6話「誰が愚かか」
「あ、お姉さま、一応申し上げておきますけれど」
ラピスはこちらへじっと視線を向けてくる。
「わたくしがラルフレット様に惚れられても、嫉妬しないでくださいね」
そしてそんなことを言われてしまった。
「お姉さまは姉なのですから。わたくしが幸せになった時は喜んでください。誰よりも、一番、喜んでくださいね。そして笑顔で祝福していただきたいところですわ。それでこそ姉、でしょう」
「そうね」
「あら! また曖昧な表情! ……魅力的なわたくしに、そんなに嫉妬しているんですの?」
「そんなつもりはないわ」
「うふ。なら良かった。では、紹介、お願いしますわね! お姉さま!」
ラピスは両親の方ばかり見ていた。姉である私のことなんてずっと見ようともしていなかった。彼女にとっては私なんてどうでもいい存在で。これまでずっと、ラピスの世界に、私は存在していないも同然だった。
なのに今になって絡んでくるなんて。
しかも厚かましい頼み事までしてくるなんて。
正直、嬉しくはない……。
だがここで頼みを断るとあることないこと言われてしまいそうなので、取り敢えず、ラルフレットに紹介することにした。
◆
「はじめまして! わたくし、ラピスと申します!」
「どうも」
「ガーネットの妹ですわ! どうぞよろしく! これから仲良くしてくださいね!」
ラピスのぐいぐい来る感にラルフレットは戸惑っているようだった。
「お姉さんにはお世話になっています」
「んもぉ。ラルフレット様ったらぁ。どうしてここでお姉さまの話なんてするんですの? 今は目の前のわたくしを見て! わたくしとだからこそできる、そんなお話を……してほしいですわ」
「いえ、貴女と話すつもりはありません」
「ええーっ。どうしてですのぉ。あ、もしかしてぇ……裏でお姉さまから喋らないよう言われましたぁ?」
ラルフレットは一瞬ぴくりと眉を震わせる。
心なしか苛立っている様子だ。
ただそんな中でも冷静さは保っている。
「お姉さまって、ちょっと嫉妬するところがあってぇ……ほら、わたくし、いろんな人から好かれる体質だからぁ……」
「無礼な女性ですね」
「……ふぇ?」
「失礼ながら言わせていただきます。貴女は無礼極まりない女性です。お姉さまと違って、ね」
ここでついに攻撃に出る。
「たとえ妹さんだとしても、ガーネットさんの悪口を言うような方は受け入れられません」
「ぇ……」
「わたしはガーネットさんに命を救われました。なので彼女を尊敬しています。初対面だったわたしのことを救ってくれた、そんな偉大なガーネットさんのことを、そんな風に言うなど。到底理解できませんね」
ラルフレットは迷うことなく言い放つ。
「で、でも! 本当なんですっ。姉はいつも嫉妬してきて! それが原因で嫌がらせをされたことだってあります! それも何度も! 罪をなすりつけたり、突き飛ばしてきたり、他にも――」
「もうやめてください」
「誤解ですわ! ラルフレット様! 貴方は今、お姉さまに洗脳されているのです。真実を見てください。聡明な貴方なら真実を見抜けるはずですっ。正しいことを言っているのはわたくし、お姉さまは悪女ですわ!」
するとラルフレットは「黙りなさい!!」と鋭く発した。
それにはさすがのラピスも言葉を失う。
「いい加減にしてください。ガーネットさんが悪女? ふざけるな、と言いたいですよ。わたしは知っています、ガーネットさんがどういう方かを」
「でもっ……子どもの頃なんてご存知ないでしょう!?」
「また悪口ですか?」
「なっ……そんな、酷い……わたくしはただ事実をお伝えしようと考えただけなのにっ……!」
ラピスは泣き始めた。
「どうして信じてくださらないのですかっ」
華やかな目もとを手の甲で拭う。
「わたくしは、絶対、嘘などつきませんわ……それなのに、どうして、どうしてそんな風に……お姉さまの味方ばかり……」
「貴女とは初対面ですので、わたしは、付き合いが長いガーネットさんを信じます」
するとラピスはさらに派手にわあっと泣いてその勢いのままにラルフレットに抱きついた。
「うわ」
「ああっ……偉大なる殿下、あのような悪女を信じてはなりません! どうか、真実を見てください! そうでなければ、この国は滅びますわっ」
「離れてください」
「この通り、わたくしは真っ直ぐな女です! 嘘など決して言いません! そして、だからこそ、こうして正しいことを選ぶようお願いしているのです! 身分差があるとしても、わたくしは、本当のこと正しいことを申し上げます。ラルフレット様が信じるべきはわたくしのほうです!」
勢いよく抱きついたラピスはそこまで言ってからドレスの胸もとを自らの手でそっと開く。
「……こっちはどうですの?」
途端にラルフレットは飛び退いた。
「絶対嫌です!!」
予想外の嫌がり方だったので少々驚いた。
「それはさすがにやり過ぎです!」
「どうしてですのぉ」
「しつこいですね! それ以上は絶対にやめてください! 怒りますよ!」
「ちょっとくらい遊んだっていいじゃないですのぉ……ねぇ?」
「不快の極みです!!」
「んもぉ、おっかたぁ~い」
「その喋り方もやめてください。本当に、不快です。そのような気味の悪い声を出すのはやめていただきたい」
今になって気づいたけれど、目の前で王子に対して酷くやらかしているのは私の妹だ。
ということは、それを止めない私というのも問題なのではないだろうか。
このままでは私は粗相している妹を制止することさえしない非常識な姉という印象を持たれてしまうのでは。
せっかく手に入れた居場所をこんなことで失うことになってしまったら……。
そう考えるとゾッとした。




