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26 選択肢

自分の行動は、しっかりと選んで行きましょう。

 ほんの数分前まで、のんびり散歩気分での旅路だったというのに。

 何で今の私は全力で走っているのか。


 ままならないものだ。




 追われる冒険者に出くわした私は、まず男冒険者の顔面にメイスを叩き込み、そのまま頭部を粉砕させながら振り抜いた。

 何をしでかしたかは知らないが、野生の獣の群れを引き連れて街道を目指すなど、迷惑度で言えば盗賊や追い剥ぎと変わりがない。


 仲間の血や脳症を浴びながら、何が起こったか理解出来ていない様子の女冒険者の頭部も、同様に粉砕する。

 見た目で言えばショッキングだしとてもグロいと思うが、本人たちにしてみれば一瞬で即死である。


 私も随分と慈悲深くなったものだ。


 と、これで終わるほど甘くはない。

 名も知れぬ馬鹿2名が引き連れていたのは、ワイルド・ドッグ……すなわち、野犬だった。


 元々野生なのか野生化したものなのかは不明だが、まあ、あんまり人と友好的ではないお犬様の群れだ。

 犬とは言っても体格はそこそこ有るし、攻撃性は高いし、何より数が多い。

 群れで連携し狩りをすることに慣れている群体に囲まれてしまえば、素人に毛が生えた程度の駆け出し冒険者では、どうしようもなく食肉と化すだろう。


 元来犬という動物は、優秀なハンターなのだ。


 上手く逃げ出せたとしても、下手に噛まれてたりすると狂犬病などの恐れもある。

 そんな恐るべき狩人との戦闘だが、私が心配するのは衣装が痛む、その程度。

 彼らが退く様子を見せるなら私もこのまま立ち去ることも考えたのだが、そんなに甘い話は無い。


 突然の闖入者を警戒してその足を止めているが、お犬様軍団にしてみれば私は獲物を横取りした新たな敵である。

 逃げる心算(つもり)も無いだろうし、私を逃がす寛大さも持ち合わせてはいないだろう。


 ちらりと周囲を見れば、私の腰丈ほどの草むらに隠れて、犬たちは包囲するように囲んでいた。

 ……いやまあ、隠れていると思っているのだろうが、草むらが動いていては探知魔法を使うまでもない。


 魔法と言えば、そう言えば私は、魔法を試したいのだった。


 私は短く考える。

 炎熱系は、こんな場所で使うのは後が大変だ。

 そうとなれば……。


 堪えきれずに犬たちが動き始める前に、私は風魔法で、周囲の草ごと犬を刈り取るのだった。




 今更街道に戻るのも微妙に遠いし、そもそも街道を外れて散歩気分で草原を歩いていたのは私だ。


 たまたま見掛けたトレイン――敵性存在の群れを引き連れて爆走するような輩を見掛けて気分を害した私は、放っておけば街道にまで被害が出かねない、という言い訳の元動き、こうして静けさを取り戻した。


 念の為周囲に探知を飛ばし、返ってきた反応に探査を掛けてみるが、こちらに注視しているような反応は無かった。


 経験豊富な狩人ならば周囲の様子から、何か有ったと察するのだろうが……彼らもまた、野犬を引き連れて走り回るような馬鹿がどうなろうと、知ったことでは無かったという事だろう。


 魔力操作の修練の成果も確認出来たが、結果私の全身の皮膚が服ごとズタズタになってしまい、微妙に凹んでいる。

 どうして私の魔法は、私を巻き込むのだろうか。


 気を取り直して北へと目を向ける。

 私の旅は観光目的以上の意味は無いので、急ぐ理由がそれほど無い。

 手持ちの路銀はまだ余裕が有るし、食料についても同様だ。

 肉類は狩りで賄える訳だし。


 見栄えの良い派手な攻撃魔法は、もうしばらくは控えようと思う。




 それからは少し北への進路を曲げ、地図で見ていた大きな池の畔に立ち寄った。

 思った以上の大きさと自分の想像力の貧困さに衝撃を受け、その畔で立ち尽くす。


 実際に目にしてみれば、湖と言っても差し支えは無いと思う。


 そんな湖の向こうに沈む夕日が見たい、と、良さそうなロケーションを探して周囲を移動し、思っていた以上の景色を目にして(ガラ)にもなく感動してみたり。

 ゆっくり時間を掛けて移動して街を眺める位置まで来たのは、その湖を後にして2週間程過ぎた後のことだった。


 街とは言っても、防壁こそ有るものの、それ程規模の大きな街でも無い。

 勿論村と言うほど小さくもないが、観光客が何かを目的にやってくるような場所でも無さそうだ。


 位置的には、多分ベルネへ向かうか、或いは私のようにベルネから来た者が宿を取り、食料他必要なものを買い込むような、そんな街なのだろう。

 旅人や冒険者に紛れつつ、何故か若干の奇異の目を向けられつつも、私は街の中で宿を取る。


 魔法住居(コテージ)のドアを出すためだけに、人目につかない場所を探すのが億劫だったのだ。

 なんだかんだで路銀に余裕は有るのだし。


 ひょんなことで手に入れた野犬の毛皮を始め、ベルネからここまでの旅路で狩った獲物もいくつか有るので、明日には冒険者ギルドで買い取りをして貰おうと思う。

 やや値は引かれるが、冒険者でなくとも買い取りをしてくれるのだから、利用しない手はない。


 ベルネとは違う静かな街の宿で当座の行動を定めた私は、その食堂で名物だという兎肉のスープを堪能するのだった。




 小さな街は、案の定観光には不向きだった。

 少なくとも、私にとっては。


 もともと景色に頓着する方ではないのに、無理に見て回った所で、あっという間に飽きてしまう。

 宿を引き払った私は、次の旅の準備に取り掛かった。

 冒険者ギルドで路銀は確保出来たし、ナンパか絡んで来ているのか判らない冒険者共をあしらい、のんびり歩いて西門前に到着する。

 思った以上に見るべきものの無い街だったと思いながら門を出て、更に西方向へと伸びる道と、北へ伸びる道、それぞれを交互に眺める。


 取り敢えずの目的は北だった訳だが、若干東に寄ってしまった様で、少し軌道修正を兼ねて西に出るか。

 それとも、そもそもが宛のある旅でもなし、このまま北に向かうか。


 東に出るのは……せめてもう少し北上してから、と思う。聖教国の野望は大きいが世界への進出は遅く、まだ周辺数カ国に影響を与え始めている、程度のモノらしい。

 まあ、そんなに容易く広がるものでも無いだろう。


 地球の歴史で思い返して見ても、一つの宗教を拡げようとするのは並大抵の事ではない。

 その土地に根付く信仰を押さえつけ、消し去り、弾圧して、上書きする。

 或いは、土着の信仰に寄り添うフリをして取り込み、全ては同じ教えの中に有ったんですよ、なんて言いながらその根を広げる。


 どちらを選んでも、必要な時間も、掛かる手間暇も膨大だ。

 途中で大きな不祥事でも起こしてしまえば、計画は大きく後退どころか、下手すれば地域から完全に敵対され兼ねない。


 もう、考えるだけでも面倒臭い。


 そんな事業に手を出して邁進していると言うのだから、まあ、頑張れとしか言い様がない。

 宗教的な側面からの浸透は、そんな感じでじんわりと進みつつある、という段階らしいが、私が近寄り難く思うのは、特にそれ以外の部分で、だ。

 ともかく、私が好もうが避けようが、現状ではそれほど表向きの権力(ちから)は持っていないのだから、近寄り過ぎなければ問題にはならない筈だ。


 考えただけでげんなりしてしまうソレから思考を逸らし、私は西の彼方へと視線を固定する。


 ベルネを出て、ぼちぼち2ヶ月に届こうかという所か。

 聖教国と違い、特に情報もなく、活況を取り戻したと言う話は耳にするのに、そこへと伸びる霊脈は只管(ひたすら)に不気味な静けさを放つ、古い交易の街――アルバレイン。

 探ってみても、何やら騒がしい双子冒険者の話が目を引く程度の、しかし特に大きく目立つ訳でもない。

 理由もなく私の心に引っ掛かった、その程度の、良く有る街……である筈の。


 実の所、かの街にはいつか訪れてみたいとは思う。


 思うがしかし、急いではいけない、そんな気がする。

 その街からも、今は大きく離れている。

 東西どちらに出ても、そろそろ問題は無い気がする。

 それでも東に出るくらいなら、大きく西を回って、それから北に出るのも有りだろう。

 確か、トアズと言う大きな街が、そちら方面に有った筈だ。


 ――この時の私は、聖教国に嫌悪を(いだ)き過ぎていた。

 だから、東に行きたくないのだと思いこんでいたのだ。


 ――西に、引き寄せられているのだ、などと、気付く事も出来なかった。

選んだ心算(つもり)で選ばされていた。良く有る話です。

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