CASE.1 交通事故【ひき逃げ】その5
「さーて…ターゲットは今はBARの中か…出てきたところを狙うしかなさそうね…」
椿と白夜は繁華街のビルの屋上で剛がいるBARを見ている。
「本当に亡くなった彼女であるリナさんの事なんてどうでも良いのね…」
つはBARを見ながらポツリと呟いた。
『一応優等生ぶってるから毎日花は手向けて、悲しんでいる彼氏は演じてるみたいだけどね』
「あのへったくそな演技ね...」
椿ははっと乾いた笑いをした。
◆◆◆◆◆◆
『出てきた』
白夜が言うので椿がそちらを見ると剛は女性とBARから出てきたが、すぐに手を振り別れる。
「このまま進むと夜は殆ど人通りのない道に出る。そこでやりましょう。」
椿の言葉に白夜はこくりと頷き。
先回りする為に椿を連れて瞬間移動した。
剛は鼻歌混じりで静かな道を歩く。
すると前から人がこちらに歩いてくるのが見えた。珍しいなと思いながらも気にせず歩く剛だったが、向こが挨拶をしてきて固まる。
「こんばんは」
自分の学校の生徒会長、神凪椿の声。
剛はまずいと思い、作り笑顔をする
「こんばんは生徒会長!こんなところで会うなんて奇遇ですね!」
爽やかな笑顔を向ける。
しかしなぜだろうか椿は笑っているのに、空気が冷たい…
まさか...バレているのだろうか…いや、そんなはずはない!ちゃんと隠しているはずだ!
ドラッグを感付かれたかと思いながらも剛は笑顔を崩さない。
「リナさんが亡くなったのにもう次の彼女がいるの?」
椿がそう言うと、あきらかにホッとした顔をする剛
「見てたんですか?違いますよ!リナが亡くなった悲しみを聞いてもらってただけです……聞いてもらうと少し落ち着くので…」
剛は下を向きながら悲しげな表情をする。
(あくまで大好きな彼女を亡くした彼氏を演じるつもりなのね…もう面倒だわ…)
椿は冷ややかな目をして剛を見ていたが、視線を上に向けて浮いている白夜を見る。
白夜はそれを見てにやっと笑い、姿を消す。
椿はそれを見送ると一歩ずつ剛に近付く。
「そうだったんだね…辛いものね…」
また近付く…
「きっとリナさんも...」
更に一歩……
「かなり辛かったに違いないわ……」
また一歩……
「大好きな彼に…」
剛の目の前…
「…………殺されたんだから…」
「え?」
この言葉で剛は下を向いていた顔を上げる。
椿は目の前にいた。
恐ろしく冷たい表情をして、剛を見ていたかと思ったら、にっこり微笑んで
「バレていないとでも思ったの?ドラッグのことも……ね」
剛の顔はひきつり逃げようとしたが、急にあたりに霧が立ち込めて視界が遮られる。
「逃がすわけないでしょ」
椿は表情を冷ややかなものに戻してボソッと呟く。