表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/9

9 君のことが大好きです。……、ずっと、前から、好きです。

 君のことが大好きです。……、ずっと、前から、好きです。


 三月のある日。

 千鶴のお誕生日の日に、夏秋は千鶴に生まれて初めてのお誕生日の贈りものをした。

 いつもならしないことだった。

 じゃあ、なぜ今年は千鶴にお誕生日の贈りものをしたのかというと、それはいつも夏秋を支えてくれている、応援してくれている千鶴に、心からの感謝の気持ちを伝えるためだった。

 それともう一つ、理由があった。

 もともと頭のいい夏秋は頑張って受験勉強をして、とっても入学することが難しい東京の高校(男子校だった)に受かった。

 そして、四月の春から、故郷を出て、東京で高校の寮に入って、一人暮らしをすることになったのだった。

 夏秋がそんなふうな人生を目指していることや、そのためにずっと頑張っていること、そして受験に合格したことも、夏秋の家族はもちろん、幼馴染の千鶴も、そして、早苗も知っていたことだった。


「これ、誕生日の贈りものなんだけど、受け取ってもらえるかな?」と(珍しく)少し恥ずかしそうにしながら、夏秋は言った。

「え? 誕生日の贈りもの?」と驚いた顔をして、振り向いて夏秋を見て、千鶴は言った。(もしかしたら今年はもらえるかもしれないと思っていたけど、本当にもらえるとは思っていなかった)

 千鶴はいつものように五つ子の子犬と遊んでいたのだけど、千鶴が立ち上がって夏秋と向かい合うと、五つ子の子犬たちは二人の足元でわんわんと遊んで欲しそうにしながら、はしゃいでいた。

「ありがとう。夏秋くん」

 千鶴は泣きながら、そう言った。

 夏秋が千鶴にくれた贈りものは、千鶴がずっと欲しかったものだった。(なにをもらったかは秘密)どうやら夏秋はそのことを早苗から教えてもらったみたいだった。

 ずっと前からわかっていたことだし、覚悟はしていたことだし、とても良いことでもあったし、千鶴は笑顔で夏秋に頑張ってねって言って、背中を押すみたいにして、故郷を出ていく夏秋を見送るつもりでいた。

 でも、泣いてしまった。

 まあ、たぶん、泣いちゃうとは思っていたけど。(でも、突然の贈りものはずるいと思った。とっても、とっても、嬉しかったけど)

「ありがとう。夏秋くん」

 と泣きながら笑って千鶴は言った。

 それから千鶴はいつものように、五つ子の子犬と、夏秋と一緒に春のお庭であったかい時間を過ごした。


「じゃあ、またね」

 四月になると、そう言って、にっこりと笑って、夏秋は東京に行ってしまった。

 夏秋の妹の秋冬は中学生になって、夏秋や千鶴や早苗が通っていた地元の中学校に通うようになった。

 なんだか季節が巡るようにして、みんなどんどんと大人になっていくんだなって、そんなことをしみじみと地元の高校に通う高校生になった千鶴は思った。

「なににこにこして笑っているの? 千鶴。気持ち悪いよ」

 って隣を歩いている同じ地元の高校に通っている早苗は言った。

「千鶴。このあとどうするの?」

「秋冬ちゃんのお家で五つ子の子犬と遊ぶよ」

 といつもと変わらない笑顔で、千鶴は言った。

「本当に千鶴は全然変わらないね。まあ、別にいいけどさ。あ、あと、私も一緒に行ってもいい?」

 と楽しそうな笑顔で早苗はいう。

 そんな会話をしながら、学校帰りの千鶴と早苗は夏秋がいなくなった、秋冬と五つ子の子犬たちのいるお家に自転車を押して、歩いて行った。


 その日。千鶴と早苗は秋冬から懐かしい写真を見せてもらった。

 夏秋と秋冬の赤ちゃんのころの写真。二人仲良く寄り添ってすやすやと気持ちよさそうにして揺かごの中で眠っている。

 そんな幸せそうに笑っている三人の周りではいつものように元気いっぱいの五つ子の子犬たちがわんわんと騒ぎながら、楽しそうにはしゃぎ回っていた。


 君と一緒に。いつまでも。……、いつまでも。いられたらいいな。


 五つ子の子犬 いつつごのこいぬ 終わり

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ