閑話 『勇者』様とお友達になりました1
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閑話が2話入ります。
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我がビクトル男爵家の主家は皇帝家だが、まさか要望などを皇帝に持ち込む訳にもいかないので、便宜上クリエ侯爵家と繋がりがある。
クリエ侯爵家は帝国創世記から皇帝に仕える老舗中の老舗侯爵家だが、ビクトル男爵家よりも僅かに遅い時期に伯爵として取り立てられたためか、男爵家を立ててくださる方だ。
特に今は魔王討伐で疲弊しきった国々にやや余裕のある帝国が無利息の資金を貸し付けることで友好関係を築こうとしており、そういった国々と友好関係を促進してくれた商人たちを中心に新たな男爵家が乱立している時期でもある。
しかし、決して利に走らず過激な行動も慎む、保守本流としては珍しい侯爵家なのである。
歓迎パレードの『勇者』の席にアレックス様を見つけた私は、クリエ侯爵家に駆け込んだ。
「ほう君がビクトル男爵家の・・・。美しく成長されましたな。先のエル王国との戦いでは十分な補償もできず申し訳なかった。そのときにお会いしているのですが、覚えておられますかな?」
私が首を振ると気を悪くすることもなく、うんうんと頷いてくれる。我が一族の呪いの所為なのか、侯爵の元々の性格によるものなのか判断が難しい。
「何かお願いがあると聞きましたが、なんでも言ってください。あのときの補償の代わりにはならないかもしれないが、出来る限りのことを致しましょう。」
これは一族の呪いの所為か手放しで言って下さる。
「『勇者』様に一言お礼を言いたくて・・・。以前、商売にために行った獣王国で助けて頂いて・・・それで・・・。」
私は言いながら、こういう例はごまんとあるんだろうな。と、後悔し始めていた。
「ほう。獣王国にまで行かれたのですか、大変苦労なさったのですね。『勇者』ユウヤ様ですか? それともショウコ様ですか?」
それでも侯爵様はまるで自分の娘の話を聞いているように慈愛の笑みで受け答えしてくださる。
「アレックス様です。」
言ってしまってから、あの方の本当の名前を知らないことを思い出す。獣王国でお会いしたときは、男装姿でそう名乗られたため、それ以上お聞きしなかったのだ。
「アレックス様ですか?」
「あ、いえ。その時は男装されていて、そう名乗られたのですが・・・。良く考えたら違いますよね。今日のパレードでは、伯爵家だと思うのですが、女性の正装で手を振られていました。」
「ああ、アレクサンドラ様ですね。あの方と面識があるわけですね。それは、ちょうどいいかもしれない。あの方々にもそろそろ、目を覚まして貰わなくては・・・。」
アレクサンドラ様と仰るのか。そうか、アレクサンドラ様・アレクサンドラ様。心に刻み付けるように繰り返す。
「丁度、今夜王宮で晩餐会が催されるのだよ。私の随行員としてついておいで。」
「そんな・・・私、晩餐会に出られるドレスなんて・・・唯一、持っているのは、この男爵としての正装のみなんです。この格好ではダメですよね。」
この格好で侯爵の前に出るのも躊躇われたが、ドレスを買うお金なんて、うちには無いので仕方なしに男爵としての正装でお会いしている。
「ダメです。それでは君の美しさが引き立たない。うちの娘たちのお下がりで申し訳ないが、君にピッタリのドレスが見つかるはずだ。なにせ、うちの娘たちは浪費家だったからな・・・捨てるに捨てられないドレスが100着も残っているんだ。」
侯爵令嬢は全て嫁いでらっしゃるようだ。男親としては愛情たっぷりにドレスをプレゼントしていたのだろう。きっと、思い出の逸品ばかりなのだ。
*
お下がりとはいえ、目の前に並んだドレスの数々は、見たことも無い煌びやかな逸品ばかりで目が眩むばかりだ。手縫いのレース生地から斬新な形のもの、そして本物の宝石がついたものまであって、1着だけで男爵の年金を遥かに越えるに違いない。
「ティナとお呼びしてもいいかしら・・・。」
侯爵家でお風呂を頂き、侍女の手で髪を結い上げられる。と、バトンを渡すかのように侯爵夫人が現れる。
「はい。侯爵夫人。」
私はボロを出さないように慎重に答える。
「本当に綺麗な髪・・・肌も健康的な色をしていて・・・うちの娘たちの地黒とは違って、どのドレスもとっても似合うに違いないわ。」
そう言いながらも私の顔を見ていないところをみると、嫁いだ娘さんたちの顔を思い浮かべているのだろう。ありし日の娘さんたちになりきって、楽しく過ごせばいいのだ。と、思うと少し気が楽になった。
「そんな・・・。」
なるべく、その思い出を壊さないように言葉を添えていく。
「これなんかどうかしら・・・。」
そう言いながら、本当に100着以上ありそうな衣装から選んでいく。
ドレスを付ける前にコルセットを付ける。かなり苦しい。ドレスとは無縁の世界を歩いてきたからだろう。決して太っているとは思いたくない。
コルセットさえ入ってしまえば、ドレスを試着するのは大して苦しくない。サイズも僅かに身長が足りないくらいで、詰めればなんとかなる範囲だ。
「これなんか、よく長女が着ていたドレスなんだけど・・・妊娠後には入らなくなってしまってね。泣く泣く置いていったのよね。着てみてくださる?」
目を細めながら、そう仰る。
「はい。侯爵夫人。」
「本当に可愛いわね。後ろ姿なんか昔の娘にそっくり。そこでクルリと回って、『お母様』って仰ってくださらない?」
「お・か・あ・さ・ま。」
私は言われた通り、その場で上手くドレスが翻るように回る。と、タドタドしく言う。
「どうしたの?」
「ごめんなさい。私の母は私が生まれたときに亡くなっているので、言いなれていないのです。今、生きて傍にいてくれたらと思うと・・・ごめんなさい。泣いてしまって・・・。」
今まで女性としてドレスを着て夜会に出る機会なんて無かったから思わず感極まって、涙が零れてしまったのだ。結局は私も侯爵夫人を通して、見たこともない母を思い浮かべているのである。
「すいません。失礼なことを言ってしまいました。お許しください。」
その場で腰を折り謝る。
「そんなことを言わないで! 我が侯爵家に繋がる男爵令嬢なら私の娘も同然よ。だから、毅然としていて頂戴。」
そう言って侯爵夫人は優しく抱き締めてくださるのだった。