表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

3/15

2. 暴利を貪る善良令嬢

評価&ブクマありがとうございます。

励みにさせて頂いています。

「はい。ここに・・・。」


 おかしい。これだけの大きさのものを食堂の隅とはいえ、置いてあったのに目に入らなかったのだろうか。大丈夫かな・・・この料理長。


「・・・屋台ごと持ってきた・・・ん・・・ですか? まあいいでしょう。料理人は使い慣れた調理道具を必ず持参するものですから・・・。」


 どうやら、屋台を持ち込むことは想定外だったようだ。それでも一族の呪いの所為か良い方向に解釈される。


 まずは熱源であるコンロに炭を配置するところからだ。一定間隔に穴が開いたところに炭を配置していく。私のようなドシロウトでも鉄板面の温度ムラが出来ないように考えられている。


 それでも、炭の長さは同じに切りそろえられているが、太さによっては温度ムラが出てしまうために良く考えながら配置していく。


 鉄板の上下左右4箇所のコンロが独立しており、それぞれ手回しで高さを調節できるようになっている。例えば、焼きそばを調理する場合、客に近い上面を保温用に遠火にして、手元の下面を調理用に近火にするといったこともできるようになっている。


 今回はホットケーキ用なので右下の1面だけ調理用に近火で、あとの3面は保温用の遠火だ。


 初めは飛ぶように売れていくホットケーキの屋台を曳くのになぜ保温用のコンロが必要なのかわからずに良く失敗したのだ。1面だけ炭を置いて、残りの3面に炭をケチるとなぜかあっという間に炭が燃え尽きてしまう。


 親友アレクサンドラが言うには炭に対してサンソがどうのって言っていたけど、良く理解できなかった。4面炭を配置すれば1日持たせられるのだが、1面だと4回炭を交換しても半日しか持たせられない。しかも、交換している最中はホットケーキを焼けないので売り上げが減ってしまう。


 結局は彼女の言う通り、4面全てに炭を配置して使っている。


 着火は日常魔法の『コンロ』魔法を10分間使用するだけで簡単に付けることができる。日常魔法とは魔法が使えない一般人でも呪文を唱えるだけで簡単に使えるようになっている。例えば、『コンロ』魔法ならば60分くらいは誰でも使える。これが使えないのは魔力が殆ど無い獣人くらいだ。


「ほう。これは・・・こんなふうに温度管理で出来るのですか・・・なるほど・・・。」


 料理長から屋台のコンロについて矢継ぎ早に質問が飛んでくる。作業としては、単純で1年以上屋台を曳きなれた私にとって容易いことなので、質問に対する返事を良く考えながら答える。


 どうしても、細かい仕組みはアレクサンドラしか分からないので秘密と言って笑うしかない。


「そうでしょうね。これだけのモノを真似されたら大変だ。この仕組みも貴女が考え出されたんですか?」


「いいえ。私の友人です。」


「トニー! このコンロが欲しい。予算を組んでくれないか?」


「分かりました。資材に書類を提出しておいてください。」


 よし! お客ゲット!! 時折、このコンロに惚れこむ料理人が居るのだ。コンロの代金の約4割が臨時収入として私の懐に入ってくるから、臨時収入としては美味しい。


 しかも、炭は一般に売られているものと長さが違う。一般に売られているものでは温度管理が難しい。ただ長さを切りそろえるだけで専用の炭として定期収入も得られるようになっている。


 万が一、長さの秘密がバレて収入が入ってこなくなれば、一族の人間を派遣してお願いさせれば必ず復活する。私が涙を見せれば罪悪感からか、新たなコンロを購入するところまで行き着くことさえある。


 こんな美味い商売は無い。何故、こんなに美味い商売になっているかというと親友の一族や裏の商売人たちでは、表の料理人に信用してもらえないかららしい。


 樽のような入れ物に大量の材料を放り込んでいく。最後に炭酸水を入れたら終わりだ。ホットケーキのレシピも親友が考えたらしく、私も教えて貰っていない。およそ200枚分のホットケーキの材料として袋に入った粉と炭酸水が裏の商人たちを経由して送られてくるだけだ。


 肉厚に焼きあがったホットケーキを2枚重ねて、屋台用の紙皿にのせてシロップを添えて料理長の前に置く。世紀の一瞬だ。吉と出るか、凶とでるか勝負だ。


「ふむ。見た目も美しい。ナイフを入れたサクッとした感触が中々良い。」


 まずは、シロップを付けずに食べるらしい。三角に切り分けた一片を食感を味わうように口にする。良く味わうように咀嚼され飲み込むと、すぐにシロップに手を出した。


 どうやら、美味く焼けたようである。


 万が一、生焼けのモノを出してしまった場合は涙を見せて及第点を貰うつもりだった私はホッとする。


「うん。美味い。これをこの値段で出せるというのかね。薄利多売で有名なデザート店でも10倍の値段をつけるに違いない。」


 原価はこの食堂のデザートの上限価格のおよそ1割程度だ。本来、これほどふっくらと焼き上げようとすると卵を入れる必要があるのだが、高級食材を入れれば原価が20倍くらいに跳ね上がる。


 その代わりに炭酸水を使って膨らましているのである。


 そこでこっそりと上限価格の8割の価格を提示する。これが親友が設定した価格だ。これでも、十分に儲けられる。


 今まで屋台を曳いて200枚分の材料を使って原価ギリギリ、つまり25枚しか売れなかったことなど、ブーム末期でも無かった。せいぜいが土砂降りの雨の日に20枚売ったのが最小枚数だ。


「えっ。それでいいのかい?」


「はい。さらに生クリームと季節の果物を添えたものを上限価格で売ろうと思っています。」


 ブーム末期に慌てて工夫して売った中では、生クリームと季節の果物を添えたものが圧倒的に多く売り上げれたのである。


「それはいい! では、明日から売ってくれるか。」


 えっ!


 今日からじゃないの?


 朝から試食させて欲しいということだったから、材料全部投入しちゃったじゃないの!!


 残り198枚の材料はどうするのよ!


 仕方が無い。何処かの軒先を借りて、屋台を曳くか・・・。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ