ブーケトス
『KENICHI&YAEKO』
手書きのウェルカムボードのアルファベットが拙すぎて笑える。
書き慣れないアルファベットを書いて失笑を買うなど……まさにこの二人に相応しいけど。
まさか『私から寝取った』とは知らない八重子は私を披露宴に呼んだのだけど……健一はどんな顔をしていたんだろうね!
とにかく!親友として出席するのだからご祝儀は5万円包んだわよ。
その5万円は……昔、健一から貰った指輪やネックレスを“買取”へ売って作ったものだから……私って、殊勝でしょ?!
さて、新婦側のテーブルに着き、“いつもの面々”との会話を卒なくこなす。
「綾乃、今日のコーデは落ち着いた感じだよね」との言葉には「当たり前でしょ?!親友としてスピーチするんだから、一瞬でも八重子より目立っちゃいけないもの!」と応えたけど……言葉に棘があったかしら? まあいいわ!
しかしまあ……八重子の身内もそうだけど……健一の親族ども……初めて見たけど……親と一緒!! 粗野で下品!!
それに何?! この料理!
私が今まで出席したどの披露宴よりも不味い!!
私、こんな物の為に5万円も出したわけ??!!
あまりにもバカバカしくて零した一粒の涙を……周りの皆は『親友の幸せに感極まった』と受け取ってくれたのが、せめてもの救いだわ!
でも、このタイミングでスピーチに呼ばれて……私は涙ながらに八重子の事をベタ褒めしたわ。
◇◇◇◇◇◇
ブーケトスにも“暗黙のルール”がある。
そして、そのルールに乗っかって……『八重子の親友』である私は、無事ブーケをキャッチした。
ああ!!良かった!!
私は……げんなりする引き出物と共にブーケを入れた紙袋を提げて家に戻った。
「お前ん家!ホント!ド田舎だな!! まあ、お前をいくらヨガらさせても平気なのだけが取り柄だけどよ!」
こんな風に健一から言われた『私のお城』にだ!
因みに下手な健一の動きに合わせて声を上げるのは本当に大変で……いつも声を枯らしていた。
さて、この様に周りに人家も無いド田舎なので!
藁人形を打ち込むには手頃な木も庭にはある。
もっとも……五寸釘で打ち込むのは人形では無くブーケなのだけどね。
でもこれは私の単なる“娯楽”
本チャンのネタは他に仕込んでいるの!
聞きたい?
フフフ!
とっても楽しい事よ!
……
じゃあ、教えてあげるね!
健一はド変態だから……私との“行為”をスマホでビデオ録画してたの!!
そうよ!変態の間では『ハメ撮り』とか言うそうだけど……
アイツの浮気を暴くきっかけもそうだったんだけど……このド田舎のベッドで眠り込んでいるアイツの指で指紋認証してスマホを開け、『私との動画』は証拠としてコピーを取った後すべて削除した。
泥棒ネコの八重子とのエチ動画は……健一のアカウントを作ってコンテンツマーケットで販売してあげたわ。
どっさりUPしてあげたから今も着々と投げ銭が入っている筈!
これは新婚生活の足しになるんじゃないかしら!
色々とね!
わざわざこんな事をしてあげる私って何て優しいんだろう!!
ああホント!
いい事した後は……
実に愉快だわ!!
おしまい