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59 イライラ平行線

思った通りに進まない時は、リラックスを心掛けるのも手だそうです。

 終始こちらと距離を取りたがってる様に見えていた人形、アリス。

 会話を少し重ねただけで何故か好戦的な態度にシフトしたが、その理由に全く思い至らない。


 鑑定とかを使ったとしたら、逆とは言わないが、もう少し慎重になりそうなものなのだが。

 私とアリスのレベル差でなら鑑定は通ったと思われるが、エマの方はまともに鑑定出来たとも思えない。

 私でさえ、エマ本人の許可を得てからの鑑定である程度詳細が見れる程度だったのだ。

 アリスが普通に鑑定を掛けてもレベル差による抵抗(レジスト)に引っかかり、エマのステータス的なモノが知れたとは思えない。


 冷静に考えれば、私とレベルが近いと言っても僅かに私のほうが上だし、それだけでも慎重になりそうなものだが。

 探査の重ね掛けだけではなんだか不安になった私が、鑑定の重ね掛けまでしてみたが、アリス自体には脅威になりそうなポイントは見当たらない。

 寧ろ、アリスが自信満々になれる根拠を一つも見つけられなかった。


 魔法鞄(マジックバッグ)に強力な武器でも持っているのだろうか?


 そんなモノが有ったとして、アリスの内部骨格(フレーム)情報や魔力炉や人工筋繊維の性能、内部骨格(フレーム)内に収まっていない魔力導線等、その構造はマスター・ザガンの2シリーズには劣る。

 フレームの強度を確保する為に導線を内蔵しなかったのだろうが、それはつまり、強度と柔軟性に優れた素材を使えなかったと言う事だろう。

 ある意味で合理的な判断だし、1シリーズ以上の……2シリーズにある程度は近しいモノを造れたのだから、それはそれで驚異的では有る。


 しかし、そんな基本構造で私達に挑むとは、蛮勇どころか自殺願望持ちと見做さざるを得ない。

 私とエマを……マスター・ザガンの人形に対する狂気染みた執念を知らないからこそ、と言ったところか。


 対するエマは、何やら愉しそうに笑みを浮かべている。

 こっちはすごく良く分かる。

 ただただ暴れたいだけで、深い考えも駆け引きの心算(つもり)も無い。

 現在その手に持っている武器は私と初めて遭遇した時も使っていた短刀だ。

 私の見立てでは、恐らく、エマ好みの展開になったとしても、その笑みは長続きすまい。

 残骸の前で文句を言い出す、その様子が手に取るように想像出来た。


 そして、私はと言えば。


 アリスに対する妙な違和感、齟齬感と、相方が私の言うことを聞いてくれそうにない危機感。

 その両方に挟まれて、何処に向けて良いのか判らない苛立ちに背中を突付(つつ)かれていた




「基本性能で私のマスターの設計が、何世代も昔のザガン人形に劣るとも思えない」


 アリスの言葉は、アリス自身が現状を認識出来ていない証左と言える。

 一方で、そう考える私自身が意味も無く見下しているだけ、そんな可能性も考えては居た。

「大した自信だねぇ。良いよ良いよぉ、そういうの私、大好きだよぉ?」

 小声だというのに、味方だというのに、エマの声が私の恐怖心に刺さる。

 眼の前のアリスより、味方のエマのほうが恐ろしいというのはどういう事なのか。


 探査ではなく鑑定まで使って、内部骨格(フレーム)に含まれている魔法銀(ミスリル)の含有量まで調べて、人工筋繊維に使用している魔石の質まで調べた頃にはもう、私は慎重が過ぎて臆病になっては居ないかと自身に呆れていた。


 性能的にはどの数値も人外と呼ぶに相応しいもので、それに加えてレベルも600に迫ると有れば、今まで彼女を上回る敵に遭遇しなかったのも頷ける。

「大した自信はお互い様だろ? まあ、やるなら場所を変えるか。私も一応、護衛依頼中なんでね。商隊(キャラバン)の連中を、巻き込みたく無いんだ」

 実に自信に満ちた台詞である。

 その真っ直ぐさには溜息しか出ないが、溜息の理由は彼女の考えとは恐らく真逆だ。


 真正面から喧嘩腰で対応されたエマはすこぶる嬉しそうに、その両手の凶器をくるくると弄び始める。

 いっそもう、この2体をぶつけてしまった方が色々早いのではないか、そんな逃げを打ってしまいそうになるが、そうしてしまっては平和に領都入り、という私の目的が果たせなくなる。

 私のゆったり観光旅行計画が、こんなどうでも良い衝突でフイになるのは御免である。


 私が人間のままであったなら、血圧が上がって大変な事になっていただろう。




 人類の大部分にとって、いや、どうやらこの世界では生物全体を通してレベル100が一つの壁となっているらしい。


 数多の冒険者でもレベル80到達者は多くなく、90超えは英雄などと呼ばれるらしい。

 そんな世界でレベル100に到達し、更に成長出来るほどの魂の強さを持つ者。

 それこそが聖教国の言う「当たり」の基準なのだそうだ。


 確かに限界を越えて更に強くなるのなら、その力が手駒になるなら、気持ちは理解(わか)らなくもない。

 だが、レベル99を越えられたならば敵は無い、それが思い込みなのだと気付いていない聖教国の連中に迎合する気にはならないし、そんな思いが有るからこそ、かの国の聖女様が私と同じ人形だとは、どうしても信じたくないのだ。


 リズのレベルは知らないが、どうせ100は越えているのだろう。

 そんな存在が、レベル100など通過点に過ぎないと気付いていない訳が無いのだ。


 アリスは自身のレベルを把握しているらしい事から、彼女が世の冒険者連中の大半より強いのだと自覚はしていると思われる。


 自身に匹敵するレベルの(もの)が目の前に居て慌てもしない辺り、数度は自分に拮抗するレベルの者と出会って居たのではないか。

 そして、下して来たのではないか。

 だから、勘違いしてしまっているのではないか。


 人類の基準で決められたレベルの概念では、人形のフレーム性能を正確に測れないということを、知らないから。


「2人とも、落ち着いて対話のテーブルに着いて下さい。私は争いを望みません」

 投げ出しそうになった平和主義者の仮面を付け直し、私はアリスとエマ、双方に語りかける。

 状況が違えば、エマを止めはしないものを。

 そう考えてしまうと、自然と奥歯が噛み締められる。


 レベルというものは、生まれ落ちてから計測するまでの間に培った経験、積み上げた鍛錬、本人の資質やその他。

 そう言った諸々の末に出来上がった能力を、単純に平均化された人類各種族の基本となる能力情報(ステータス)と比較してどれくらい強いのか、ざっくりと数値化したものだ。

 基準が人類なのだから、獣や魔獣、魔物に当て嵌めても齟齬が出るのは当たり前で、同じレベルで比較してしまうとその辺の魔獣の方が人類よりも強い、と言う事もザラだ。


 それが人形になるともっとややこしい。


 基本構造の時点で性能差が出来てしまうので、ステータス比較の段階でエラーが出てしまう。

 ではどうなるのかと言うと、エラーは無視し、経験その他の情報から普通の人類の成長値に相当するものを勝手に計算し、当て嵌めてしまう。

 困った事に、そこまでして無理矢理に弾き出された結果は、個々の実力より遥かに低い数値で吐き出されてしまうのだ。

 素体の基本情報がエラーで計算出来ていないのだから、それが成長してどの程度強くなっても、レベルの数値に反映されていないのだから当然である。


 結果としては積み上げた経験分のみが、レベルと見做されてしまうのだ。


 その辺りの事情を、アリスは全く理解していないし考慮も出来ていないのが、その物言いから想像出来た。

 私が口で説明した所で今までの経験則が邪魔をして納得など出来まいし、試しにエマと戦わせたら、多分あっという間に分解(ばら)されてしまうだろう。

 エマに細かい手加減が出来るとも思えないし、するとも考え難い。


 説得も面倒だしエマを止めるのも手間だし、いっそ私が叩きのめしてしまおうか。

 考えるのが面倒になってきた私の思考は当初の穏便路線を外れ、徐々に物騒度を上げて行くのだった。

そもそも平和主義者を気取るのが、どうかと思うのです。

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