14話「悩みも迷いも」
ラルフレットと結婚する――そんな未来が私にあるかもしれないとしたら、私はその道を選ぶだろうか。
躊躇いはある。
迷いもある。
結婚相手を決めるというのは人生において重要なこと、だからこそ、即座に答えを出すことはできない。
ラルフレットのことは好きだ。
どんな時も優しくしてもらってきたから。
どんな時も味方でいてもらえていたから。
だが彼は王子。
彼と結婚するなら私は王子の妻となる。
それは特別なこと。
もしその道を選んだら、特殊な立場の人となるということだ。
好きだから、だけでは、きっとやっていけないだろう。
王族の配偶者となるのであればそれなりの努力が必要となるに違いない。
色々なことについて勉強しなくてはならないだろうし。
相応しい行いをしていかなくてはならないだろうし。
「ああもうどうすればいいの……」
一人、部屋で悩む。
「うーん……」
ここで断れば彼との未来はない。
「どうすれば……」
差し出された手は掴まなければ意味がない。
黙っているだけでは何も変わらない。
じっとしていれば幸せになれるなんて夢物語だ。
一歩を踏み出す勇気が欲しい。
それさえあれば、きっと、多くのものが変わる。
◆
ガーネットへ想いを伝えたラルフレットは王妃に報告に行った。
「どうだった?」
「まだ分かりませんが、伝えることはできました」
「良かったわね」
「はい。そう思います。……どのような答えが返ってくるかは分からないのでまだ不安ですけど、でも、伝えたいことを伝えられて良かったです」
王妃は悩める息子を温かく見守る。
「言えないまま終わるよりかは良かったでしょう」
「はい、それはもちろんです」
まだ硬い表情をしている息子に王妃は微笑みかける。
「大丈夫。ガーネットさんなら真摯に向き合ってくれるわよ」
包み込むような優しさに満ちた声だった。
「今は不安でしょうね。でも、人はそこを越えなくては何もできないものなの」
ラルフレットは静かに頷く。
「誰もが人生でそういう状況に陥ることはあるのよ。でもそれには意味があるの。必ず、ね。諦めて何もしないことは簡単なことよ、でも、それを選べばきっと未来で後悔するわ」
「そう思います」
「勝負の時、というのはあるのよ」
「言いたいことを言えて良かった、そう捉えるようにしたいです」
王妃は柔らかく微笑む。
「あとは運命に委ねましょう」
まだ緊張気味な面持ちではあるけれど、それでも彼は強く頷いた。
◆
翌朝、朝食を取りに行くため廊下を歩いていると、ラルフレットに遭遇した。
「「おはようございます」」
お互い、何事もなかったかのように、自然なように振る舞っている。
「「良い朝ですね」」
たまたま次の言葉も重なり。
「「同時でしたね」」
その次の言葉まで重なった。
こんなことは初めてなので驚いた。
これまでも急に出会わすことはあったが発する言葉が連続で何度も重なったのはこれが初めてだ。
「今から朝食ですか?」
「はい」
「ガーネットさん、よければ……ご一緒しても?」
「時間は問題なさそうですか?」
「ええ、午前は暇なので」
「そうですか。では一緒に行きましょう。よろしくお願いします」
あんなことがあった後なのでまともに喋れないかと思ったが案外そんなことはなかった。こうして対面してしまえばそれなりに自然に話せている――ような気がする。多少、これまでと違った緊張感もあるけれど。それでも言葉を紡げないということはなかった。
隣り合って歩きながら彼が「昨夜はよく眠れましたか?」と尋ねてきたので「眠れました」とシンプルに答える。すると彼は「良かった」と笑みを浮かべる。
ほんの少し緊張感のある笑みにも感じられる、が、悪意は感じない。
「ラルフレットさんは、眠れました?」
「わたしは……実は、少し、寝づらかったです。なので本を読んでいました」
「どういった本がお好きですか?」
「小説も読むことは読むのですが、どちらかといえば、知識や情報が載っている本が好きです」
「そうなんですね」
こうやってなんてことのない話をしながら歩くのが好き。
叶うなら、ずっとこうしていたい。
「ガーネットさんは?」
「そうですね私は……あまり本は読まないんですけど、でも、ラルフレットさんのおすすめ本があれば読んでみたいです」
叶うなら、ずっとこんな風でいたい。




