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6 旅路の再開

すれ違いの解消は難しいようです。

 朝食を終えてすぐに修練室に籠もり、先代に教わった通りに様々メニューを熟し、上手く出来ているのか自信のない私は腕組みして小首を傾げる。

 魔法の発現が出来るのに、なんで体内魔力の循環は下手なのかと、溜息を()かれたことを思い出す。


 なんでと問われても、私としては言われた通りに出来ている心算(つもり)だし、違うのならもっと具体的に教えて欲しかったのだが、先代の説明は冗長な上に些か抽象的で、どうにも掴むのが難しい。


 私も先代を真似て溜息を()いて、汗をかかない身体(からだ)に感謝しつつ、服装を整える。

 時刻はまだ昼を越えては居ない。

 私自身は急ぐ理由は無いが、思わぬ所で出会った同行者が居る。

 彼女の意向次第では、多少先を急ぐ必要も出てくるかも知れない。


 そこまで考えた私は、年頃直前、といった風貌の少女の怯えた顔を思い出し、意味もなく天井を見上げる。


 きっと彼女はとっとと目的地に着いて私と別れたい、そう思っているのだろう。

 そんな事を考えながら。




 朝ご飯を食べてから客室に戻った私は、緊張から開放されて(ほう)けきって居た。


 お姉さんは相変わらず怖いし言葉も眼差しも冷たいままだけど、でも、まだ、私を客として扱ってくれているようだった。

 まだ、見捨てられては居ないと言うことだ。


 今、あのお姉さんの機嫌を損ねてしまえば、あんな魔獣の居る森に放り出される……で済めば、ラッキーな(ほう)だろう。

 最悪なのは、即座に殺されてしまうこと。


 私は兎に角、あのお姉さんに見限られないように、出来ることを考えて、やらなければならない。


 勝手にうろちょろして、それがお姉さんの逆鱗に触れてしまうことも有るかも知れない。

 それでも、何もせずには居られない。


 私はここのお客様じゃなくて、あのお姉さんの慈悲で生かされているだけの迷い人に過ぎないのだ。


 意を決して立ち上がった私は、不意に叩かれたドアの音に小さく悲鳴を上げてしまうのだった。




 ノックをしたら悲鳴のような返事が返ってきた。

 年頃の娘というものは、良く理解(わか)らない。


「これから移動、ですか?」


 少し間をおいて出てきた女の子に、日が高い間に出来るだけ移動する旨を伝えると、怯えた表情は変わらず、少しだけキョトンとして此方(こちら)を見上げている。

 可愛らしいとは思うのだが、いつまでも怯えられていては、さすがの私と言えども(へこ)むと言うものだ。

「はい。まだお昼まで時間がありますので、日の出ているうちに移動してしまおうと思います。もう少し休みたいと言うのであれば――」

 休んで居ても結構ですよ、と続けようとした所で、

「行きます! すぐに出られます!」

 勢い込んで、と言うよりは慌てたように、私の言葉を遮って言葉を被せてきた。


 うんうん、そりゃまあ、目的地には早く着きたいだろうなあ。


 はっきりと怯えが見えているのはもう、こっちが慣れるしか無いんだろうか。


 溜息を飲み込み、気を取り直して私は告げる。

「判りました。それでは、準備が出来ましたら、エントランスまでお越し下さい。……順路は覚えていますか?」

 必死に頷く少女に、すこしばかり物悲しい思いを覚えながら、しかし心のどこかで可愛らしいと思ってしまっている私は、人恋しいを通り越してどこか可怪(おか)しくなってしまったのではないか。

 そんな不安が頭を過るのだった。




 自分の荷物を纏めたバックパック、というかリュックを担ぐ少女は、思った以上に慣れた足取りで森の中を進む。

 どんな事情でこんなところに居たのかは聞いていないが、どんな理由が有るにせよ、あの荷物は少なすぎると思うのだが。


 出掛けた先からの帰りだと信じたいが、それにしても荷物が少なすぎる。

 私の持つ地図情報に誤りがなければ、街までは森を抜ける工程を踏まえて、あと3~4日(さん・よっか)は掛かる。


 その街から出て来たのなら、往復で単純に倍の時間が掛かる。

 まさかとは思うが……東側の寒村から出てきたのなら、ここまでで、最短で見積もっても1週間は掛かっているだろう。


 あんな日帰り小旅行みたいな荷物と、手入れが悪くガタが来ている剣で、なんでこんな森の奥深(おくふか)くに居たのか。

 興味は有るが、聞いたらなにやら面倒事に巻き込まれる予感がしなくもない。


 程度の大小は有れど、そんなモノ、訳あり以外に無いだろう。


 靴底が踏んだ小枝の折れる音を聞きながら、どうしたものかと考える。

 周囲警戒で走らせた探知魔法は、付近に危険な野生動物や魔獣は居ないと示している。

 前を歩く少女が街への進路を外れそうならその都度注意すれば良いかと考え、実際に1度か2度声を掛けたが、逆に言えばその程度で済むくらい、彼女はしっかりと方向を見定め、歩いている。


 訳あり少女の身の上話なんて、下手に聞かされても同情しか出来ない訳だが、興味が無いこともない。

 しかし、聞けば面倒なことになりそうな予感しか無い。


 気づけば少女の後ろ姿をじっと見詰め、振り返った少女に怯えたように目を逸らされてしまう。


 ……この様子なら――私が訊かない限り――込み入った話にはならないな。


 身軽に単身で、気ままに観光気分で旅をしたいだけの私は、心に若干の引っ掛かりを感じつつも、そんな無責任な安堵に目を逸らすのだった。

一度、じっくりと話し合ったほうが良いかも知れません。

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