閑話 『勇者』様とお友達になりました2
ブクマ&評価ありがとうございます。
励みにさせて頂いています。
「アレックス様!」
そう呼びかけると周囲の人々が湧く。
「アレックス様だって! アレクサンドラ。この娘と知り合いかい。相変わらず手が早いことだな。」
「ユウヤ!」
「獣王国で助けて頂き、ありがとうございました。あの時は碌にお礼も言えず・・・。」
ユウヤと呼ばれた男がアレックス様を嫌味タラタラと垂れ流している。アレックス様はモテるらしく周囲に憧れの視線を向ける女性が多く居た。
私はその男を無視して言葉を続けると、その男がさらにゲラゲラと下品な笑い声を出す。
「そうか。そうか。獣王国のアレックス様か。こりゃあいい。」
「・・・。」
私は何かを間違ったらしい。アレックス様が、アレクサンドラ様が真っ赤になって俯いてしまった。
こんな・・・私は、この方に本当にお礼を言いたくて出てきたはずなのに・・・決して恥をかかそうなんて思っていないのに・・・。
「止めてください! 笑わないでください!!」
私が涙を浮かべながら、その男に詰め寄る。
「わ・・わかったよ。うぜえ女だな。笑わないよ。」
「この件では一生、アレックス様を笑わないでください!」
私は相手に視線を合わせて詰問する。
「わかった。わかったよ。」
そう言いながら、その男は何処かに消えていった。一族の呪いで約束させたことは心理的圧迫感を感じるらしく、余程強い心を持っていないと破れないのだ。
「アレクサンドラ・アール・ハイエスよ。本当の名前を名乗らないでごめんなさいね。」
アレクサンドラ様と名前をお聞きしたときから、思っていたが・・・やはり、ハイエス伯爵家の人なんだ。
ハイエス伯爵家は我が一族の噂と同様にロシアーニア国で黒い噂が絶えない伯爵家として有名だ。ロシアーニアに居る友人の100人に99人は、その噂を信じている。
こう言ってはなんだが、たかだか一伯爵家が公然と噂されるくらい人身売買や人殺しなどの悪事に手を染めていれば、おのずと捜査のメスが入ることなどわかりそうなものだ。
それなのに、代々黒い噂が絶えないということ事態、なんらかの強制力が働いているとしか、思えないのである。おそらく、ビクトル男爵家と同じような呪いを掛けられているのに違いない。
「やっぱり。私のこと、恐い?」
「そんなことないです!!」
思わず大声で叫んでしまう。
「ちょっと、こっちへ来て・・・。クリエ侯爵、ちょっとお借りしますね。」
私はアレクサンドラ様に手を引かれて、庭に出て行く。王宮の庭は色取りどりの花が咲いていて、あの男の所為でトゲトゲしくなった心を癒してくれる。
そのまま、誰もいないベンチに2人で座る。
「どうしたの。貴女のような心清らかで美しい人があんな大声を出すなんて・・・。」
嫌だ。アレクサンドラ様にも一族の呪いが効果を発揮している。ダメよ、泣いてはダメ。余計にアレクサンドラ様が悪者にされてしまう。
「そんなこと無いんです。守銭奴だし、カネのことしか考えていないような人間なんです。知っているでしょう? 私が獣王国でしていたことを・・・。」
私はどうやら、一族の呪いが効くのをいいことに獣王国でモノの値段を上げすぎたのだ。アレクサンドラ様は、それを教えに来てくださったのだ。もう少しやり過ぎたら、罰金刑では済まないところまでいっていたらしい。
「そうだったわね。でも貴女は悪くないじゃない。知らなかっただけでしょ。」
やはり、一族の呪いが効果を発揮して悪くないことにされてしまう。悪いことをして罰金刑まで決まったことを知っているのに・・・これだから・・・いつもは恩恵に預かれてラッキーとしか思っていなかったことだが、・・・今はツライ。
「信じられないかもしれないけど・・・我が一族の呪いなんです。どれだけ悪いことを仕出かしても、無かったことにされてしまうのです。心を強く持って、私がしたことを思い浮かべてください。それが分かるはずです。」
今まで試したことは無かったが、強い意志で呪いに望めば立ち向かえるはず・・・。
「あら本当ね。だから、あんな大声を出したのね。」
よかった。本当によかった。分かってもらえた。でも、一族の呪いを他人に告白したのは初めてだ。それも正反対の呪いを持つこの人に告白してしまった。絶対に嫌われる。
「羨ましい・・・といっては失礼だわね。でもデメリットもあるんでしょう?」
返ってきた言葉は優しいものだった。
「ええ、儲けられることがあっても他人と組もうとすると諌められてしまうんです。それに・・・。」
「へえ。それで1人で商売をしているのね。それに?」
これって、デメリットかな。人によってはメリットかも・・・でも口に出てしまったものは戻せない。
「男性を好きになると『君にはもっと良い人が居るよ』って社会的地位の高い人を勧められるんです。代々の直系は必ず後宮に入れさせられてしまって・・・。」
「それは酷いわね。自由に恋愛もできないのね。ねえ、友達になってくれないかな。私たち、上手くやっていけると思うんだけど・・・。」
思いもかけない言葉が返ってくる。この方と友達?
「あのね。正直に言うと貴女を利用したいの。私ならどのあたりが商売として大丈夫な領域が分かるし、もし、多額な利益が上がる商売で相手に何かを言われても、ハイエス伯爵家と組んでいると言えば、引き下がってくれるわ。ダメかな。」
正直すぎる。というか、きっと本気で言ってないのだろう。私を慰めるためにご自分を卑下してまで言ってくださっているのよね。
「そんな・・・こちらこそ、お願いします。」
傍に居られる提案に思わず飛びついてしまう。こうして、私は『勇者』様と友達になった。今はざっくばらんに友達付き合いしているけれど、いつもいつも助けて貰っているのは私だ。感謝してもしたりない。いつか、ご恩返しできるといいな。