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43 斬殺人形と由来不明の剣

肩身が狭いのは、自業自得です。

 初遭遇時以上、いや正直言って遭遇以来初めての恐怖を相方に覚え、しかし自作のハンバーグが思った以上に美味だった事に満足し、私はエマに手渡された剣を眺めてから、簡易鑑定を掛ける。

 簡易でない鑑定は私の手に少々余るので、集中力を要する。

 つまりは隙だらけになってしまう訳で、それは小さな猛獣の目の前では避けたい所だ。


 他人様(ひとさま)のお宝の為に、わざわざ疲れる様な事はしたくない、とか、そういう事は決して無い。

 無いと言ったら、無いのだ。




 あのライトアップされただけの小部屋で見つけた電源? と思しき黒い剣。

 散々な目に合わされた私では有るが、私はあの部屋に有ったモノを結界とは認めないと決めたし、この剣も最早忌々しいものでしか無い。

 受け取った機会を利用してへし折ってやろうかとも思ったが、まずは心を落ち着けて、その刀身に魔力の目を通していく。


 よく見れば暗い赤のその刀身から簡易鑑定で知れるのは、まず武器種。

 そして銘と言うか、固有名のような何か。

 後は、簡単な性能等、だ。


 それを踏まえて、私の目に映ったモノは、と言うと。


 武器種は長剣(ロングソード)

 見たままだ。


 と、切り捨てるのは少しばかり気が引けるので真面目に語れば、やや短めの刀身で、(つか)が長くしっかりしているため両手で構えることも出来なくもない。

 刀身の長さで言えばショートソードと言うべきなのかもしれないが、そもそもその辺りの区分は曖昧とも聞く。

 鑑定で長剣と出たのだから、素直に従うべきなのだろう。


 銘は「落日」。

 色合いからの名称なのか、なにか他に意味があるのかは不明である。

 詳細に鑑定出来れば判るのかもしれないが、正直そこまでの興味は持てない。


 性能的な面は、長さ82センチに対して重さは2キロちょっと、サイズの割にはやや重い。

 素材はニッケル、クロム、ヒヒイロカネの合金。

 ……そこそこマニアックな名前の金属が出て来たことに驚くが、それが普通に、ステンレス感覚で合金化されている事にも目を丸くする。

 言われてよくよく見れば、暗く沈んだ色合いに落ち着きながらも、なるほど基本色は赤だ。

 ……何故赤い金属でヒヒイロカネとすぐにピンと来たかについては割愛する。

 なにせ、趣味の話になるのであまり深くは語りたくないのだ。


 さておき、興味本位でヒヒイロカネという部分に鑑定を重ねれば、強度に優れ、オリハルコンにはやや劣るが再生能力も持ち合わせている、とあった。


 再生って何だろう?

 刃毀れやら小傷が自動修復するのか?

 ……折れたら2本になるとか、そういう事は無いと思うが、どうだろうか。


 と言うか、そんな大層な代物が、なんであんな、時の彼方に忘れられたような、いち城塞都市の地下にライトアップされていたんだと思えば、備考的な項目で「資格の無い者には解除することが出来ない」とか言う御大層な封印が施されて居たらしい。

 床に刺さっていた、あの状態がそうだったのか。


 そうなると、私は資格無しで、エマには有ったと言う事になる。

 理解は出来るが納得は出来ない。


 資格とは何か。

 気になるような知りたくない様な、複雑な思いに囚われてしまう。

 ともあれ、そんな知り得たアレコレを、私は包み隠さずエマへと伝達するのだった。




 自身が手に入れたお宝のある程度の詳細を知り、ご満悦のエマ。

 合金とは言えファンタジー金属製で魔力伝達も良好、とホクホクである。


 人様の魔法住居(コテージ)の中で武器に魔力を流すとか、危険な事をするなと強く言いたい。


「やったぁ、新しい刃物だぁ! いつぶりだろう、嬉しいなぁ!」


 刃物と言うには、少しばかり長くて物騒な代物だが、まあ、喜んでいる姿は微笑ましいものが有る。

 試し斬りとか言い出さないか、物凄く不安では有るが。

「マリアちゃん! なにか、斬るモノ無いかなッ! それか、マリアちゃんが斬られてくれないかなッ!?」

 不安になった直後に、エマがキラキラと瞳を輝かせてとんでもねえ事を言いだした。


 言うかもしれないと思っていたが、さり気なく私で試し斬りしようとか、予想のちょっとだけ上を行くのはやめて欲しい。

「何か用意しますから、今日は大人しく寝なさい。と言うか、明日にでも遺跡に残っているあれこれを斬り刻めば良いでしょう?」

 大脱走や鑑定で疲れたと言うのに、この上エマとの戦闘など、考えたくもない。

 学習することで戦闘能力の向上を自主的に行ってきた2シリーズのエマと、基礎ステータスは高くとも汎用性に重きを置かれ、更に中身は凡俗な人間であった「私」に変わってしまった3シリーズのこの身体(からだ)では、こと戦闘となるとどうしたって分が悪い。

 エマの性格と言うか、すぐに熱くなる性質(たち)を考えれば、単なる腕試し、で終わる気もしない。


「ちぇっ。しょうがないから、明日まで我慢するよぉ」


 エマの気が逸れた事でほっと胸を撫で下ろした私は、しかしすぐに気が重くなった。

 明日には、エマの気が済むまで「試し斬り」に付き合わねばならない様だ。

 手に合わない得物を羨む様な趣味は持ち合わせていないが、子供(エマ)が自慢げに武器(おもちゃ)を振り回すのに付き合うほど、本来私の心は広くない。

 広くはないが、今は謝罪キャンペーンの期間内でも有る。

 いっそ素直に修練室に案内し、好きに暴れさせてしまえば気が済むだろうか、そう思ってエマを眺めて――私は疑念を嘆息に乗せて諦めた。


 室内灯を反射する赤黒い刀身を輝く瞳で眺めるその顔からは、とても手加減してくれそうな予感がしない。


 修練室を完全破壊されてしまう事は避けたい、いや、それだけで済む気も全くしない。

 私は視え過ぎる悪い未来から目を逸らして余計な事は口にせず、表情固く押し黙るのだった。

修練室の存在がバレるのも、時間の問題でしょう。

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