CASE.1 交通事故【ひき逃げ】終
ひゅっと声にならずに喉がなる剛。
血塗れのリナはゆっくりと剛に近寄っていく。
剛は逃げたかったが、血塗れの手が自分を逃がしてはくれなかった。
「リナ……リナ!助けてくれよ…俺…俺本当はこんなことしたくなかったんだよ…薬だってやらないとボコられるし仕方なく……リナ!俺本当にリナのこと……」
大切だった、愛していたとでも言いたかったのだろうか…しかしその言葉はリナの血塗れの手で口を塞がれて言えなかった。
[…………わたしも…いったよ?…………たすけて…って]
そうリナに言われて固まる剛。
「いや…だから、それは……」
言い訳が出てこない剛は冷や汗をダラダラと流し始める。
[わ……たし…も][あた……しも][わたし……だっ…て]
血塗れの手の主達が次々と霧の中から姿を現す。
「ひっ!」
顔がぐちゃぐちゃの女性や、足があらぬ方向に曲がっている女性……
剛は全ての女性に心あたりがあった。
みんな薬漬けにして殺した、もしくは命を絶った女性達だ。
剛は頭を抱えて叫ぶ
「ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい!!」
しかし誰もが許すとは言わずに剛の体を掴んだまま離さない。
(どうしたら…どうすれば…)
剛が考えていると、不意に霧が少し晴れる。
そちらを見ると、仲間がいた。
BARでいつも一緒にいる仲間だ。
剛は血塗れの手を力いっぱい払いのけそちらに走る。
「助けてくれ!!!」
剛は仲間に助けを求めるが、仲間たちはみんな冷ややかな目で剛を見ている。
「え?どうしたんだよ?」
剛は焦ったように呟く。
すると仲間の一人が大きなため息をついて
「はぁ...お前もういらないわ!」
と言い出す。その言葉に更に焦り
「何言ってんだよ…」
と返すが、手をしっしっとヒラヒラと振って
「用済み」
とだけ言い、その場を立ち去っていった。
剛は訳が分からずへたり込み、「なんで...なんで?」と呟く。
放心している剛に再度女性達の血塗れの手が纏わりつく。
[ようずみ…だって...]
リナのしっとりとした声を耳元で聞いた剛は再び手を振り払い声もださずに走り出した。
そして……
ドンッッッッ!!!
大きな衝突音がなり響き、剛は車にひかれた。
運転していたのは、剛の仲間の一人だった。
◆◆◆◆◆◆
「彼仲間の車にひかれたけど、生きているわ……ただ下半身不随になったから、この先思うように動けないし、警察からは薬と殺人で事情聴取とかされるだろうから地獄が待っているでしょうね…」
椿が剛のその後をリナに報告する
[そう……]
それだけ答えるリナ、うつむいているので表情は分からない
「…………やっぱり自分と同じように亡くなってはいないからまだ駄目かしら…?」
椿が問うと、リナは顔を上げる。
その顔は、笑顔だった。凄く綺麗な笑顔……
晴れ晴れとした顔をリナはしていた。
『素敵な笑顔だ。もう大丈夫そうだね』
白夜が椿の隣でリナに向かって微笑む。
リナは花が咲いたように笑う。
[ありがとうございました!]
そう言い段々と薄くなっていくリナ
成仏できるようだ…
椿は最後にリナの手を握る
それを見ながら白夜が告げた。
『前に説明したけど、君の魂は復讐を果たした事で少し傷ついてしまった。だから普通の人よりも転生が遅れてしまう…でもきっと今の君ならそんなのへっちゃらだね!』
リナは大きく頷き綺麗な笑顔を浮かべたまま、消えていった………
リナが消えるとそれに伴いリナのお墓が消える。
「終わった」
椿は伸びをする。
『終わったねー……あの彼の親も終わりだね息子の不祥事のせいで』
「ざまあみろだわ」
悪態をつきながら椿は神社へ向かって歩きだす。
椿の顔も成仏したリナのように晴れ晴れとした顔をしていた。