第二話 地球に堕ちた将軍
地上に横たわる人型巨大兵器――
ノットル軍機動兵器『ギガントッタラー』
そのコクピットハッチが、油圧音を立てて開いた。
「……あ~あ。落とされちゃった」
中から出てきたのは、拍子抜けするほど小柄な少女だった。
ほんの少し前まで「ゲットー将軍」と呼ばれていた少女――
ゲッカ・ルナライト。
年齢は十七歳。
肩まで伸びた銀髪と、あどけなさの残る顔立ち。
小柄な体格も相まって、十二、三歳ほどにしか見えない。
彼女は空を見上げ、小さく息を吐いた。
「あの地球のロボット……出力、完全におかしいでしょ。
あれに勝てる人、いないと思うんだけど」
悔しさよりも、感想に近い口調だった。
空の向こうで、何かが弾けたように見える。
ノットル軍旗艦が、爆発を起こしたのだ。
「……終わった、か。みんな大丈夫かな」
淡々とした呟き。
それは仲間を案じる声というより、長い仕事が一区切りついた時の安堵に近かった。
何より、そんなに簡単にくたばる連中で無いことは誰よりも信じていたから、余計な心配はかえって失礼だとも思っていた。
「さて……これから、どうしよう」
ゲッカは一人、地上に立ち尽くす。
――遡ること、六年前。
太陽系外縁に位置する資源惑星。
当時十一歳だったゲッカは、採掘作業員だった。
重労働が当たり前の現場で、
体の小さな彼女はワークマシンの操縦を任されていた。
特別だったわけじゃない。
それしか役割がなかっただけだ。
ゲッカの周りには、いつも七人の作業員がいた。
無口な現場監督。
危険な作業は黙って引き受ける人。
口うるさい世話焼きのおっさん。
「食え」「寝ろ」「無理すんな」を毎日言う人。
誰も「守ってやる」なんて言わない。
ただ、当たり前のように隣にいた。
それが、彼女の世界だった。
――ヴィー! ヴィー! ヴィー!
作業場に、聞き慣れない警報が鳴り響いた。
「何だ? 事故か?」
「いや……空、見ろ!」
見上げた空は、黒い影で埋め尽くされていた。
降下する機動兵器。
異様な紋章。
「……侵略軍だ」
誰かの声が震える。
惑星侵略軍団ノットル。
その名を知ったのは、この時が初めてだった。
逃げ惑う作業員たち。
その中で、ひとりのノットル兵が砲身を向ける。
「抵抗の意思あり。排除対象」
「待て!」
通信に、別の声が割り込んだ。
「無抵抗の民間人だ。撃つな」
小隊長――モラウデの制止。
だが、若い兵士は聞かなかった。
「ここで成果を上げれば——」
ビームキャノンが発射準備音をたてる。
「……それ、やりすぎ」
小さな声。
ゲッカは、操縦桿を握り直した。
考えるより先に、体が動く。
ワークマシンを前に出し、仲間の前に立つ。
「ゲッカ!? 戻れ!」
世話焼きのおっさんの叫び。
だが戻らない。
地面を掘削し、土煙を巻き上げる。
一瞬の視界不良。
その隙に、関節部へ掘削アームを叩き込んだ。
鈍い音。
ノットル兵の機体が倒れ、沈黙する。
――静まり返る作業場。
「……ゲッカ!」
おっさんが駆け寄ってきた。
「何やってんだ! ワークマシンで兵器に突っ込むやつがあるか!」
怒鳴り声。
でも、その声は震えていた。
「……生きてるから、いいでしょ」
ゲッカが言うと、言葉に詰まる。
その背後に、無口な監督が立っていた。
何も言わずに腕組みしながら、ただただ黙ってそのやり取りを見ているだけだ。よけいな言葉は必要無かった。
その後、作業員たちは、ノットル兵に囲まれ連行されていく。全員無事の無事を見届けたゲッカは小さくため息をついた。
「……名前は」
低い声。
ワークマシンの後ろにノットルの指揮官機が立っていた。
「ゲッカ」
「年齢は?」
「十一」
「兵ではないな?」
「作業員だよ」
嘘は言わない。
「本来なら処分対象だ」
淡々とした声。
「だが、その動きは偶然ではない」
「……」
「生きたいか」
選択肢は、なかった。
「……うん」
それだけだった。
こうしてゲッカは、生き残った。
救われたわけではない。
侵略者の軍に“拾われた”だけだ。
志願でも、忠誠でもない。
ただ、生きるために、操縦桿を握り続けただけ。
やがて彼女は成長し、「ゲットー将軍」と呼ばれるようになる。
部下についているのはかつての七人の仲間たちだ。ゲッカの事が心配で自ら志願した作業員たちは、いつしか『七本槍』と呼ばれ、主に力仕事や整備、雑務等を淡々とこなして重宝された。一度も戦闘に出たことはない。
そして六年後。
地球で、五秒で撃墜される。
すべては、この日の延長線上にあった。
地上で、ゲッカは空を見上げる。
「……まあ、生きてるし、いっか」
ゲッカは機体の脚部に収納されていた小型バイクを引っ張り出すと、保存食等を詰め込んだバッグを背負った。
「とりあえず、あの建物に行ってみるか」
山の中、遠くに見えた建物に向けて、ゲッカはゆっくりとバイクを走らせていった。




