れ:『練炭自殺』を知らない彼女の理由
※これはほぼ忠実に再現した、知人(◇◇ちゃん)と私(△△)の或る日の会話です。
「あたしなあ、乳癌かも知れへん……」
「えーっ!! 何で!?」
「なんかなあ、胸にしこりがあんねん。前より大きくなってんねんやんか」
「えー、ほんとに!? 病院行って検査したら?」
「いややー! 絶対病院行かへん!!」
「何それ、何で!? 行こうよ!!」
「いーやーやー!! 病院行かなあかんのやったら、あたし死ぬわ。絶対病院なんか行かへん!」
「えぇー……」
「だって手術せなあかんやん!! そんなん、死んだ方がましやわ」
「いや違う、それ違うって。判定基準おかしい」
「あたしはそうやねん。手術なんか無理や、それやったら死ぬわ」
「だって早期発見だとお乳温存出来るよ! 今は乳癌が女性の死亡率一位だけど、早く検査すれば手術しなくて済むし!」
「いや、もう手遅れやねん。あたし両方の乳腺腫れてんねんやんか」
「ええっ、両方!?」
「しかもな、寝る時な、横になったらなんか息苦しいねん……」
「だったら尚更病院行って下さい」
「もうええねん。あたし好きに生きたし」
「まだ早いわ!!」
「いや、もう充分やって」
「駄目だよー! ○○ちゃん(注・彼女の子供の名前)まだ中二やん!! 子供の事考えて?」
「まあ、そうやけどな……」
「生理の前後とか乳腺も張るよ。そう言う一時的なもんじゃないの?」
「ちゃうねん。ええねん、あたし乳癌やねん。そっと死ぬから、そっとしといて」
「どうやって死ぬの? ◇◇ちゃん(彼女の名前)、一人でなんか死ねないでしょう」
「いや、死ねんで! でもどうせやったら楽に死にたいなあ。△△ちゃん(私の名前)、楽な死に方ってなに?」
「え、無計画……?……そうやねえ、今なら練炭かなぁ」
「れん、たん?」
「(知らんのかいな!!)……最近よくあるでしょう、集団で自殺って。車とかで目張りして練炭炊いて、ってやつ」
「ああ、あれ!! あれが練炭なん? あれやと苦しくないん?」
「一酸化炭素中毒状態になるから、多分。で、大体事前に睡眠薬呑むから、眠ったまま死ねるんじゃないかな」
「あーあかん!! あたし睡眠薬飲まれへん。飲んだら二度と目覚めへん気ぃすんねん」
「(……って事は死ぬの怖いんじゃねえか)……じゃあ死ねないね。とりあえず病院行こ。マンモグラフィー」
「万歩計グラフ? なにそれ」
「(天然や、こいつマジ天然や……)とにかく、みんな泣くから。○○ちゃんも◎◎君(共通の知人の名前)も。◇◇ちゃん死んだら、あたし泣かないけど殴るよ。死んだ後でも殴る。とりあえず検査受けて。け・ん・さ!!」
「△△ちゃんてホンマ強引やなあ」
「(あんたが言うな!!)……」
「なあ△△ちゃんてな、洗顔クリームどんなん使っとん?」
「(えっ、乳癌の話終わり!? しかも散々病院行けっつってんのに、最後迄うんって言わなかった!!)…………」
不幸のヒロイン気質の、ちょっと人の話を聞かない彼女と、時として冷たい程のツッコミをかましながらとにかく現実を語る私。
同じ山羊座で、人ってこうも違うんですね。




