3話「それぞれの変化」
王子ラルフレットと思わぬ形で出会った私は、王城へ行くこととなり、そこでは皆に対して命の恩人として紹介された。
「ガーネット様、お茶お持ちしました!」
「ありがとうございます」
今、私は、特別な存在として扱われている。
「こちら、殿下が厳選したお茶になります!」
「それは素敵ですね」
お茶を淹れてくれたのは若い女性だ。
「あ、でも、もし苦手な味でしたら仰ってくださいね? 無理して飲まれる必要はありません。好みというのは人それぞれですから、苦手なものを美味しいと無理なさることはありませんので!」
城へ行くことになっただけでも驚いた。
こんな日が来るなんて、と。
しかし行った先では想像していた程度以上の丁寧な扱いを受けることとなっていて、今の状況というのは、もはや夢としか思えない。
婚約者と親友に裏切られて命を落とした私が見ている最期の幸せな夢――だとすれば理解はできるけれど。
「あ、とても美味しいです」
……だが、どうやら、これは夢ではないらしい。
「本当ですか! 良かったです。殿下もきっとお喜びになると思います。いつでもお注ぎいたしますので!」
「お気遣いありがとうございます。でも……どうして、皆さん、こんなに優しくしてくださるのですか?」
夢にしては一つ一つの感覚が鮮明過ぎる。
「殿下の命の恩人ですから!」
「魔法を使う怪しい女でも、ですか」
「ふ、ふえええ? どういうことですかそれ」
「ここの皆さんは魔法を使う人間に対して不快感はないのでしょうか」
「ないですよ」
「やはり……そう、なのですね」
こんな世界があったなんて知らなかった。
生まれつきの持っていたもののせいで嫌われることのない世界。
もしもっと早くこういう場所へ来られていたなら、私の人生はより晴れやかなものになっていただろうか。
……いや、でも、今こうして出会えたというだけで幸せなのだ。
これ以上とか。
今以上とか。
欲を出して過剰に良いものを求めるというのは危険なこと。
今在るものに対してありがとうと思うことが大切なのだろう。
――その後色々話し合って、当面の間、城にいさせてもらえることとなった。
「わたしは仕事もありますがガーネットさんには仕事はありませんので、のんびりしていてくださいね」
「ラルフレット様……その、本当に、良いのでしょうか?」
「はい。容姿のことや魔法を使えるということで不当な扱いを受けるということは問題だと思いますので。しばらくは保護という形を取りたいと思っています」
ラルフレットは自然体で接してくれる。
だからこちらも変に緊張せず話ができている気がする。
「ですが、保護ということでしたら、私よりも保護が必要な人というのはいらっしゃるでしょうし……」
「そこは命の恩人カードですよ」
「命の恩人カード……」
「王族とはいえさすがにすべての民を保護することはできませんから。やはりどうしても選択はすることになりますよ、ボランティアではないですからね」
私はどこへ向かうのだろう。
まだ分からない。
この人生という道がどういった場所へ向かっているのか。
ただ、それでも、家にいるよりかはここにいる方が快適だろう。
「部屋も好きなように使ってくださいね」
分からないことばかりだけれど、人は生きている限り進むしかない。
「あと、ラルフレットでいいですよ」
「え……と、では、ラルフレットさんで」
「それも良いですね」
「はい。今後はそう呼ばせていただきます。よろしくお願いいたします」
◆
ガーネットを犠牲に結ばれようとしたハーバーグとアミラだったが。
「アミラ! 散らかすなよ!」
婚約し同じ家で過ごすようになってからその関係は徐々に悪化し始めている。
「えー? またカッカしてんの、馬鹿じゃない」
「そんな言葉遣い! 俺の女としてあり得ない! もう少し丁寧な言葉を使うようにしろ!」
「丁寧な言葉? 何それ、ばっかみたーい。めんどくさいってば、いっつもいっつも。いい加減にしてくれる?」
細かいところで気が合わないことが分かってきたのだ。
「はあ……ガーネットでさえもっとまともだったというのに」
今になってハーバーグはガーネットの良さに気づき始めている。
だが既に手遅れだ。
今さらあれこれ言ったところで切り捨てたガーネットが戻ってくることはない。
「ちょっと! 前の女とか出してこないでよ! そういうのって最低。前の女と比べて文句言うとか一番駄目なやつ」
「ガーネットの親友ならまともな女だと思ったが間違いだった」
「まだ言うの!?」
「事実だろう」
「そういう問題じゃないって!」
「俺は事実しか言っていない」
近頃の二人はいつもこんな感じ。
ことあるごとに喧嘩になる。
結婚しようと同じ未来を見つめていた頃の二人はどこかへ消えてしまった。
「だからさ! そうじゃなくて! ガーネットとか出してこないでよ!」
「急に必死だな」
「前の女と比べられる気持ち、分かる? 不快なの。不愉快過ぎて最悪なの。ガーネットとは終わったじゃん、もういいじゃんあの子のことは」
愛し合っていた二人はもういない。
「俺は思い出話をすることすら許されないのか?」
「そうじゃないけど、いちいちガーネットを出してくるのはやめて」
「うるさい女だな」
「何でそうなるの!?」
「発する言葉だけは多い無能女は嫌いだ」
「悪口とか最低じゃん!!」
「これは悪口ではない、問題点を指摘しているだけだ」
「あたしの?」
「そうだ」
「もー……あっり得ない! 酷すぎ! 何でそんな性格悪いわけ!?」
「俺の性格が悪い? 馬鹿な。そんなはずがない。俺は正論しか言わない」




