8. 堕とされた善良令嬢
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励みにさせて頂きます。
「ではリラ様の自己紹介からお願いします。」
まあまずはここから。この人、濃い性格が邪魔をして実態が見えにくいのよね。
「ライラック・フォン・クラーク。前クラーク侯爵の末娘よ。リラというのは2代前の国王陛下から、後宮に入る際に頂戴した愛称なのよ。」
この人が後宮で国王陛下に抱かれている姿なんて想像がつかない。どちらかと言えば、側室たちにちょっかいをかけている姿が思い浮かぶ。だが、いったい幾つなんだこのひと・・・。
前国王であるマクシミリアン様が50歳くらいだったはず、その前の国王の側室ならば70歳を越えているということになる。どう見積もっても40歳くらいにしかみえないんですけど・・・。
「あっ。後宮に入ったのは姉の皇太后の子どもたちの行く末を見守ることだから・・・気にしないで! ソコ、年齢を計算しない! 私はマクシミリアンと同い年だから。」
指折り数えていると突っ込みが入る。それでも50歳くらいだよな。十分、バケモンだ。
しかし、ここまで正直に答えてくれるとは思わなかった。てっきり、永遠の20歳よ。くらいに誤魔化すもんだと思っていたのだけど・・・。一族の呪いは十分に効果を発揮しているみたい。
これなら、ズバリ聞いたほうが早いよね。
「現国王は帝国と友好条約を結ぶ気はあると思いますか?」
「そうねえ。条件が揃えば、あると思うよ。少なくとも、不可侵条約の延長は必要だと思うんだけど。仲介してくれるところがねえ。魔王討伐の件では国際社会から反感を買ったからなあ。」
そうなのだ。魔王討伐の際に幾ばくかの兵士たちは派遣したものの、血統魔法が使える王族は、僅か2名しか居ないという理由で派遣せず、国際社会で孤立しているのだ。
「安請け合いは出来ませんが『勇者』様なら、なんとかしてくれるかも。」
言ってしまってから後悔をする。そんな、おんぶにだっこな考え方はダメだ。と、宰相ドトーリーに言われたばかりじゃないか。
「それがダメなんだ。我が国は『勇者』様は帝国に取り込まれてしまったという考え方が主流で、少なくともエルフの里か、獣王国くらいでないと皆が納得しないわ。」
親友アレクサンドラなら、獣王国に顔が利くらしいけど・・・。流石にそんなことをお願いできない。そんな頼り方をして、解決してしまったら宰相ドトーリーに消されてしまいかねない。
それに誰も仲介してくれる国がいない今だからこそ、お互いが歩み寄って交渉のテーブルにつけるチャンスという考え方もある。
「交渉のテーブルにつく条件は何ですか?」
「最低限度、先の戦を起こした王弟の影響を排除して欲しいところね。」
「ローマイア公爵ですか? あの方は交渉に対して、影響力を与える力もありませんよ。」
先の戦を引き起こし、帝国に多大な損害を与えた所為で公爵という地位と僅かな年金以外、全ての役職を取り上げられてしまっている。流石に王弟という立場上、全てを取り上げて処罰できなかったらしい。
もちろん、他の貴族たちも一部公爵のお陰で成り上がった人間を除き、誰も従わない。帝国ではそれだけの存在だ。
「それだよ。我が国にとっては、帝国公爵という地位に居ること自体が脅威なの。それに水面下では、頻繁にちょっかいを出してきているのよ。不可侵条約締結の直前にも、交渉のテーブルについた官吏を暗殺しようとしたわ。『勇者』様が見破って事なきを得たけど・・・。」
そんなことがあったんだ。親友は常にそういった危険な立場に晒されてきたんだ。これは絶対に頼るべきじゃないわ。
「その暗殺しようとした人間は?」
「トカゲの尻尾のように切り捨てられて死んだよ。その時に暗殺者が持っていた情報が詳しすぎるんだ。絶対に私たちの身近で敵の首謀者は居るはずなんだ。だけど、そのときに徹底的に『勇者』アレクサンドラ様が探してくださったのだけど、幾人かの末端の構成員は見つかったが首謀者らしき人物は見つけられなかったよ。」
親友の名前がでる。親友が見つけられなかった人間を私が見つけなくてはいけないらしい。いったい、どうすればいいのだろう・・・。皆目、見当がつかない。
「だから、貴女が帝国貴族であることを漏らしちゃダメ。2重の意味で危険なことなんだから・・・。」
そうか。友好条約締結に動く私の存在は敵にとって脅威なんだ。しかも、この国の人間にも反感を買う存在。
「私が暗殺されるかもしれないってことですね。」
突然の危機に対して、身体が震える。一族の呪いの所為で余り身の危険を感じたことはなかったが・・・これからは、そうも言っていられないらしい。
「そうよ。だから、私の恋人にならない? 私が身近に居れば、どんな脅威からも守ってあげられるわ。」
これだよ。魚心あれば水心ということだろう。
「本当は国王様に守れって命令されているんでしょ?」
「うっ・・・うん。・・・まあね。おかしい、私なんでこんなに喋っているんだろ。もう年かな、こんなに交渉下手になっているなんて・・・。」
やばい。一族の呪いに気付きかけている。私は慌てて肯定する。
「そうですね。じゃあ恋人になりましょう。但し、キスと身体を触るところまでですからね。強引にベッドに押し倒したら、2階のお姉さまたちの部屋に駆け込みますからね。」
娼婦のお姉さまたちの反感を買うのは痛いけど、女将さんのところに居る娼婦たちには、しっかりと一族の呪いを植え付けてあるから、なんとかなるでしょう。
「えっ。いいの! やったー!! これで思う存分、若いエキスが・・・。あわわ、今の無しね。」
本当に大丈夫かな。この人。
「もちろん、私が恋人の間は浮気はダメですからね。」
「えーなんで?」
浮気を悪いとは思っていないらしい。
「なんでって・・・浮気する気なんですね。リラ様が寝物語に私のことを喋らないと言えるなら、かまわないですけどね。それでは恋人になるのを止めましょうか?」
「嫌だ。約束する。約束するよ。絶対に浮気をしない。」
馬の鼻面ににんじんをぶら下げてから、取り上げようとする手法は効くよなあ。あまり褒められた手法じゃないけど、背に腹は変えられない。なにせ、自分の命が掛かっているのだ。