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39 物のついでの宝探し

なにやら気になる物を見つけたようです。

 その反応は、決して生物のそれでは無く。

 しかし、無機物と言うだけではない、そんな気がする。


 不確かで非合理的な、要するにただの勘でしか無いその何かに向かって、私は黙って足を向ける。


 私が生まれ育った環境とは異なるこの世界の事を、私は聞きかじりの、或いは書物で目にした程度の事しか知らない。

 元の世界の事だって、通り一遍の事すら、知っていると豪語できる程の自信はない。


 だから、旅して世界を見てみようと思ったのだ。

 環境の違う、この世界だからこそ。

 今度は、可能な限りは。

 手の届く範囲のこと程度は、自分で手にした知識として、知っておきたいと思ったから。


「ねえねえぇ。もしかして、怒ってるぅ?」


 自身の中に湧いた知的好奇心に割りと全力で理由付けをしている私に、横合いから声が掛かる。

 見知らぬ者の接近を許しては居ないし、そうとなれば勿論見知った顔なのだが、そちらに顔を向ける気は起きない。

「何を言い出すかと思えば。貴女(あなた)は、私を怒らせずに済んだことが今までひとつでも有ったのですか?」

 当然のように視線を向けず、私は言葉に釘を埋め込んでからオブラートに包んで投げつける。

「ええぇ? 私、誰かを怒らせるとかしたこと無いのにぃ」

 オブラートに包まれた棘だらけの鉄塊を鉄面皮で跳ね返した挙げ句、それが怒らせているんだと言う台詞をのうのうと吐き出した小娘人形は、小癪で小生意気な笑顔を私に向けてくる。


 本気でそう思っているのなら、何故確認したのか。

 とても小悪魔とか言う気になれない、良いところ小鬼だ、これは。


 私はしめやかに無視し、遺跡を抜けるルートを外れた、その先に目と足を向ける。

 探査の結果は地下の床から生える、60センチ程度の棒状の何か。

 まだるっこしく説明するのも面倒なので端的に言うが、鍔のような形状をしている部分があるので、恐らく床に突き立てられた剣とか、或いは剣を模した何かだろう。

 剣だとすれば、保管方法に甚だしい疑問が湧くが、その事は余り問題にする気が起きない。

 問題は、()()の安置されている場所だ。


 これほど時間に侵食されている遺跡の只中で、完全に確保されている空間。


 その理由は、未だに生きている結界の作用に依るものだ。

 ……と、思う。

 私、いや、私達の作成前から存在どころか、既に滅んでいたこの要塞都市の、見た限りなんの変哲もない市街地と思しき遺跡群の地下に、結界まで張って隠されているもの。

 興味を引かない訳が無い。


 気付いたのは、私の探査に結界の一部が反応したからだ。

 そうでもなければ――相方の所為で――急かされている最中、地面の下にまで探知を走らせたりしない。

 それに気付いてから探知範囲を地中にまで伸ばしたが、随所に地下空間が有る事が判った。


 だが、結界に守られた一箇所以外は、相応に崩壊しているか、崩壊しつつ有る状況のようだ。

 なにやら物品が置かれている空間が多数で、場所によっては天井にあたる地面をかなり強めに突付(つつ)いてやれば開通するだろう。

 時間が許せばその辺りも見て回りたいのだが、それには相方の説得が必要となり、それはそれで面倒臭い。

 さて、どうしたものか。


「ちょっとぉ! なんでそっち行くのぉ? この瓦礫の山を抜けるんでしょぉ?」


 その我慢が足りない我が相棒は、最初に示したルートを逸れただけでこのザマである。

 なにやらお宝が有るかもしれない、そう言った所でどれ程興味を引けるものか、そもそもそんなモノに興味を持つのか、想像がつかない。

 人を探して刻んで殺す、或いは爆殺するか、人様の服を勝手に自分向けに改造してしまう事くらいにしか興味が湧かないのでは無いだろうか。


 少し冷静に考えてみると、非常に面倒臭い物体を相方に選んでしまったものである。


「向こうにお宝らしき反応が有るのですよ。興味本位で拝んでおこうかと思いまして」

 まあ、多かれ少なかれ、人付き合いは面倒事がついて回るものだ。

 自分に言い聞かせるようにそんな事を考えながら、口にする言葉の方には大して気を回さず、どうでも良い事のように告げる。

 そんな私の胸倉を、真正面に回り込んだ爆殺人形が掴んで引き寄せる。

 咄嗟に反応できない程の早業は、正しく身体能力の無駄遣いだと思う。

 予想よりも激しい反応に、そんなにここが嫌なのか、そんな事を考える私の右手は反射的に、相手の頭部にアイアンクローをキメていた。

 七面倒臭い人形だ、そんな事を考える私に強引に顔を寄せて、エマは口を開く。


「お宝って、なに?」


 やや必死さが滲む表情から覗く瞳は輝き、その口調は半端に間延び加減が抜けている。

 対する私の表情は、気持ちをストレートに映し、きっとうんざりとした色に染まっていただろう。

「恐らくは剣ですが、詳細は不明ですよ。ただ、こんな忘れ去られて打ち捨てられた都市で、厳重に結界まで張られている空間に安置されている物です。お宝だろうなと思っただけですよ」

 なので、説明もぞんざいで、かつ、いい加減なものになってしまう。

 自分で言ってなんだが、薄弱な根拠である。


 だと言うのに、エマは私に詰め寄る勢いを緩めようとしない。


「だろうじゃなくて、そんなのお宝じゃん! どこ!? どこに有るの!?」


 完全に口調制御を放棄して、私の胸倉を掴んで持ち上げかねない勢いのエマ。

 人形のクセに、なんでそんな物に興味を持つのか今一つ理解出来ないが、どうやら強く関心を引いたらしい。

「だから、今そこに向かっている所ですよ。いつまで人の首元にぶら下がっている心算(つもり)ですか」

 余りの鬱陶しさに、溜息を零しそうになる。

 実際には私が持ち上げられている状況なのだが、それをそのまま認める発言をしてしまうのは癪だ。

 故に、表現には気を付ける。

 エマはと言えば、もっとしつこく食い下がってくるかと思ったが、すんなりと私を開放し、私の前に立って歩き出した。


 私はまだ立ち止まっているというのに、気の早い事である。


「ほらぁ! 私は対人以外の探査は使えないんだからぁ! さっさと行くよぉ!」


 あれほど興味も無かったクセに、現金なものだ。

 せっかくほぼ無人の遺跡に居て、今までお宝が有るかも知れないとか、考えもしなかったのだろうか。

 目的地も判らないのに自信満々で歩くその背中を、私は呆れて眺めながらついて行くのだった。

相方は、思ったよりもお宝に興味津々のようです。

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