7. 脅迫された善良令嬢
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アパートの4階にある私の部屋に案内する。ここは、数世代前のトップクラスの娼婦が使っていた部屋で2階・3階にある部屋とは広さが違う。ここ最近は、トップクラスにたどり着くまでにそこそこの年齢に到達されるため、仕事が終わったあとに階段の登り下りが大変らしく空き部屋が多いという。
高さがある分、安全性も高いということでこの部屋を斡旋されたのだ。
それに娼婦のお姉さまがたが住むアパートと有名だったため、敬遠されており家賃も格安だったことから、ここに決めたのだ。やっぱり、家賃が一番大事よね。
しかも、1階は警備担当の住まいとなっており、安全性も群を抜いている。まあ、知り合いに見つかると不味いけど・・・。
「懐かしいな。この部屋。私も一時期、この部屋に住んでいたことがあってね。」
えっ。この部屋に?
「同棲ですか?」
「違う。違う。そんなことをしたら、娼婦のお姉さまたちに殺される・・・。あわわ、今の内緒ね。」
どうやら、過去にそんな騒動を引き起こしているらしい。
「どうしようかな? 毎日、娼婦のお姉さまたちに会うわけだし、ポロッと言っちゃうかも・・・。それに今日、ここにリラ様が入ったと知ったら・・・。」
どうやら、弱みを握られているみたいだから、少しでもこちらに有利な取引にしなきゃね。
「止めてくれ! こんなところで修羅場を起こしたら、今度こそ永久に出入り禁止になってしまう。この間、やっと出入り禁止が解けたばかりなのに・・・。」
女将さんに出入り禁止にされていたらしい。それがリラ様の弱味なのかな?
「ここに住まわれていたのですか?」
「ええ、警備のために派遣されてね。」
ここに現国王陛下が住まわれていたわけだから、王宮に住まいを移すまでここで警備するしかないわけだ。
「なるほど、実は女将さんの警護をされているわけなんですね。」
あまり追い詰めすぎても逆襲が怖いから、助け船を出しておかなきゃね。
「そ、そうなんだよ。あの人は、こちらが苦労しているっていうのに非協力的なんだよ。まあ、娼館の中を兵士がウロウロしてほしくないというのも、わかるんだけどね。」
「だから、ツケが効くくらい通ってらっしゃるわけですね。」
少し引っ掛けてみよう。どうなるかな?
「う、うん。そうなんだ。大変なんだよね。娼婦のお姉さまたちの機嫌を取りながらの警備は! ははは。」
良く考えもせずに肯定しているよ。これは相当通ってそうだ。
「いったいどんな修羅場だったんですか?」
「うん、うん。偶々、街で見かけたお姉さまとデートしていたら、違う娼館の娘に見つかって・・・・・・。いやいやいや、何を聞き出しているんだよ。そんなはずはないでしょ。警備なの。ケ・イ・ビ!」
「ちょっと無理があると思いませんか?」
「えっ。・・・君はどっちの味方なんだよ。もう・・・。」
なるほど、この人をからかうのは楽しい。娼婦のお姉さまたちにもこんな風なんだろうな。いつもはからかっていて時折魅せる優しさに惹かれてハマってしまう訳だ。クセになりそう。ふふふ。本当に良く似ているな。親友に・・・。
「リラ様。お友達になってください。」
リラ様に視線を合わせてそう言う。
「うん。別にいいけど・・・。お友達なの?」
これでお友達決定だ。お友達から外れたことをしようとすれば、罪悪感と共に2重に呪いが降りかかるはずよね。この人、意外と権力を使うのが上手そうななんだもの。
「秘密の恋人ですか? 見つかったら、王都から追放されそうですね。」
「なんで、そんなに笑顔なの? ねえ、なんで?」
「私は、逃げるの得意ですからね。覚悟しておいてくださいね。」
一族の呪いを上手く使えば、一方的に悪者扱いにできる。これだけ、日々の行いが悪ければ信頼性抜群だ。
「なんで、逃げるの前提なの? 一緒にいてくれないつもりなの?」
「そう言えば、お話って何でしたっけ?」
「・・・・・・っ・・・つかれた。なんか、複数の娼館のお姉さまたち10人くらいと、喋った気分なんだけど・・・。」
やっぱり、娼館で娼婦のお姉さまたちにからかわれているのね。
「確か、ゴディバチョフ陛下のことでしたよね。」
私は、ボロを出さないように慎重に話を進める。
「そうそう、男爵様に伝言は無かったか、聞いておこうと思ったんだ。・・・あっ警戒しなくても大丈夫よ。警備のため、襲爵の儀式の場に居ただけだから。もちろん、警備は私ひとりだったから、他の誰かが知っているなんてことは無いから大丈夫よ。本当よ、本当。」
リラ様は私が緊張したのが分かったのか、慌てて言葉を繋げる。もちろん、一族の呪いの前で嘘をつこうと思ったら、こんな取り乱した状態では決して出来ないから、本当なのは分かっている。
それよりも伝言か・・・どう言えばいいのだろう。スパイをしてきてくれ。と、言われた。と、言うわけにはいかないし。困ったな。
「ええと、話では親善大使と聞いたのだけれど本当?」
私が黙り込んだからか、追求の手を緩めてくれない。でも、これぐらいならいいだろう。そのまま頷いて見せる。
「やっぱりね。多分、私が手助けできると思うから、なんでも聞いていいよ。実はゴディバチョフからお願いされているんだ。この国の貴族たちの動向なんか、わからないよね。ユーティーは直接、手助けできないから、フリーの立場を装える私ならと指名されたんだ。」
あ、あれ。なにか話が違う。お前はスパイだ。と、決めつけられて肉体関係を強要されるものだと思っていたのだけれど、違うみたい。
「だからさ。何でも聞いて欲しいんだ。どんなことでも話すからさ。何か話さなきゃいけない気分なんだ。なにか聞いてください。お願いだからさ。」
どうも、やり過ぎたらしい。弱味を握って、雁字搦めに一族の呪いで縛ってしまった。
ごめんなさい!
貞操の危機だと思ったの。
私は心の中でリラ様に向かって手を合わせたのだった。