CASE.1 交通事故【ひき逃げ】その2
椿は新しく神社の境内の中に出来たお墓の前に立つ、雨が降っているが気にせず傘もささないままだ。
白夜は宙に浮いた状態のまま椿の後ろからお墓を見ている。
「さて…姿を見せてくれるかしら?」
椿がお墓の前でそう言うと、すぅ…っと透けているセーラー服姿の女子高生の幽霊が姿を表す。
生前綺麗な長い髪を後ろに流していたのだろうが、亡くなった時の状態なので、髪はぐしゃぐしゃで前に垂れている。
頭と腹部、足には大量に血を流したのだろう真っ赤に染まっていた。
顔は髪の毛のせいで見えない。
[だ…れ………?]
掠れた声が聞こえた。
事故の時にきっと喉もやられたのだろう。聞いていて痛々しかった。
「私はこの神社の巫女です」
椿が答えると。
[じ…じん……じゃ……?なぜ……?]
その問いには白夜が答える。
『君は事故で亡くなったんだけど、かなりの未練が残ってるんだよね。通常はお寺のお経で浄化、癒されて魂は天に昇るんだけど、君はのぼらなかったんだよ。あっ!きちんと君の家族が供養はしてくれたんだからね!』
「その未練を果たすのが私の役目なの。だから教えて欲しいの」
椿がそう言うと、女子高生の幽霊は首を傾け考えている。
おそらくはまだ捕まっていない犯人への制裁だろうとは思うが、きちんと本人の口から言ってもらうことになっている為、椿は返事を待つ。
[はんにん……つかまって……る?]
彼女が聞いてきた。
やはりこれか…と思いながら首を横に振る。
見えているのかどうかは分からないが、首を振って答えた後彼女はふるふると震えて
[わたしを……ころし……たはんにんに、つぐないを]
と言った。
「分かったわ。償いは捕まえて警察につき出せば満足かしら?」
椿がそう聞くと、彼女の震えはピタリとおさまる。
[………………それで……いい]
長い間の後そう答える彼女。
いや…おかしいな…
椿はそう思った。
犯人を突き止めてつき出すだけなら時間はかかるかもしれないが、警察がやってくれるだろう。
それで満足するならお寺で成仏できるはずだ。
「そう……分かったわ」
椿はそっと目をふせて、くるりと踵をかえし神社の中へ戻るように歩き出す。
『ねえ椿……』
白夜が話しかけてくる。
「なに?」
答えると、
『いいの?多分それだけじゃ未練はなくならないと思うよ?』
それは分かっている。
しかし…話すつもりがないのか思いだせないのかが分からない。
死者は亡くなった時の記憶をなくしている場合がある。まずはそれを思い出させることが重要だ。
椿は白夜の方を向き、
「まずは調べて捜しだしましょう。犯人のことを」
それだけ言うと、椿は外へ出る支度をする。
白夜も『ハイハイ』と言いながら椿の後を追いかけて行くのだった。