11.誑しこまれる善良令嬢
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ロッテと別れ、アパートに戻る。道中はずっとリラ様と手を繋いでいる。そんなご褒美でも嬉しそうだ。
「それで私に手を差し伸ばしてきたのは、誰のご指示で?」
「ユーティー・・・あわわ。そんなことないよ。私の純粋な好意なんだ・・・って無理だよね。」
ガックリと肩を落すリラ様だった。
国王様なんだ。そうするともう友好条約のことは伝わっているってことか。基本的にリラ様をメッセンジャーにして対話すればいいのよね。
でも情報が筒抜けなのは不味いわね。
「リラ様は、私のことが好き?」
私は首をナナメに傾けながら聞く。このポーズでにこやかに微笑むとほんのり赤くなる殿方も多いのだ。
「もちろん、大好きだよ。」
リラ様にも効いたようで真っ赤になりながら答える。
「私の情報を国王様にお伝えするのは構わないのですが・・・睦みごとの内容までは知られたくありません。ある程度は控えてもらえると助かります。」
「もちろん君が伝えてほしくない情報は伝えないさ。」
「本当ですか。嬉しい!」
私はそう言ってリラ様に抱きつき、往来でキスをする。いつの間にかリラ様の手が頭の後ろに入り込んでくる。こんな往来で濃厚なキスをかますつもりのようだ。まあ、ご褒美だと思えばいいか。
ここまで一族の呪いで縛れば、国王様にうかつな情報は流れないだろう。まあ、ある程度は流れても仕方が無い情報を渡せばいいだけだけど・・・。
*
翌朝、王宮食堂に伺うと料理長が頭を抱えていた。
「どうしたのですか?」
料理長の肩を叩きながら、声をかける。と、考えに没頭していたようで憔悴した顔を上げた。
「ああ、ティナ君。昨日の夜遅くにパン屋から連絡があって、オーブンが壊れたから予定の半分しか納入出来ないと言われたんだよ。」
主食が無ければ、客は王宮の外に出て行ってしまう。当然、売れるデザートも半分しか売れなくなってしまう。さらに食堂の評判が落ちれば、客自体が減ってしまうだろう。
「それは大変ですね。」
「明日からの分は、別のパン屋から納入させる目処はついたんだが今日の分が足らないんだよ。」
「あとどれだけ必要なんですか?」
「200食分なんだが、なにか名案でもあるのかな?」
200食か。ひとり2枚ならあれが使えるかな。
「ええ。お口に合うといいのですが、ホットケーキに砂糖を入れずに焼けばパンケーキと呼ばれ、主食の代わりになります。コーンとかあれば混ぜることでボリュームアップしてもっといいのですけど・・・。」
「あるある。丁度明日、使うつもりだった食材があるぞ。」
無ければ、200枚焼くまでに買ってきて貰おうと思っていたのだ。
「早速焼いてみましょう。コーン有りと無しを焼いてみますね。」
いつも通り200枚分の材料と炭酸水を投入し、砂糖を入れず一気に混ぜ込んでしまう。そこから、小分けしたタネにコーンを混ぜ込む。そして、いつも通りホットケーキを焼く要領で焼いていく。若干、ホットケーキよりも焼き目が少なく。食感は柔らかいが、これがパンケーキだ。
その間に料理長が今日のメインディッシュである焼きベーコンと焼きトマト、アボガドとブロッコリーを黄身がかったホワイトソースで和えたものを出してくる。
定食用プレートにセットのサラダを載せ、ドレッシングをかける。そこに僅かに重ねるようにパンケーキを載せ、そこに焼きベーコンと焼きトマトを重ねる。下のパンケーキにはアボガドの和え物を載せて完成だ。
「いいじゃないか。今日のメインディッシュにもマッチしている。色合いもなかなかだ。」
色合いはどうしても他の材料に依存してしまうが、うまく赤、黄、緑とバランスよく。まるで誂えたようにピッタリとフィットしている。
「じゃあ、食べてみてください。」
料理長はおもむろにナイフとフォークでコーンの入っていないパンケーキだけを口にする。
「これだけでもイケルな。」
次はコーンの入っているパンケーキを口にして、唸ったあと。アボガドの和え物をパンケーキに載せて口にする。
「う、美味い。これはパンに付けるつもりで作ったんだが、パンよりもこっちのほうが断然美味しい。」
「ありがとうございます。」
「だが、200食分焼く時間はあるのか?」
「大丈夫です。少々邪道ですが、鉄板の上に使える型があるのです。これを使えば、この食堂の鉄板でも使えます。」
「温度管理はどうするんだ。使い慣れた鉄板じゃないと難しいだろう。」
「大丈夫ですよ。これを見てください。」
私は掌を料理長に見せる。掌で温度を測るため、油跳ねでいくつもの火傷跡が残っているのだ。本当は、親友に会ったときに治してもらおうと思っていたのだが、1度皮を剥くという治療方法を聞いて怖気づいたのだ。
「おおっ。プロだ。まさにプロフェッショナルだ。俺も見せてやろう。」
流石に料理長にもなると全身、至る所に小さい火傷がある。
「凄いですね。その腕にある広範囲の火傷なんかヤバイですね。」
丁度、左手の手の甲から肘まで何かが流れたような火傷跡が残っている。
「ああ。これな、昔料理の師匠にボサっとして料理を焦がしてダメにしたときに熱した油をかけられたんだ。」
咄嗟に庇ったとすると顔の辺りだ。酷いことをする人間も居るもんだ。
「酷い!」
「そうか? 料理人の世界では普通にあることだぞ。俺はやらんがな。話して分からなければクビ、こっちのほうが早いからな。」
うっ。私なんかすぐクビになりそうだ。
「とにかく、焼いていきますから・・・。表面にプツプツと胞子が出来てきたら、ひっくり返してください。」
料理長は普段、料理に手を出さない。だから、手が空いているはずだ。他の料理人は自分の担当する料理で手いっぱいなのは見て知っているのだ。
王宮食堂にあった鉄板は歴史が感じられるほど黒光りしたものだった。既に熱せられていたが、更に薪を放りこんで温度をあげる。よし、これくらいだ。
屋台の鉄板の4分の1の大きさの型を鉄板の上に2つ敷くと、40枚分1度に焼ける。少々、材料が勿体無いがそこに一気に材料を流しいれる。
「屋台を曳いていたときは丸い枠の外にはみ出した分は試食用だったり、欲しい人にオマケでつけてあげると喜ばれたのですが、王宮食堂ではどうします?」
「そこはマカナイに回すよ。マカナイのパンも無いからな。皆がどんな感想を言うか楽しみだ。」
ひえぇ。他の料理人の口に入るらしい。
だが、他の料理人のアイデアも出てきそうで楽しみだ。もともと、このパンケーキはバリエーションが豊富なのだが、どうしてもデザート系のバリエーションが多いので食事系のバリエーションが増えれば店舗で出すこともできるだろう。
やっと、調理シーンが出てきました。
美味しそうに描けているといいのですが・・・。