1 ばあー。どう? おどろいた?
五つ子の子犬 いつつごのこいぬ
ばあー。どう? おどろいた?
夏秋の家には五つ子のわんぱくな子犬が暮していた。
「今日、夏秋くん元気なかったね」
「え? そうだった?」
「そんな風には見えなかったけどな」
「あんまり見てなかったから、よくわかんない」
「ちょっとみんなちゃんとここに集まってよ」
とわんわんと吠えながら、五つ子はそんなことをお話している。そんないつものように元気いっぱいな五つ子を見て、小さく微笑んでから、真面目な夏秋はまた中学校の勉強をもくもくと集中して始めた。
「夏秋くん。いる?」とそんな女の子の声が聞こえる。
夏秋のよく知っている声。
隣の家で暮らしている夏秋と同い年の十五歳の女の子、千鶴の声だった。
「千鶴。いるよ。こっち」と千鶴の声を聞いて、顔をあげて夏秋は言った。
「お邪魔します」
がらがらっと戸を開けて千鶴が笑顔で夏秋の部屋に入ってくる。
「相変わらず五つ子は元気いっぱいだね」と夏秋の部屋の畳の上で、はしゃぎまわっている五つ子の子犬を見て、千鶴は言った。
「千鶴。どうかしたの?」
「あ、えっとね。おでん。作りすぎちゃって、食べるかなって思ってさ」とふふっと嬉しそうな顔で笑って、千鶴は言った。
その千鶴の言葉を聞いて、ぐーと思わず夏秋のお腹が小さく鳴った。