CASE.1 交通事故【ひき逃げ】その3
椿と白夜は事故現場へ来ていた。
ちなみに白夜は椿の兄ということになっており、普通に一緒に行動している。
事故現場には警察の姿は無く、歩道に花が手向けられているのが目に入った。
そこに椿と白夜は手を合わせた後、辺りを見てまわる。
見て分かったことは、
人通りは少ない道路であること、ブレーキ痕があるので、犯人は一応車を停めようとはしたという事。
防犯カメラなどはない場所というくらいだった。
『情報少な過ぎるね…』
白夜がポツリと呟く。
「そうね…防犯カメラもないし、人通りも少ない…目撃者いるかしら…?」
椿がぶつぶつと言っていると、白夜に肩をトントンと指でつつかれた。
椿が白夜の方を見ると遠くからこちらへ向かってくる人がいるのが見えた。
その人物は学ラン姿の男子高校生で、椿が通っている高校の生徒なのが分かった。
彼は片手に花を持っている。
彼は椿に気がつくと驚いていた。
「あれ?生徒会長……ですよね?どうしたんですか?」
椿は高校三年生で生徒会長をしている。
優等生としていた方が立ち回りやすいので、そうしようと思って生徒会長になったのだが結構やりがいがあり気に入っていた。
椿は少し悲しそうに微笑むと、
「他の学校の生徒がここで事故で亡くなったって聞いてね……手を合わせにきたのよ」
と悲しげにうつむきながら話す。
その様子を白夜は横目に見ながら
(演技がうまい...あっ!男子生徒が感動するような表情になった!騙されてるよー)
などと思っていた。
何となく白夜が思っていることが分かった椿はこっそり白夜の足をローファーのかかとで踏んでおいた。
「ありがとうございます!リナもきっと浮かばれます!」
と頭を下げる。
「リナ……呼び捨てにしているってことは...?」
「俺はリナの彼氏だったんですよ」
(なるほど、彼氏か…何か情報は持ってないかしら…)
椿は話を聞いてみることにする。
彼の名前は斎藤剛さんで被害者の矢萩リナさんとは最近付き合い始めたばかりだった。
彼女の家が近くにあること、最近少し悩んでる事があったようだということを聞き出した。
「悩んでた?」
椿が聞き返すと、
「そうなんです……悩んでるなら教えて欲しいって伝えたんですけど…」
教えてくれなかったと……悲しそうに剛は言う。
(悩み……彼女はその件が思い出せないのかな…?)
椿は考えた。
「でもなんで生徒会長が調べてるんですか?」
剛は不思議そうに首を傾げる。
「俺が気になったんだよ!椿も女子高生だから危ないなぁって思ってさ!」
白夜が椿の肩に両手を置いて答える。
「えっと…そちらは彼……」
と剛が言いかけたところで
「兄です!」
と椿がわって答えた。
ああ…お兄さんだから心配してたんだな。
と剛も納得したようだったので、ここで退散しようとペコっと頭を下げて剛に背を向ける。
剛も頭を下げて椿達を見送る。
◆◆◆◆◆◆
神社への帰り道
「白夜……斎藤剛。彼を調べて」
下を向いたまま椿は言う。
白夜はすぐに分かった。
椿は怒っている。それもかなり……
『了解』
短く返事をして、白夜は消える。
「へったくそな演技で私を騙せると思ったら大間違いよ…」
椿は怒りの言葉をつぶやいて、神社の鳥居をくぐり中へ入っていくのだった。