第三話 ノットル
ノットル本部の置かれた惑星ディグル。
かつては豊富な資源を誇る鉱業惑星だったが、長年の採掘により資源はすべて掘り尽くされた。
いまでは惑星全体が機械に覆われた工業世界となっている。
もっとも、ここは彼らの本来の母星ではない。
母星の名はノクタリア。
かつてノクタル人が暮らしていた惑星。
だが資源開発と環境崩壊によって、現在は生物が住める場所ではない。
そして、生き残ったノクタル人は軍事組織を結成した。
それが惑星侵略軍団ノットルである。
彼らの故郷はすでに環境崩壊によって、人が住める場所ではなくなっていた。
黒雲に覆われた工業都市の上空に、幾筋もの閃光が走った。
戦艦ではない。
ワープ機能付き脱出ポッド。
それが一つずつ、静かに降下する。
――戦艦は失われた。
帰還したのは、乗組員全員のみ。奇跡的な全員生還。
だが、任務は完全失敗だった。
ポッドのハッチが開く。
モラウデと直属の部下たちは無言で歩き出す。
その後ろを、七人の作業員が続いた。
通称『七本槍』。
ゲッカの育ての親たちである。
誰も何も言わない。
怒鳴る気力もない、というより。
怒鳴る“段階”ではないと分かっている顔だった。
本部報告室。
巨大なホログラムの向こうに、上層部の姿が浮かぶ。
モラウデは膝をついた。
「地球侵略任務、失敗。戦艦は消失。地球の人型兵器と交戦。その際、ゲットー将軍が撃墜され行方不明。撤退を余儀なくされました」
沈黙。
叱責が来る。
降格。拘束。尋問。
そのどれかだと思っていた。
だが――
『……そうか』
それだけだった。
『ご苦労だったな』
その言葉は、あまりにも軽かった。
『侵略作戦は一時凍結する。地球への干渉は当面不要だ。戦力の再編を優先せよ』
まるで。
最初から“そこまで”が予定だったかのように。
モラウデの胸に、小さな棘が刺さる。
『⋯⋯とにかく、地球には関わるな』
「……了解です」
通信終了。
ホログラムが消えた。
静寂が戻る。
七本槍の一人が、ぽつりと言った。
「怒られなかったな」
別の一人。
「戦艦、沈んだんだがな」
誰も声を荒げない。
むしろ静かすぎる。
モラウデは小さく呟いた
「“地球に関わるな”か⋯⋯」
短い沈黙。
「ゲッカは?」
問いも短い。
モラウデは一瞬だけ視線を落とす。
「……命令は命令だ」
七人は顔を見合わせた。
怒鳴らない。
拳も握らない。
ただ、うなずく。
「そうか」
それだけ言って、踵を返す。
向かう先は格納庫。
モラウデは追う。
「どこへ行く」
「補給艦の点検だ」
「命令違反になる」
「点検は業務だ」
歩みは止まらない。
補給艦のハッチが開く。
一人が端末を叩く。
「燃料、地球往復ぎりぎり」
「ぎりぎりなら足りるな」
「俺たちは別に⋯⋯、なあ?」
「ああ」
「子供を迎えに行くだけだ」
理屈は整っている。
整いすぎている。
エンジンが低く唸るり、警告灯が回転を始める。
本部からの通信が入るが誰も応答しない。
七本槍の一人、キンリュウが、ぽつりと呟く。
「ゲッカはな」
誰も振り向かない。
「泣くとき、声を出さねぇんだ」
静かな空気が落ちる。
モラウデは目を閉じる。
責任を追求しない上層部。
凍結された侵略。
地球不干渉。
――まるで、十分な成果を得た後のような。
何の成果だ?
答えは出ない。
だが、このまま従う気にもなれなかった。
モラウデは覚悟を決めた。
「……私も行こう」
七本槍のリーダー格、スイヨウがわずかに目を細める。
「合理的判断か?」
「違う」
モラウデは座席に腰を下ろす。
「違和感の確認だ」
補給艦が浮上する。
派手な発進ではない。
ただ、当然の業務の延長のように。
「進路、地球」
静かなワープ光が闇を裂いた。
『……行ってしまったか』
『奴のことだ。行方不明の部下を探しに行ったのだろう。まったく、モラウデは甘すぎる』
『今回も無事に帰還できたこと自体、奇跡に近い。予測では、今回の任務で奴は消えていた』
『地球には関わるなと言ったはずだ』
『奴の悪運も、ここまでだな』
『ああ』
『地球が“実演場”になるとも知らずにな』
『⋯⋯すべては』
『そう、すべては⋯⋯』
『――すべてはカンパニーのために!』
その時、会議室のモニターが起動した。
――中央統括AI〈レントラル〉より通達
――地球戦略計画――実行フェーズへ移行




