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2.帝国騎士団、総長のお仕事は結構大変です

 帝国騎士団の置かれている詰め所は、王城の直ぐ近く、西門の真向かいにあった。三階立てのその詰め所はまだそこまで年期も入っておらず、帝国騎士団の青をモチーフにした大きな旗が壁に飾られ、その威厳を見せつけていた。

 そんな詰め所には日々、民からの要望や苦情、通報などありとあらゆる報告が成されていた。


「おいおい、うちは何でも屋じゃないんだがな」

「仕方ありませんよ。副総長。こう精霊族が多いんじゃ、自分たちでは解決出来ないことも多いでしょうから」

 ふうっと溜息を吐き、届けられた書類に目を通した副総長は灰色の瞳をすがめる。次いで横に立っている副総長付きの青年にたった今目を通した書類を突き出した。

「精霊族のお前が言うと、何か余計に腹が立つ」

 書類を受け取り総長の印を貰う為の箱へと入れると、嫌味などどこ吹く風で人間よりもやや尖った耳をぴくぴく動かしながらにこやかな笑顔を返した。

 それに余計腹を立てながら、副総長はガシガシと茶色の髪を掻き毟る。

 副総長、読んで字に如く、帝国騎士団に於いて総長の次に偉い地位にある彼の名は、ロナウド。面倒臭がり屋で仕事嫌いだと有名だが、後輩達の面倒見は良い方で何かと頼りにされている。それでも副総長という地位にいるのは、それなりに実力があってのことだ。

 そして副総長付きの精霊族の青年は、名を二ールという。すらりとした体型に相応しく、その容貌も繊細で一目で精霊族と解るほどに神秘的な印象を周りに与える。

「余り乱暴に掻き毟ると、禿げますよ」

 全く悪意の欠片もない穏やかな笑顔でそう言われ、ロナウドの不機嫌がピークに達する。

「余計なお世話だ! お前の緑の髪も禿げちまえ、こんちくしょう!」

「おお~、怖い」

 然してそう思ってもいない素振りで一歩後ろに下がり、窓際の壁に背を預けた。そのまま何気なく窓の外へと目を遣ると、「おや?」と二ールが言葉を零した。

「副総長……何やら問題が起きたみたいですよ」

 ほら、と言って窓の外を二ールが指し示すと、慌ただしく詰め所へと駆けて来る数名の団員が目に入る。

「はあ~、またかよ・・・・・・。ここんとこ何だかやたらと忙しいんだけどよ……何なんだ? 呪いか? これ、誰かの呪いか?」

「そんな訳ないじゃないですか~。副総長、現実逃避は良くないですよ」

 そうこうしている内に、二人がいる二階まで上がって来た団員達はノックもそこそこにバンッと荒々しく扉を開け放った。

「失礼致します! 緊急事態であります!」

 息を切らし、急いでここまで来たであろう団員達にロナウドはげんなりとした表情で「ああ、そう」と冷たく言い放つ。

「副総長、やる気出して下さいよ……」

 少々呆れ気味にそう言うと、二ールがすっと背筋を伸ばした。

「報告をお願いします」

「はっ! 国の入口付近で、ゴーレムが立ちはだかっております!」

 「……はあ? ゴーレム?」

「はっ! どうやらこの国を自分の守るべき場所だと勘違いしているようで、近付こうとする者を全て排除しているようであります!」

 息を整えつつ敬礼をして簡潔に述べた団員は、見るも無惨な格好をしていた。服はぼろぼろで、髪は泥だらけ。ゴーレムを相手に戦った跡が見受けられ、ニールは「ご無事でなによりです」と団員たちを労った。そして考え込む。数人がかりでもこの有様では余程の大人数でかからなければ排除は出来ないと。

「はあ……また厄介な……。つうか、ハタ迷惑だな……うん」

 ゴーレムとは、普段自分の守るべきものの為に動き近寄ろうとすものを全てを敵とみなし、攻撃する習性がある。その身体は泥で出来ていて非常に硬く、防御能力も高い為、攻撃魔法も物理攻撃もなかなか効かない非常に厄介な存在だ。

「このままではこの国の物流に大きな影響を与えかねません! どうにかして欲しいと民からの要望がありましたが……どういたしますか?」

「どうするって、そりゃあ……排除するに決まってんじゃねえか」

 腕を組み、椅子の背凭れに背を預けながら当たり前だろうという態度でそう返すと、すかさず横から言葉が飛んで来た。

「排除って、簡単に仰いますが……誰がやるんですか? ああ、そうか! 副総長がやって下さるのですね! それは素晴らしい!」

 ぽんと手を叩き納得したようににこやかに爆弾発言をする二ールに、ロナウドが声を荒げた。

「こらこらこらっ! 勝手に決めるな、この野郎! 俺にんな度胸と力がある訳ねえだろうが!」

「そこは威張って言うことでもないと思いますが……」

「うっせー!」

 言葉の攻防に若干引きながらも、敬礼をしたままの団員が急いでいるのだと言いたげに間に割って入る。

「既に何人かがこの国に入れず、困窮しております故、なるべくならば夜にならない内に解決を、とのことなのですが……」

「ああ、解ってるって……。取り敢えず、総長に相談だな」

 面倒臭そうに椅子から立ち上がると、隣の総長の部屋へと足を向けた。

 副総長の部屋と総長の部屋とは扉で繋がっている為、わざわざ廊下に出る必要もない。だがそれはあくまでも副総長のみが使える扉であり、他の団員は一旦廊下に出て総長の部屋へと入らなければならない。


 ばんっとノックもなしにいきなり扉を開け放ち、ロナウドが総長であるクレイグの部屋へと押し入る。と、部屋の奥に備え付けられた少し大きめの執務机で書類整理をしていたクレイグは、途端に怪訝な表情を向けてきた。それを全く気にも留めず、ロナウドが口を開く。

「という訳で、総長! 今すぐ国の入口に行きましょう!」

 どこをどうして『という訳で』なんだという突っ込みは、残念ながら成されなかった。一応、切羽詰まった感じでそう大声で言ってみたが、クレイグは未だ眉間に皺を寄せたままその場から動く気配を全くみせない。それどころかロナウドの言葉をすっかり無視し、書類のサインを続けてしまう。

「おいおいおい! 無視かよ、おい!」

 自身の突っ込みは完璧なのだが、如何せん言葉が足りない。

 手にしていた書類を読み終わり、クレイグはサインをし箱に入れるとそのまま次の書類を手に取った。 そこで総長の部屋の扉がノックされた。

「入れ」

 短く返事を返すと先程の団員数名と二ールが入室し、背筋を伸ばし敬礼をする。それを一瞥すると、また書類へと視線を戻し「どうした?」と言葉を継げた。

 先に入室したロナウドを見遣り、団員たちが報告をして良いのかと目で訴えかけると顎をしゃくり『お前たちがしろ』と無言で命令をされる。それを受け、団員の一人が口を開いた。

「執務中、失礼致します! 国の入口付近でゴーレムが立ちはだかり、入国出来ない者が多数出ております! その為、ゴーレムの排除をして欲しいとの要望が出ておりますが、如何なさいますか?」

 ハキハキと報告を済ませ、そのままの体勢でクレイグの返事を待つ団員たちは緊張の余り顔が強張っていた。

 総長であるクレイグは、その怜悧な容貌と寡黙さが相まって団員たちの間では『怖い上官』というイメージが定着していた。対して砕けた話し方をする副総長のロナウドは、何でも相談出来る兄貴分のような存在だ。

 そんな『怖い上官』を前に、団員たちの背筋はピンと伸び、放たれる言葉を固唾を呑んで待っていた。

「ゴーレムか……面倒だな」

 そう言ってロナウドへと顔を向けたクレイグは、無言で『お前がどうにかしろ』と圧力を掛ける。

「あー、総長。ゴーレム相手じゃあ、団員が幾らいたって足りませんって。出来れば総長に出て頂きたいんですがね」

 がりがりと後ろ頭を掻いて一応申し訳なさそうにお伺いを立てるロナウドに、クレイグはどこまでも冷たい視線を投げていた。

「この前もそう言って、私がドラゴンを追い払ったと思うが? 他にも、人間を追い駆け回していた精霊獣の相手も私がした筈だ」

「しょうがないじゃないですか! 俺たちじゃあ、手に負えなかったんですから」

 少々開き直り面倒臭そうに言い訳をすると、すっとクレイグの目が眇められた。

「執務が忙しい。見ろ、この書類の山を」

「はあ……それはご尤もなんですが……」

「これ以上仕事を増やすな。そして、増やさないように努力しろ」

 もはや言うことはないと、書類へと目を戻したクレイグにロナウドが尚も言い募る。

「ですがこのままじゃあ、ゴーレムが邪魔で物流が途絶えますけど、それでも良いんで? 正直そうなると、益々書類が増えると思うんですが」 

「だから、そうならないように努力しろと言っている」

 しんっと辺りに沈黙が下りた。

 そして、一つの言葉が投げ掛けられる。


「手伝おうとは思わないのか?」


「は?」

「私の執務を、手伝おうとは思わないのか、と聞いている」

 じっとロナウドを見据え返事を待つクレイグに、二ールと団員たちが察しろというようにロナウドに目を向けた。

「……手伝って欲しいんですか?」

 またまたしんっと沈黙が下りた。

 そして、ロナウドに向けられていた二ールと団員たちの視線が無言で『手伝ってやれ!』と言っている。

「あー、俺なんかで良かったら、執務の手伝いくらいしますけど? っていうか、言ってくれればいつでも手伝うのに……」

 本当は面倒だがそれでも頼まれればそれなりにやるのにと、不器用な上官にロナウドは思わず口を尖らせた。

「そうか……」 

 その言葉を聞いた途端、すぐさまクレイグが椅子から立ち上がった。そして上着を羽織り、そそくさと準備を始める。

「帰って来たら、ここにある書類の整理を頼む」

 念を押すように言うクレイグに「へいへい」とうんざりしながら返事をし、隣の自室へと戻りロナウドも上着を羽織った。







 国の入口、正門付近では、既に野次馬が取り囲み、帝国騎士団の到着を今か今かと待っていた。野次馬でごった返したその場所は、馬車の停留場がある以外特にめぼしい建物もなく茶色い地面がただ広がっているだけだった。

 それは国の正門を出た『外』も一緒で、見渡す限りただただ茶色い荒野が広がっている。

 正門を入って真っ直ぐ奥へと進んで行くと大きな噴水があるのだが、野次馬たちはその噴水の方まで詰めかけちょっとした騒ぎに発展していた。


「来たぞ!」

「帝国騎士団だ!」

「おお、これで何とかなるな! 良かった。一時はどうなる事かと思ったよ」

「何言ってやがる! さっき、騎士団の連中はゴーレムに歯が立たなくて逃げてったんだぞ!」

「そうだそうだ! 腰抜けもいいところだ!」

「だったらあんたが倒せばいいじゃない! 出来もしないのに陰口叩いてんじゃないわよ!」


 各々反応は違えど、騎士団の到着に浮き足だった野次馬たちはそれでも道を開け、ゴーレムの居場所を指し示す。

 騎馬してここまで来たロナウドと二ール、そして団員たちは、野次馬の多さに驚きつつゴーレムの姿を確認し青褪めた。身体の大きなゴーレムは、その巨大さ故に遠目からでもはっきりと見て取れた。

「うわ~、結構でかいな。俺、初めて見たけど、あんなのと良くやり合おうって思ったな、お前ら」

 騎士団の副総長らしからぬ発言に、「ごほん」とわざとらしく二ールが咳払いをする。

「何だよ、本当のことだろう? だったらお前、あんなの相手に何とかしようとか思うのかよ?」

「それは勿論、一応それなりには頑張るでしょうね。まあ、直ぐに退散しますけど」

「だろう?」

 同意を得られ、そんなのは当たり前だと言って退けるロナウドに一応頑張った団員たちは冷たい目を向けた。そんな視線など物ともせずに、国の入口付近で屯している野次馬たちの前に立ち、ロナウドが声を張り上げる。

「はいはい、下がった下がった! とばっちり喰いたくなきゃ、ずっと後ろまで下がんな!」

 とても由緒ある帝国騎士団の副総長とは思えない言葉遣いで、野次馬たちを後ろまで下がらせようとする。だが事の成り行きが気になって仕方のない野次馬たちは、そんな言葉には耳を貸さず後ろに下がろうとする者は一人もいなかった。


「ほらほら、怪我しても知らねえぞ!」



 馬を器用に操り、野次馬たちを後ろへ後ろへと団員たちがじりじりと下げていく。

 そんな中、二ールが馬を駆りゴーレムへと真っ直ぐに向かって行った。


「おい、あいつゴーレムに向かって行ったぞ!」

「大丈夫かよ! 一人で行ったって、直ぐやられちまうぞ!」

「おい、総長様はどうしたんだよ!」

「あんなの、クレイグ様じゃないと、相手出来ねえだろうよ!」

「早くクレイグ様を連れて来いよ!」


 やんややんやと騒ぎ出した野次馬たちを静める為に、ロナウドが声を上げる。

「総長ならもう来てるよ! これからゴーレムを排除すっから、兎に角後ろに下がれ!」

 少々投げやりな言い方だが、言う事を聞かない野次馬たちを制すにはお上品なことはやっていられない。

 ゆっくりと野次馬を後ろに追いやり、暫くするとロナウドが手を挙げた。


「よお~し、正門を閉じろ!」


その言葉に、野次馬たちが一斉に声を荒げた。


「何だと! 門を閉じたら見えなくなるじゃねえか!」

「隠ぺいか、このやろう! 俺達にゴーレムは去ったと思わせる為に、門を閉じる気か! 騙されねえぞ!」

「そうよそうよ! ちゃんとゴーレムがいなくなるのを見届けなくちゃ、納得出来ないわ!」


 またまた騒ぎ出した野次馬たちに、心底呆れたようにロナウドが頭を掻いた。


「お前らなあ、安全の為に門を閉めるんだよ! とばっちり喰いたくねえだろうが!」


 それでも騒ぎは収まるどころか益々大きくなるばかりで、ロナウドは早々に諦めることにした。


「解った、解った、門はそのままだ! その代わり、全員その場でしゃがめ!」


 声高らかにそう告げると、漸く言うことを聞く気になったのか前の方から順番にその場にしゃがみ込み始めた。

 どこかわくわくとした感じが見受けられる野次馬たちに、仕方がないとロナウドは腹を括る。


 そしてもう一度手を高く上げると、今度はその手を大きく振り廻した。




 国の正門から随分と離れたところに、ゴーレムが仁王立ちしている。

 その眼前に転移魔法で音もなく現れたのは、帝国騎士団の総長、クレイグだった。

 こちらから仕掛けなければ特に害のないゴーレムだが、その横を一歩でも通ろうものならば敵とみなし途端に攻撃を仕掛けてくる。そんなゴーレムを一瞥し、クレイグは少し離れた場所に固まっていた商人たちに向かって歩き始めた。


「怪我はありませんか?」

「はい……」

 返って来た返事は疲弊し切っているのか弱々しく、なるべく早く事を済まさなければとクレイグは瞑目した。

 だがその実、商人たちはただ単に、にこりともせずにクレイグに話しかけられたことにビクついていたに過ぎなかった。

 そんなこととは露知らず、クレイグがゴーレムへと向き直ると慌てたように声がかけられた。

「騎士様……私たちは取り敢えず、引き返そうと思います……」

 騎士を表す腕章と軍服を身に纏っているクレイグに、先程頑張ってゴーレムを何とかしてくれようとしていた騎士団の上官だと判断し、そう言葉をかけた。複数人でも歯が立たなかったのにたった一人で何が出来るのかと、不安げに揺れる瞳がそう訴え引き返すことを決断させた。


 とそこへ、馬の蹄の音が聞こえて来る。


「総長、向こうは野次馬が多くて、今、副総長が対応していますので、もう少し待って頂けますか」

「ああ」

 短く返事をするクレイグは、やれやれと肩を竦めた。

 そんなクレイグに、商人たちから遠慮がちな声がかけられた。

「あ、あの……総長って……もしや、クレイグ様ですか?」

「……そうだが?」

 不審げにクレイグが返すと、商人たちがぱあっと顔を輝かせた。

「おお、何と、あのクレイグ様だとは! 皆、これで一安心だぞ! 直ぐにクレイグ様がゴーレムを退けてくれるぞ!」

 笑顔を見せる商人たちを見遣り、訝しげな表情をするクレイグに堪らず二ールが声をかけた。

「総長は、この近隣では随分と有名ですからね」

 自分のことのように誇らしげにそんなことを言う二ールに、クレイグは興味がないと言いたげにふいと顔を逸らした。

 だが二ールはそんなことなど気にせずに、兼ねてから聞きたいと思っていた問いを口にした。

「そういえば、隣国の姫君から結婚の申し込みがあったそうじゃないですか。どうするおつもりなんですか? 自分たちからすると、総長には他国に行って欲しくはないっていうのが本音なのですが……」

 少し寂しそうにそう言う二ールに、クレイグは益々表情を険しくさせた。

 だがそんな会話をしている間に、ロナウドからの合図が届く。


「合図です、総長」

 二ールの言葉にクレイグが正門の方へと目を向けると、遠目ではあるが確かにロナウドが手を振り合図をしていた。

「門は閉じないのか?」

「そのようですね……何か問題でもあったのかのしれません。ですが、合図があったと言う事は、向こうは大丈夫だと言う事でしょう」

 自信満々にそう返した二ールにクレイグが一つ頷くと、商人たちに向き直る。


「では、事が終わるまで、その場で座り待っていて欲しい」

「はい!」

 嬉々として返事を返す商人達は、野次馬達同様わくわくとした目を向けた。

「立たないで下さいね。危ないですから」

 二ールも商人たちに注意を促すと、自身も馬から降り手綱を強く握り締めた。



 ゴーレムへと歩き出したクレイグは、ゆっくりとその距離を縮めて行く。近付いてくるクレイグに気付き、ゴーレムの目が赤く光った。それは敵を発見した合図であり、攻撃を仕掛ける合図でもある。

 一歩クレイグが足を踏み出した時、それは始った。


 だんっと力強く巨大な足を前に踏み出し、クレイグ目掛けてぶんっとその大きな腕を振り下ろした。どんっと大きな音と共にその大きな腕を片手で受け止めたクレイグは、次いでその腕を横へと軽く払う。

 だが、軽く払ったように見えたその腕は、何か強いもので引っ張られたように勢い良くその巨体と共に横へと流され、地面についていた足さえも完全に浮き上がってしまうほどだった。

 次の瞬間、ずうううんっっと大きな音を立てて、ゴーレムの巨体が地面へと叩きつけられていた。

 その巨体故に、地面を伝う振動は余りにも激しく、近くにいた商人たちからは悲鳴が上がった。そして二ールの連れていた馬は驚き、暴れ、正門付近にいた野次馬たちは、その身を精一杯屈め衝撃に耐えていた。


 砂埃を上げ倒れ込んだゴーレムに、クレイグが動きを封じる魔法をかける。

 少しずつ砂埃が収まり視界が開けてくると、事は既に終わっていた。


「二ール、ゴーレムの説得を」

 クレイグが短く命令をすると、二ールは「はっ!」と返事をしゴーレムの頭へとすぐさま駆け寄った。 

 ゴーレムの赤かった瞳は既に元の色に戻り、今自分がどういう状況に置かれているのか良く解っていないようにも見受けられた。そんなゴーレムを諭すように、二ールが言葉をかけて行くと次第にこくこくとゴーレムが頷き始める。


「総長、終わりました」

「そうか」


 敬礼をし、ゴーレムの直ぐ近くで事の成り行きを見守っていたクレイグにそう報告すれば、短く返事が返され動きを封じていた魔法を解除した。

 横たわったままだったゴーレムがゆっくりと立ち上がると、二ールが再び口を開く。

「では、自分はゴーレムを本来あるべき場所まで連れて行きますので」

「ああ、頼む」

 馬に跨りゴーレムを先導して走り始めた二ールを見送ると、商人たちから拍手喝采が浴びせられる。それは勿論、正門近くにいる野次馬たちも同じである。

 それらを軽くいなし、正門からこちらに向かって来ていたロナウドに商人たちを任せると、クレイグは直ぐに転移魔法でその場を後にした。



えと、一応、恋愛小説です。今回のは全くもってその要素が欠片もありませんでしたが…。すみません。

本当ならば、もっと先まで書く予定だったのですが、長くなってしまったので、ここで一旦切らせて頂きました。

次回はちゃんとお話が進むかと思いますので、これに愛想を尽かさず、お付き合い下さればと思います。よろしくお願い致します。

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