私の母国とはならないのだ。


「止めてください。彼は大切なお客様です。」


 私の中でそう割り切ることに決めた。私の笑顔ひとつでカネになると思えば、そこに感情は必要ない。


「大丈夫かい。随分なことを言われていた気がするが・・・。」


 奈落の底に突き落とした男が宣う。気遣いのできるこの男が私の考えていることが分からないほど、相手を愛してやまないのだろう。


「大丈夫ですから・・・本当に大丈夫なんです。」


「心配だなあ。よし、俺もしばらく通うことにするよ。ケイ、お前の好きにはさせない。」


 なんか、どんどんと嫌な方向に話が進んでいく。これも一族の呪いなのだろうか。相手は呪いの所為で善意で言ったくれているとしたら、絶対に引き下がらない。


「あーあ。見ていられないね。全く。ウエイトレスと客の恋愛は御法度でしょ。この娘をクビにしたいの!」


 そうだった。例え相手がトニー氏であってもルールはルールだ。クビは困る。


 後ろを振り返るとそこには、鍛え上げられた肉体が眩しい女性が立っていた。丁度、親友アレクサンドラを老けさせたような雰囲気だ。親友も魔王討伐の際に剣士としても活躍したというから、かなりの腕前を誇ったはずだ。


「しかし、何か放っておけなくて・・・。」


 やはり、トニー氏は一族の呪いに突き動かされているようだ。


「その娘がティナスザンナ嬢でしょ。」


「どうして、それを・・・。」


「私がこの王宮で知らない女の子の情報があると思って?」


 なんだろう。この会話は、まるでナンパ男が情報通を自慢しているような・・・。


「そうでした。相変わらずですね。リラ様は。」


 リラ様というのか。花の名前だよね。思い浮かべる花と目の前の人が一致しない。ひとつひとつの花はどちらかと言えば地味な花だ。


「彼女は立派な大人よ。そうやって相手が困っているのに、構いたがるから、嫌われるのよ。もしかして、懲りてないの?」


「分かってはいるのですが・・・。」


「分かっているのなら、引き下がりなさい。ケイ、貴方もですよ。しばらくは近づくことも許しません。これは王族警護班の上司としての命令です。わかりましたか?」


 この人は国王を始め、王族や正室、側室の方々を警備を担当されているようだ。後宮などの女性にしか立ち入れないところへも入れる必要があるからだろう。


「っ・・・。」


 ケイ様とトニー氏が気圧されたように下がっていく。どうやら、助かったらしい。


「大丈夫だった?」


「ありがとうございました。リラ様とお呼びしても・・・。」


「いいわよ。ティナちゃんでいい?」


 さっき、立派な大人と言ったばかりなのに・・・。ティナちゃん?


 とりあえず頷くしかない。


「料理長、ティナちゃん借りていい?」


 なにか皿でも借りるかのように気楽に言われる。まだ、仕事が残っているのに・・・。


「えー困るよ。そろそろ、追加のデザートも焼いてもらわなきゃいけないし・・・。」


 料理長は困るといいながら、ウエイトレスの仕事から離れてもいい選択をしてくれる。


「はいはい。じゃあ、貴女の仕事場で話をしましょ。」


 勝手知ったるなんとかで、屋台が置いてある方向に連れて行かれそうになる。


「リラ様! 分かってらっしゃると思いますがウエイトレスと客の恋愛はご法度ですからね。彼女はうちの大切なウエイトレスなんだ。この娘が辞めるようなことになったら、フローラさんに言いつけますからね。」


「うっ・・・どこから、彼女の名前が・・・。」


 リラ様の顔が歪む。よほど恐い相手らしい。


「国王様の心配事をいったい幾つ増やすつもりなんですか。陳情を出したら、ここまで来てくださいましたよ。」


 若い所為かフットワークがいいな。国王様は・・・。


「ユーティーか。ちっ。」


「リラ様!」


 料理長が青筋を立てて怒っている。


「わかってる。分かってるって。決して恋愛相手の困ることはしないのが私の信条だ。相手の職場に恋愛を持ち込むなんてしないわよ。」


「大丈夫ですか? 本当に大丈夫ですか? この方はこういう人だから、決して道を踏み外さんでくれよ。」


 つまり、リラ様の恋愛相手は女性なんだ。これだけ格好良ければ相手の女性がフラフラとなるのは良くわかる。私なんていつも親友アレクサンドラにフラフラとなっているもの・・・。本当は腕を組んで歩きたいくらいなのに人身売買だの誘拐だのと騒ぐ輩が多いのでできないのよね。


 大丈夫。私は大丈夫。なんといっても親友が心の中に住んでいるのだから、リラ様が幾ら格好良い女性でもフラフラっとするはずがないもの。


     *


 目の前でホットケーキがどんどん消えていく。この人、本当に女性? って思うくらいのスピードで消えていく。


 リラ様が焼きたてのホットケーキを食べたいと仰ってくださったので、いつも20枚焼くところを10枚にして全てのホットケーキをベストなタイミングでお出しできるように細心の注意を払いながら、焼き上げた。


 その半分の5枚が一瞬にして消えた。


「はー食べた食べた。」


 リラ様はそう言いながらも、6枚目にシロップをかけている。5枚目まではシロップもかけずに食べたから、きっと飽きたんだな。いったいどれだけ入るんだ。その身体に。痩せの大食いなんだな。


「そう言えば、ゴディバチョフは何か言っていたかい?」


 突然の話題転換に頭が付いていかない。なにを知っているんだろう。この人は・・・?

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