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 途中で鞄を回収すると、学校近くのファミレスに入った。店内はそこそこ席が埋まっている程度で、特に待つことなく席に着けた。 

「さて、どれにしますか……」

 対面で席に着くと、白銀はさっそくメニューを捲り、料理を選び始めた。

 俺としてはさっきのことで頭がいっぱいで料理を選ぶどころではなかった。メニューを選ぶかたわら、チラッと白銀を見ればなかなか決めかねているようで何度もメニューを往復していた。

 メニューを見ながら、考えるのはさっきのことだ。必死に考えて結論を出そうとするがあまりにも現実味がなさすぎる。すべて夢だったと言われればすんなり納得しただろう。

「貴方はどれがいいと思いますか?」

「えっ?」

 思考の渦に捕らわれていたせいで反応が遅れた。見れば白銀がメニューを指しながら俺の方に顔を寄せていた。

「実はあまりこのような店に来たことがないのです。ですから、なにかオススメのメニューを教えてほしいのですが」

「えっと、そうだな……」

 俺としても女の子と二人きりでファミレスに来たことなどない。しかも顔がすごく近い。

「これなんて、どうだ?」 

 少し声が上擦りながらメニューの一つを指さす。

「ふむ。ではこれにしましょう」

 どうやらお気に召したようだ。面倒だったので、俺も同じものを注文することにした。

 つつがなく食事を終え、やっと本題に入ることができた。

 つまり、さっきの現象は一体何だったのか、ということだ。

「貴方にはまず、信じてもらわなければならない大前提があります」

 続く非常識な台詞を白銀はさも当然のように言った。

「この世界には神がいれば、魔法も存在します」

「神に魔法……か」

 薄々、そういう非現実が絡んでくるんじゃないか、と疑ってはいた。しかし、にわかには信じ難い話だ。あんな体験をした後とはいえ、やはり信じられなかった。

 それを察したのか白銀は周囲の目を確認し、右手の人差し指をピンと立てた。

「?」

 注視していると指先が淡く輝きだした。

「!」

 白銀はナプキンを一枚取り、人差し指を押し付ける。すると、指の軌跡に沿うようにナプキンが切られていた。

とても滑らかな切断面だ。とても指でなぞっただけには見えなかい。軽く触れてみると仄かに熱が残っていた。単に切ったというより焼き切った、という感じだ。

「とりあえず、こんなところです。信じていただけましたか?」

 手品の類だと一笑に付すことは容易い。が、それは蛇足というものだろう。

「……仕方がないな。降参だ。今見たこと、全部信じるよ」

 さらに質問を重ねようとして、まだお互いに自己紹介もしていないことに気が付いた。

「そういえば、まだ自己紹介もしていなかったな」

「そうですね、では改めて。一ノ宮高校二年A組、白銀悠美です」

「一ノ宮高校二年A組、御堂(みどう)和明(かずあき)だ」

 お互いに手を伸ばし、握手を交わす。

「話を戻します。貴方は今、ある存在から命を狙われています」

「命を狙われている、って……一体何から?」

「貴方に恋する三人の【神憑き】からです」

「は?」

 恋? 俺、さっき命の危機に陥ったんですけど。

 聞き覚えのない単語もあったし、はっきり言って意味不明だ。

「順を追って説明します。まず、【神憑き】というのは神話の神、天使、悪魔、英雄など、超常の存在に気に入られ、その能力の一部を授けられた人間のことを示します。神が好み、憑く。故に【神好き】又は【神憑き】と書きます。私たちは基本的に後者の方で呼んでいます。【神憑き】は強力な能力を持ち、同じ【神憑き】でなければ対抗できません」

「そんな奴らがなんで俺の命を狙うんだ?」

「貴方に恋をしたからです」

 どうやら、俺に恋をする=俺を殺す、ということらしい。

 うん。全く理解できないことが理解できた。

「言ってみればその三人は貴方のことを殺したいぐらい好き、ということらしいです。良かったですね、文字通り死ぬほど愛されてますよ」

 つまり、要約すると、これから三人の女の子が俺に思いの丈をぶつけにやって来ると。そんでその愛を受け止めた日には見事に墓場行き(ゴールイン)、ということか。

「ハッハッハ。中々に面白いジョークだなぁ」

「現実逃避しないでください。あと、勘違いしているようですが全員女の子とは限りませんよ」

「すんごいありがたくない情報をありがとう。こんなの現実逃避でもしないとやってられないさ。っていうかそれは本当に確かな話なのか?」

「具体的な証拠を示すことは出来ません。疑わしくとも信じてもらう他ありません」

「……まあ、疑ったって仕方がないな。現にこうして狙われたわけだし。それに白銀は命の恩人だしな。信じるよ」

「それでは、これからについてです。護衛の都合上、私は貴方と行動を共にしなければなりません。なので、対外的には恋人同士ということにしようと思います」

「こ、恋人?」

「他に男女が一つ屋根の下で過ごすのに適当な理由がありますか?」

「それもそう――」

 ん? 今、変な単語が混じってなかったか?

「一つ屋根の下?」

「一つ屋根の下です」

「……」

「……」

「ええええええええっ!」

 この後お店の人に注意されたのは言うまでもなかった。

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