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5.宣言してみました!

 朝日がさんさんと降り注ぎ、小鳥のさえずりが辺りを包む。

 そんな清々しい朝に、アイリスはうんと伸びをした。


「今日も一日が始まりますね」

 聖水の入った瓶を袋に詰めながら、アイリスの妹、ステラがにこにこと笑顔を零す。

「はい。今日もいい天気で気持ちいいです」

 伸びをし終わると直ぐにステラの手伝いを始め、重い袋を小さい荷車へと積んで行く。

 容姿も良く似た二人は兎に角息がぴったりで、のんびりした行動もまたそっくりだった。

 大した量はない筈なのだが、アイリスとステラは毎日その作業に驚くほどの時間をかける。ゆっくりのんびりと作業をする二人は、漸く荷車に袋を積み終わり、ふうっと息を吐き出した。


「さあ、ドナさんのお店に急ぎましょう」

「はい」


 二人にしてみればかなり急いでいるつもりなのだが、その歩みはとてつもなく遅かった。

 アイリスが前で荷車を引き、ステラが後ろから押す。毎日の光景ではあるが、二人は今日は特に機嫌が良かった。


「お父さん、嬉しそうでしたね」

「はい。私も嬉しいです。まさか本当にこんな日が来るとは思っていませんでしたから」

 ステラが昨夜のことを思い出し、アイリスへと話を振れば、同じように嬉しそうな言葉が返ってくる。それに気分を良くしたステラは、尚も言葉を続けた。

「クレイグ様が家に養子に入って下されば、お父さんの負担も減りますね」

「はい。これでひと安心です。クレイグ様の願いも叶うし、お父さんも助かるしで、一石二鳥ですね」

 二人の家はいわゆる八百屋をやっている。とはいえ、家庭菜園で細々と野菜を作っている程度だ。それを毎朝王都の市場まで持って行き売っているのだが、二人の父親が一人でこなすのには少々辛い齢になって来ていた。

 そんな折、クレイグから話があると父親が声をかけられたのは数日前のこと。丁度アイリスに婚姻届を書かせた日だった。





「お時間を取らせてすみません、ヘイデンさん」

「いやいや、大丈夫だよ。まだ開店前だしね」

 王都へ野菜を売りに来たアイリスの父親、ヘイデンに声をかけ、クレイグは一緒に開店準備をしながら本題を切り出した。


「アイリスと結婚することになりました」


「え?」

 ピタリと農作業で荒れた手が止まり、驚いた表情のままヘイデンが固まった。

 きょとりとしたその顔は、どこかアイリスに似ていてクレイグは小さく笑みを零す。

「え? クレイグ、今、何て言ったんだい? その、アイリスと結婚するって聞こえたんだが……まさか、冗談だろう?」

「本気です」

 視線を合わせ、真剣な顔でクレイグが短く返事をする。もとより冗談など言わないことを知っているヘイデンは、慌てて手を振りクレイグを諭した。

「ま、待ってくれクレイグ。君は隣国の姫君と結婚するんだろう?」

「その話は断りました」

「なっ! どうして! いい話じゃないか」

 少し大袈裟に身びり手ぶりを添える癖のあるヘイデンは、小柄な身体をめいいっぱい使って驚いてみせる。

「ええ、確かに。ですが俺はこの国を離れるつもりはありません。両親の墓もあるし、何よりこの国の人たちに恩を返したいんです」

「それならもう充分返してきたじゃないか。君はこれから、自分の為に生きればいい。皆それを願っているよ」

「ならば尚更です」 

 静かに返事を返すクレイグに、ヘイデンはアイリスと同じ蒼い瞳を瞬かせた。

「クレイグ……縁談を断るということは、それなりに君にも責任というのが圧しかかってくる。国と国との話でもあるんだ。君がこの国の為にと言うのなら、この縁談はまさにそれじゃないのかね?」

 たった今自分の為に生きろと言ったばかりだが、つい国交のことを考えてしまい、そんな言葉が口をついて出てしまう。そんな自分の言葉を疎ましく思い、ヘイデンはぎゅっと拳を握った。

「勿論です。俺は、騎士団を退役します。そしてあなたの家に婿養子として入ります」

 あっさりとそう言い放ったクレイグに、ヘイデンは大きな衝撃を受けあんぐりと大きく口を開けてしまう。

 そんなヘイデンをほったらかしにして、クレイグがひとつ問いかけた。

「昔、俺が両親を亡くして直ぐ、俺を養子にしてくれると言ってくれましたよね。跡取りが欲しいからと。その気持ちはまだ変わっていませんか?」

 呆けていたヘイデンがはっと我に返り、大いに焦る。クレイグの質問をすっかり無視し、その前の会話へと話しを戻した。

「クレイグ、何故、騎士団の総長にまでなっておきながら、どうしてそんなにすんなりと辞められるんだ。良く考えてごらん、その立派な地位を手放すことにどんな利点があると言うんだい?」

「家族を手に入れられる」

「それなら、隣国に行ったとしても、同じだろう?」

「家族というのは、愛した人と、またその愛した人の愛する人たちと共に暮らして行くことではないんですか?」

 ぐっと言葉に詰まったヘイデンは、反芻するようにその言葉を頭で繰り返す。それはつまり、どういうことなのかと。

「俺はアイリスを愛しています」

 ヘイデンの解りやすい表情を見て、クレイグが言葉を付け足した。それは大いにヘイデンを吃驚させた。


 呆然とするヘイデンを前に、野菜を並べ終えたクレイグが立ち上がる。

「お時間を取らせました。では、俺はこれで」

 軽く会釈をするとクレイグはスッと姿を消した。


 クレイグが去った後、既に準備の整った露店へとヘイデンが目を向ける。

 話しながらも開店準備を滞りなく済ませたクレイグに、ヘイデンはほうっと感嘆の息を吐き出した。



「ずっと……ずっと思っていたさ。息子になって欲しいとね。こんなふうに、一緒に野菜を売れたらと、ずっと思っていたさ」


 転移魔法でその場からいなくなったクレイグに、ヘイデンは小さく言葉を零した。





 

 そんなクレイグからの結婚宣言を、ヘイデンはどう家族に切り出そうかと思い悩んでいた。肝心のアイリスはその日は随分と遅くに帰宅して、顔を合わせることもできなかった。そして次の日も、野菜を売りに朝早くに出かけてしまった為にアイリスとは会えず仕舞いだった。だがその夜、漸くその機会が訪れた。


「私、クレイグ様と結婚します!」


 拳を握り闘志を燃やすアイリスに、ヘイデンは面喰らってしまう。だがステラと母親は大いに喜び、お祝いだと騒ぎたてた。

 それにもヘイデンは面喰う。本来ならばここは驚くところだろうと、隣国の姫君の話しさえ出てこないことに唖然とした。


「アイリス、おめでとう!」

「姉さん、おめでとう!」


 二人ともが手放しで喜ぶ中、アイリスが力強く宣言する。


「これはクレイグ様を助ける為の結婚です! クレイグ様は隣国に行くのが嫌で、この国に残る為に私と結婚をすることに決めたそうです! ですから皆さん、クレイグ様を助けると思って、温かくこの家に迎えてあげて下さい!」

「勿論よ、アイリス! クレイグ様なら大歓迎よ! むしろこちらからお願いしたいくらいだわ!」

「はい! 私も大歓迎ですよ! クレイグ様がお兄様になるなんて、ものすごいことですから!」


 やいのやいのと騒ぐ女どもを横目に、ヘイデンは激しく肩を落とした。クレイグの口ぶりからアイリスとの結婚はお互いの気持ちが通じ合ってのことだと思っていたからだ。それが実は全くの空振りだということに気づき、呆然とする。

「ああ、そうだな……この娘はこういう娘だったな……」

 小さく呟き項垂れたヘイデンは、この後先日クレイグと話したことを家族に報告した。ただ、クレイグの本当の気持ちだけは隠しておく形で。これは二人の問題だからと。


■ ■ ■ ■ ■



「総長、本気ですか!」


 朝焼けに染まる騎士団の詰め所に、ロナウドの声が大きく響いた。

「ああ、昨日辞職願いが受理された」

「なっ!」

 一体いつの間に、と疑問を顔に張り付けてロナウドは改めて拳を握る。

「まだ早すぎますって! それに退役って!」

 実際半年の任期を残し、クレイグは総長を辞した。そればかりか、騎士団を退役することまで決定している。

「妥当だと思うがな」

 短く返事を返し、クレイグは執務室の窓を開ける。執務机の後ろに飾られている少し大きめの騎士団の旗がゆるく風に靡いた。

「縁談を断るのに出された条件に退役も含まれていたしな」

「えっ! あちらさん了承したんですか!」

 朝から良くそんな大声が出せると、クレイグは思わず耳を覆いたくなる。

「ああ、元々強い兵が欲しかっただけらしい。今は西の国の有名な剣士と交渉中だと文官が言っていたな」  

 その話に俄かにロナウドの表情が曇る。

「だとしたら、少し面倒な事になるかもしれませんね」

「面倒?」

「その剣士、ゴリラみたいな容貌なんだそうで……。正直、王族の姫君がそんなのと結婚するとは思えないんですけどね」

 ばりばりと頭を掻くロナウドに、ふうっと呆れたようにクレイグが溜息を零す。そして馬鹿馬鹿しいと言いたげに言葉を吐き出した。

「容姿云々の話ではないだろう、政略結婚というものは」

「はあ……まあそうですけど」

 嫌な予感を感じながら、ロナウドは更にガリガリと頭を掻く。こういう予感は何かと当たると、ロナウドは心の中にメモをした。


「それよりロナウド、引き継ぎをしておかなければな」

「ああ、そうですね。半年とはいえ総長が抜けてしまった穴は俺が埋めないといけないし」

 面倒だと顔に書いてあるロナウドの言葉に引っかかりを覚え、クレイグがすぐさま口を開く。

「何を言っている。次期総長はお前だろう」

 余りのやる気のなさに、流石に心配になってしまったクレイグは睨みながら言い放つ。それにぎょっとしたロナウドは、慌てて一枚の紙を机の書類から抜き取り差し出した。

「これを。次期総長が発表されました」

 今朝早くに回ってきた書類に、王族の推薦で決まった次期総長の名前が記されていたことを思い出す。出来る男はやっぱり違うと、すぐさま行動を起こせたことにロナウドは自分で自分を褒めてみた。勿論、心の中だけで。


「第二管区長のメルヴィンが次期総長だそうです」

 紙を見つめたまま動かなくなったクレイグに詳細を告げたロナウドは、それを僅かに後悔した。

「……これは、どういうことだ」

 地を這うような恐ろしい声でロナウドを問い質す。思わずぶるりと背筋を震わせたロナウドは、余りの迫力にびしっと背筋を伸ばした。

「どうもこうもありませんって! 王族の推薦でそうなっただけです! 俺に言われても困りますっ!」

 声を震わせながら一生懸命に弁解するも、クレイグの眼光は鋭くなるばかりだ。

「それに、俺はこれで良かったと思ってるんですよ! 正直、俺よりもメルヴィンの方が総長に向いてると思います! やる気は人一倍あるし、魔力だって強い! 転移魔法だって使えるんですよ!」

「お前だって使えるだろう」

「そりゃあ、使えますけどね……でもあれ、疲れるんですって。俺はそこまで魔力強くないし、使えるっていっても連続とかは無理です。その点、メルヴィンは俺よりも魔力が強いし、何より、総長に向いてます」

 納得してもらえるようにと一生懸命にメルヴィンを推すロナウドは、必死だった。もし万が一にも自分が総長にでもなってしまったらと、気が気ではなかったからだ。結局のところ面倒事が嫌いなロナウドだった。

「副総長は、このままお前がやるのか」

「はい、一応。まあ、メルヴィンが変えたいって言ったら、その時は仕方ないんですがね」

「そうか」

 辞める立場でそこまでは介入できないと、クレイグはやるせない思いを胸に小さく頷いた。それでもあと半年はロナウドが総長代理を務めるのだと思い至り、気を引き締める。

 とそこでもう一つ、紙に書かれた身近な名前を見つけクレイグは目を瞠る。

「ニールも異動なのか?」

「ええ。メルヴィンの後釜で、第二管区長に就任するそうです。あそこって実は結構精霊族が多い地域でして、ニールなら適任だと判断されたんでしょう。前々から話しはあったんですけどね。ほら、ユニコーンの大群が嫁探しに来て居ついちまったてやつ。それも確かこの管区内ですよ」

 ロナウドの言葉に、クレイグは目を輝かせた。

「そうか! ニールがそこの管区長か。よし、婚姻届の件を急がせよう!」

「こらこらこらっ! それは職権乱用でしょうが!」

「何を言う! 私はもう退役するんだぞ。それには当てはまらない!」

「うわっ、開き直ったよ・・・・・・」

 げんなりとして突っ込む気力も失せたロナウドは、がくりと肩を落とした。

 それでも何とか気をとり直し、ごほんとひとつ咳払いをする。


「ところで、総長は退役した後、職はどうするんです? やっぱり神父になるんですか?」

「いや。アイリスの家に婿養子として入り、家業を継ぐ」

「へえ~。そうなんですか。そんで、家業って何です?」

「八百屋だ」

 ぶふっとロナウドが噴出した。余りにも似合わないと。本当ならば腹を抱えて笑いたいところなのだが、クレイグの表情を見てその気持ちを改めた。

 とても幸せそうな、そんな顔をしていたのだ。

 そしてロナウドは思う。少しはここに未練があってもいいだろうにと。そんな未練を微塵も感じさせず、クレイグはただ幸せそうに笑うのだ。

 少しばかりの悔しい気持ちと、そして寂しい気持ちを抱きながら、ロナウドは静かに胸に手を当てる。


「おめでとうございます、総長」

「ありがとう、ロナウド」


 満面の笑みを浮かべ、クレイグはお祝いの言葉を受け取った。



■ ■ ■ ■ ■



 コンコンコン。

 ノックの音と共にその部屋へと辿り着いたのは、メルヴィンが首を長くして待っていたある書類だった。

「来たか!」

 書類を受け取り、そうそうに配達に来た部下を下がらせると、メルヴィンは勢い良くその書類の封を切った。

 それを呆れたように見つめていたルイザは、完全無視を決め込んだ。


「おおー、すごいぞルイザ! 流石は第三管区の諜報員だ! こんなにも簡単に素性を調べられるとはな!」

 おおはしゃぎをするメルヴィンを他所に、ルイザは懸命に自分の仕事に精を出す。


「なになに、東の村に住む精霊族の娘、アイリス。ほお~、これがクレイグの女か。何と、純血の精霊族だと! うぬぬ、クレイグめ、なかなかやるではないか……」

 純血の精霊族には美人が多いというのが常識で、思わずそこに食いついてしまったメルヴィンは、今まで付き合った女の中に純血がいなかったことに悔しい想いが込み上げた。

「なるほど、幼馴染か。やはりな。そんなことだろうと思っていた」

 そしてその悔しさが一気に吹き飛ぶ。

「ふむふむ、この女、妹がいるのか。姉と同じく金髪で目は蒼、小柄な体型で色白。姉妹は良く似ている、と。そうか……妹か。これは……使えそうだな」

 書類を隅から隅まで読み、ひとつの良案が浮かぶ。メルヴィンは人の悪そうな笑みを浮かべ、計画を練る為に何やら紙にメモを取り始める。

 それを一瞥して、ルイザがたまらず溜息を吐き出した。

「管区長、まさかと思いますが、その妹とやらに近づくおつもりですか?」

「ああ、そうだ。流石はルイザだな。私の考えはお見通しか」

 にやりと笑みを浮かべ、書類を机へと投げるとたった今書き出したメモを見直す。

「お見通しも何も、それしか芸がないじゃないですか」

「芸って……これはそんなものではない!」

 心外だと言いたげにムキになって言い返す。それが肯定しているように見えて、ルイザは益々呆れてしまう。

「またそうやって女性をたらしこんで傷つけて捨てるんですか? そういうのは良くありませんよ」

「別に私はたらしこんでなどいない! 向こうが勝手に勘違いして騒ぎ立てているんだ。私は今まで女に好きだの愛だのを口にしたことはない」

「思わせぶりな態度は取っているのでしょう? 結局それはたらしこんでいるのと同じです」

「失敬な! 私はそんなことなどしない!」

 ぷりぷりと怒るメルヴィンは、どんどんとメモに何かを付け足していく。そのメモの内容を想像もしたくないとルイザは今度こそ無視を決め込んだ。

 

 とそこへ、唐突に言葉が落とされた。

 

「何です、そのメモ?」


 ぎょっとした表情で、メルヴィンとルイザが声の主に顔を向ける。それににこりと笑顔を見せて、突然現れた青年は挨拶をした。

「あ、突然すみません。僕、ニールと言います。今度ここの管区長に任命された者です。今日は挨拶をと思いまして、伺ったのですが・・・・・・あれ? どうかなさいましたか?」

「ちょ、ちょっとあなた! 突然にもほどがあるでしょう!」

「そうだぞ! ここは管区長室だ、ノックをして入るのが筋というものだろう!」

「はあ・・・・・・ここってものすごく遠いんですよね。なので転移魔法で来てしまったのですが、廊下に出るはずが部屋の中に出てしまって。すみません。なかなか上手く魔法が使えなくて」

「だったら使うな! 横着しないで歩いて来い!」

「はい、すみません」

 解っているのかいないのか、さほど感情も込めずに謝るニールにメルヴィンは目くじらを立てる。だが二ールの容姿を見てその感情を押し込めた。

 緑の髪に尖った耳を目にし、所詮は精霊族、おっとりとしているこの種族には怒るだけ無駄だと直ぐに気づいた。

 それを立証するように、早々にニールが話題を切り替えてきた。

「あ、そうだ。ユニコーンの婚姻届の件は進んでいるのですか?」

 これまた唐突な質問に、ルイザの額に青筋が浮かぶ。それを目の当たりにし、メルヴィンが急いで口を開いた。

「いや、それほど進んではいないが。それがどうかしたのか?」

「ええ、まあ。ちょっと気になったもので」

「ふん、おおかた自分の婚姻届が受理されるのが遅いとか、文句が言いたいのでしょう?」

 いつもよりも低い声で会話に割って入って来たルイザに、メルヴィンは思わず背筋を凍らせた。だがそんなルイザの不機嫌な声も全く気にせず、ニールは軽く返事を返した。

「いえ、僕のではなく、総長の出した婚姻届が気になって」

 一瞬、二人が固まった。次いでメルヴィンが素っ頓狂な声を上げる。

「何だとっ!」

 それに驚いたニールは、何か拙いことでも言ってしまったのかと、また二人を怒らせてしまった事実に項垂れた。

「ふっ、そうか。よし、いいぞ! 良い展開だ!」

 ぶつぶつと何やら呟きながらメモの最後に『婚姻届』と言葉を付け足す。

「では私は用事があるのでこれで失礼する」

「ちょっ! 待って下さい管区長! 仕事して下さいよ、仕事!」

「そんなものはそこにいるニール君にやってもらえばいい。私は忙しいんだ。では、後は頼んだぞ!」

 そう言って転移魔法で音もなくその姿を消した。それに脱力しつつ、ルイザはぎんっとニールを睨みつける。

「じゃあ取り敢えず、この書類からお願いします」

「えっ!」

 有無を言わさず差し出された書類の束は、一日分の管区長の仕事だった。


この度は沢山の皆様に拙作を読んで頂きまして、本当にありがとうございます。

お気に入り登録も驚くほどして頂いて、こんな小説でごめんなさいと謝りたい心境でございます。

それでもこれを糧にこれからも頑張って書いて行きたいと思っておりますので、どうか最後までお付き合い下さればと思います。よろしくお願い致します。

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