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あの日から二週間。何事もなく平穏な日々が続いた。月曜日に二人で登校するところを見られ、クラス中から事情聴取を受けたのは語るまでもないだろう。
ただ不思議だったのは、昔からの知り合いは俺と白銀が付き合っていることにすんなりと納得したことだった。
ついこの間までまともな会話一つしなかったにも拘わらず、だ。尋ねてみてもみんなして歯切れが悪く、「当事者だからこそ見えないこともあるってことさ」と康介が訳知り顔で言ったのがやけに印象に残った。
昼休み、不思議に思いながら飲み物を買いに一階まで来ると、視線の先に篠宮先輩を見かけた。先輩は一階の奥に設置された部屋から出てきたところで、声を掛けようとしたが、先輩は思い詰めた表情のまま足早に反対側の階段で去って行った。
怪訝に思い、先輩が出てきた部屋を見ると、カウンセリング室だった。
思えばここ最近、先輩の様子がおかしかった。表情に翳りが見えたり、練習にも身が入っていなかった。
一瞬、追いかけるべきか迷ったが、白銀が待っていることを思い出し、放課後に話すことにした。
「待たせたな」
教室に戻ると白銀がすでに昼食の準備を終えていた。今までは母さんが弁当を作ってくれていたのだが、最近は白銀が作ってくれている。
「いえ、問題ありません」
飲み物を手渡し席に着くとさっそく箸を伸ばす。
「相変わらず美味いな。俺も昔練習したんだけどどうにもうまくできなくてな。なんかコツでもあるのか?」
「そういうのは特に。私は幼少から練習していますし、やはり慣れでしょうか」
「継続は力なり、ってことか」
「あとは月並みですが、食べる相手のことを想って作るのが大切なのではないでしょうか」
だとすると白銀は俺のことを想って作ってくれているのだろうか? そう考えるとやっぱり嬉しかった。