4話「壊れるものは壊れるだけ」
アミラのすべてにおいて雑なところが気に食わなくなったハーバーグは、周囲に「アミラの良いところは見た目だけだった」「トータルで考えるとガーネットのほうがましだったかもしれない。彼女はあんな下品ではなかった」などと愚痴をこぼすようになっていった。
するとアミラはそれに反発。
自分のことを悪く言われ、しかも大勢に言いふらされて、それでも黙っていられるほど慎ましい彼女ではなかった。
そんなこともあり、二人は毎晩大喧嘩するようになる。
「どうしてまたあたしの悪口言いふらしたの!?」
「本心を話しただけだろう」
特にアミラは非常に攻撃的だ。
今や彼女は自身を保つことで精一杯で。
相手を責めることで自分というものを何とか護っている。
とはいえハーバーグに非がないかといえばそうでもなくて。
互いに互いを傷つけ合っている――それが今の二人の関係だ。
「あたしのこと悪く言って楽しい? 楽しいんでしょ!? だからそういうことするんでしょ!? いっつもいっつも! あたしのこと悪く言って、悪い評判言い広めて、それで満足!?」
「楽しいとか楽しくないとかそういう問題ではない話だよ」
「でもまたあたしのこと悪く言うんでしょ!? 最低じゃん! そういうの! 最低最低最低最低!! あり得ない男!! ハーバーグがこんなクズだなんて思わなかった!!」
攻撃的な言葉を吐かれたハーバーグはアミラの頬を片手で掴む。
「おい! 今、何と言った! 俺が何だって? 何と言ったんだ!」
「いにゃいってびゃ」
「直前に言ったことをもう一回言ってみろ! 何と言った? もう一度言ってみろよ! 言えることなら!」
顔を掴まれたはアミラは暴れ出す。
それによってハーバーグは一瞬驚いて手を離した。
直後、アミラはハーバーグの腹を蹴る。
「ぐふぇ!!」
腹を蹴られる展開はさすがに読んでいなかったらしく、ハーバーグは蹴りをもろに食らってしまった。
ハーバーグはしゃがみ込み暫し震えていた。腹への一撃がかなり効いたのだろう。ただ、数十秒くらいが経つと震えは徐々に落ち着いて。痛みよりも怒りの方が大きく膨らんだらしく、ゆらりと立ち上がる。
そしてアミラの茶色い髪を強く引っ張った。
「や、やめてよ! 引っ張んないで!」
「人を蹴るような女に髪の毛など不要だろう」
「離して!」
「いいや離さない」
「何なのもう……やめてよ、ちょっと、ほんとに」
「俺はこの毛を離さない」
「き、気持ち悪いって……もういい加減にしてよ!!」
するとハーバーグは髪を掴んだままアミラの身体を引き寄せる。
「髪の毛全部なくしてやる」
そんな風に耳打ちされ青ざめるアミラ。
「やだ! もう嫌! 大嫌い! ずっと嫌い!」
「今さら逃げるのか」
「関わりたくない! 離して! もう何も言わないから、離して!」
「逃がすわけがない」
「もう嫌なんだって! 関わりたくないの! もうやめてよ、こんなの、やめてって言ってんじゃん……離してよ!」
ハーバーグはアミラの髪を掴んだまま彼女の身体を引き上げる。
「何すんのよ……」
「今から生意気な振る舞いをした罰を与える」
引き上げたアミラの腹部に蹴りを叩き込むハーバーグ。
彼は先ほどの一撃に対して怨みを募らせていた。
「髪引っ張んないでよ……痛いし、怖いし……ほんと無理だから……」
「謝るまで許さない、覚悟しろ」
「じゃ、じゃあ! 謝るから! 謝るから離して!」
「はは。謝って済むものか。謝るだけで罪から解放されようとは愚かだな」
今のハーバーグは過去のハーバーグとは別人だ。
彼はもはや鬼。
憎しみの対象となった者は死んでも許さない、というくらいの、強い負の感情を胸に宿している。
「さっき……謝るまで許さないって言ってたじゃん……」
「謝っても謝らなくても許さない」
「言ってること変わってるし……」
「まず、罰の第一弾として、髪の毛をすべて奪う」
「は、はああ!? 何それ何それ嫌過ぎるんですけど!?」
「もちろん罰はそれだけではない。あくまで第一弾だ。他にも色々準備しているから心待ちにしているといい」
その日、ハーバーグは数時間にわたってアミラを痛めつけ、アミラは搬送されたが搬送先の病院で死亡が確認された。
婚約者殺しとなったハーバーグは拘束される。
極めて悪質な行為が認められたこともあり即座に牢へ入れられた。
そして数日後処刑されることとなる。
ハーバーグの両親やアミラの両親はもちろんのこと、少しだけしか知らない知り合いや赤の他人である野次馬など、色々な人たちに囲まれながらの最期となった。
最期の時、彼は、何度も「俺は悪くない!」「どうして俺がこんな目に!」などと泣きながら叫んでいた。
……こうして、ガーネットを裏切り傷つけた者たちはこの世界から消えたのだった。
◆
「――ということで、お二人は亡くなられたようです」
城での暮らしにも慣れてきた頃、ラルフレットから報告があった。
「ハーバーグとアミラにそんなことが……」
「お二人は気が合わなかったようですね」
「そうですね、教えてくださってありがとうございます」
二人は私を傷つけた。裏切り者。けれどもかつては支えてくれた人でもあった。それゆえ二人の死を聞かされるというのは何とも言えない展開で。ある種のもやもや感が胸の内に生まれる。……ただ、同情はしないけれど。




