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容姿や魔法の才能のせいで周りから良く思われておらず、信じていた人たちにも裏切られましたが……その後幸せへの道が拓かれました!  作者: 四季


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13話「考えてみよう」

「二年か三年かくらい前の夏だったと思うのだけれどね、親戚の子でとても大人しい子がいたのだけれど、その子が急に結婚することになったのよ。その報告を聞いた時、驚きすぎて、帰り階段の三段目くらいのところで突然腰が痛くなったの。ばきいっ、ていうかね、ずばぁんっ、ていうかね……そんな感じで。あれはもう衝撃的だったわ。大袈裟かもしれないけれど……直後は命の危機かと焦ったほどで。でも結局単なるぎっくり腰だったのよね」


 今日は王妃とお茶をしている。

 あの一件以降彼女はよく話してくれるようになった。


「それでね、お医者さまからは安静にと言われたのだけれど、次の日が視察だったのよ。しかも美術館の。だからどうしても行きたくって。延期するという提案もあったのだけれどそれは嫌だったから、気をつけつつ行くことにしたの。というのもね、世界の旗をモチーフにした作品展だったの。ずっと楽しみにしていたから……ぎっくり腰なんかに負けていられない! って感じだったのよ。それに、あるでしょう? 行けないかもと思うと行きたくなる、っていう時。それだったのよ、完全に。行けないかもと思うと行きたくて行きたくてもう行きたくて……行けないかもしれないと思うと涙が出てくるくらいだったわ」


 難点があるとすれば、少々話が長いところか。

 楽しそうに話している姿を眺めているのはそれはそれで楽しいのだが、どう反応すべきが掴みづらい内容が多いので、軽く相槌を打つことしかできない。


「行かれてみてどうでした?」

「そう! それがね! とっても素敵だったのよ! 話してもいい?」

「はい」

「一番良かったのが、世界は一つであるってタイトルの作品なの。あれはすごかったわ。ものすごく大規模な作品なのだけれど、百? くらいの国旗がデザインとして使われていて、しかもいろんな色なのに反発し合っていないのよ。すごく上手く溶け合っているのよね。自然というか。あと、細やかなところのデザインも素敵なの。繊細なつくりになっていてね」

「壮大な感じですね」

「そう! そうなの! まさにそれよ。世界の広さ大きさがよく伝わる作品なの。主役級の作品だけあって質が高かったの。アートとかはよく分からない者からしてもクオリティが高いの。あれはもう限りなく魅了されたわ」


 今日の飲み物はハーブティー。

 爽やかな香りが心地よい。

 ベースは柔らかい味わいで、ふわりと甘酸っぱい香りがあり、まるで夏の昼下がりのよう。


「ガーネットさんだけよ、こんなに話を聞いてくれるのは。ありがとうね、本当に」

「いえ」

「迷惑ではないかしら?」

「大丈夫です」

「なら良かったわ。付き合ってくれて、本当に、ありがとうね」


 話が長いな、とは思う。

 それは事実だ。

 でも前向きな話題だから心が重く暗く沈んでいくことはない。


「ところで、なのだけれど」


 それまで楽しげに軽やかに喋っていた王妃が急に真剣な面持ちになる。


「ガーネットさん、ラルフレットのところへお嫁に来てくださらないかしら?」


 思わぬ言葉を発されて言葉を失う。


「……なんてね。ごめんなさい、忘れてちょうだい」


 そんな私を見て彼女は少し寂しそうに笑みを浮かべた。


「あの子もいい年でしょう? そろそろ結婚しなくちゃならないの。でも、残念ながら、まだ良い相手が見つかっていないのよね」

「心配……ですよね、そういったことは、やはり、ご両親としては」

「そうなの。余計なお世話だって分かってはいるのよ。でも、それでも、気にしないでいることはできないのよ」


 ハーブティーを一口飲んで、改めて視線をこちらへ向けてくる。


「ごめんなさいね、急におかしなことを言って」

「いえ……」

「さっきの発言は忘れてちょうだい」

「はい」


 王子の母である王妃にそんな風に言ってもらえたことはとても嬉しいこと。

 でも決めるのは彼自身。

 生涯共に歩む相手を決めるというのは大切なこと。だからこそ、他の誰かが軽い気持ちであれこれ言っていいことではない。本人の意思で決めるべきだ。



 ◆



 城での暮らしにもすっかり慣れた頃、珍しくラルフレットから手紙が届いた。


 今夜バルコニーに来てほしい。

 そんなシンプルな内容で。

 その程度のことなら普通に言いに来ればいいのに、と思いつつも、忙しかったのかなと思い何となく流して――指定の時間にそこへ言ってみたところ。


「来てくださってありがとうございます」


 何やら少し改まった様子だ。


「ガーネットさんにお話ししたいことがあって呼びました」


 深く考えず「バルコニーで、なんて、ちょっと珍しいですね」と言えば、彼は少しはにかんで「確かにそうですね」と返してくれた。


 夜のバルコニーは心なしか寒い。

 風があるせいだろうか。


「それで、お話とは何ですか?」

「想いを伝えたくて」


 即座に答えられ「えっ……」とこぼしてしまう。


「すみません、急過ぎてよく分からないですよね。でも、聞いていただきたいんです。聞いてもらえるだけでも嬉しいですので」

「は、はい。分かりました。では聞きます」

「感謝します。ではお伝えさせてください。わたしの気持ちを」


 暫し、間があって。


「ガーネットさんのことが好きです」


 彼は躊躇いなくそう言った。


「私も好きですよ」

「あの……恐らく……そうじゃないと思います……」

「どういうことですか」

「ですから、その……結婚してほしい、ということです!!」


 ラルフレットは勢いよく発した。


「いきなり結婚はさすがに言い過ぎだと思います。すみません。けれど、ゆくゆくは……、と。考えてみていただきたいと思っているのです」

「また急ですね」

「今ここで返事してくれとは言いません。返事はいつでも大丈夫です」


 ここで発するべき言葉を見つけられず。

 訳もなく空を見上げた。

 黒い絵の具で塗り潰したような夜空には星たちが静かに輝いていた。


 慎ましく、逞しく、光り続ける星々。それらが言葉を発することはない。良いことも悪いことも何も言わず、ただ自分にできることをしている、そっと輝き続けているだけ。


 ただ、変わらない姿でいてくれるだけで、安心感が生まれる。


 星々が見守ってくれているかのように。

 愛に包まれているかのように。


 ……そんな風に感じられて。


 そうだ、私は私として生きていけばそれでいいんだ。


 触れることはできずとも。

 語らうことはできずとも。

 星々は確かにそこにいて、前向きになるための力を与えてくれる。


 考えてみよう、これからのことについて。


 今はまだ分からなくても。

 思考することに意味はあるはずだから。


 一歩を踏み出してみよう。

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