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98 旅の再開

順調に身に付いているようで、結構な事です。拗ねてません。

 認識と言うか、ほんの些細なキッカケで魔法の使い方のコツが掴めてしまったのだが、自身の才能を誇る、なんて気にはならない。

 今まで独学で全然上達しなかったのだから、むしろ才能は無いとしか思えないのだし。


 時々カーラに教えて貰いながら、結界や障壁と、幾つかの攻撃魔法の改良にも手を伸ばそうとか思ってみたり、我ながら手のひらを返したような魔法に対する興味の持ちようである。

 昨日までは鈍器振り回しの蛮族ロールプレイに近い有様だったのに、偉い変わりようだ。

 そんな事を考えながらキャロルお手製の鶏肉、と言うか鳥肉の香草焼き等をいただく。


 わりと取止めもない考えのまま、お昼をもぐもぐしながらなんとなく眺めれば、エマとキャロルの違いに思いを馳せざるを得ない。


 性能や設計思想がほぼ同じ筈なのだが、見た限り、性格が違いすぎる。

 天真爛漫キラーマシンなエマの、その片鱗でもキャロルに含まれていたら嫌すぎるが、キャロルの繊細な料理の腕はそのままエマにコピペして貰っても全く問題ない。


 私とエマは魔法の訓練を、アリスはそれに加えて街に出たら売り払う為の獲物が欲しいという事で時々狩りに出掛け、カーラは講師役に抜擢されて輝いている。

 次の目的地であるアルバレインには最低2名、化物が居るらしい。

 元々急ぐ旅でもなかったのだし、少しでも力を付けられるのなら、ここで多少足を止めるのも問題無いだろう。


 誰も文句言わないし。


 誰より化物な賢者様に関しては、何というか慣れてしまった。

 慣れたというか、もはや頭の上がらない先輩程度の認識になってしまっている。


 この状況を「良い傾向」とする心算(つもり)は毛頭ないが、しかし、利用出来る便利アイテムは使わねば損である。

 どうせエマの辛抱が1週間も続くとは思えないし、癇癪玉が破裂するまでにはある程度の魔法知識を詰め込んでしまいたい。

 魔力操作ももっとスムーズに出来るようになれれば御の字であるが、贅沢も言えまい。


 賢者様にはいつまででも居て良いと言われているが、あまり長々とお邪魔している訳にもいかないし、エマ・タイマーは出立の切っ掛けとしても利用出来るだろう。


 何処までも気楽な私は、アルバレインに付く頃には冬真っ只中なのだろうな、などと、のんびり構えるのだった。




「色々と、お世話になりました」

 素直に頭を下げる私に、やはり変わらぬ笑顔の賢者様が頷きながら応える。

「いやいや、なんだかんだと屋敷の雑事もやってくれていたし、キャロルも良い友達が出来て嬉しかっただろうし。なんならここを拠点に活動しても良いんだけど……街まで遠すぎるからねえ」

 結局、レベルは恐ろしく高いし必然その実力は底知れないのだが、性格的な部分は恐ろしい程に人が良い。

 裏が有るのかと警戒していたが、時々キャロルがメディカルポッドを使うことを頼まれる程度で、他にはなんの対価も要求されなかった。

 そのキャロルは何処か寂しげに、言葉少なく賢者様の隣に立っている。


 表も裏もなくただ親切にされてしまっては、何も返さずに居ることに罪悪感を覚えてしまうので、メディカルポッドをワンセット、こちらからの提案で進呈してしまった。

 ちゃんと活用して頂きたいものだ。


 その事に恐縮した様子で礼を言う賢者様と、それに対して更に礼で返す私。

 賢者様は恐らく元日本人だろうと、ぼんやり考えてしまう。


「有り難いお話ですが、私は世界を、様々な景色を見てみたいのです」

 私の返答に、隣のアリスがしんみりとした表情を浮かべる。

 何故その表情なのか不明だが、特に踏み込んで聞き出したいとも思わない。

 相変わらず私の思考を読んだらしい賢者様が、困ったふうに眉をハの字に寄せて肩を竦めた。

「アルバレインには、ちょっと元気な双子と、そのお友達が居るからね。もし会えたら、宜しく伝えて欲しいね」

 気を取り直したらしい賢者様がごく自然な様子で、忘れそうになっていた私の懸念点を思い起こさせてくれた。


 そうだ、そもそも話でしか聞いた事が無かったのだが、その双子の魔導師を警戒して、ベルネからまっすぐ西に向かうことをしなかったのだ。


「そう言えばそんなのも居りましたね。賢者様は、お知り合いなのですか?」


 口ぶりからして顔見知りらしいのだが、なんとなく質問の形にしてしまう。

 断定する材料が無いのは当然なのだが、こんな化物がお知り合いで無い筈も無いだろう。


「ううん? 存在は知っているけど、会ったことは無いねえ」


 私は賢者様に過剰な期待を寄せていたらしい。


「特に問題を起こす様子も無い……事もないか。でも、ちょっと危険な感じのお姉さんを、妹さんが頑張って抑えてる感じだからね。仲間もいっぱい居るみたいだし、無茶は出来ないってのが本音なのかな? 余計なちょっかいを出さなきゃ向こうが暴れる事は無いと思うし、変な接触の仕方をしなければ大丈夫さ」

 私の落胆が伝わったのだろうか、賢者様が魔法の授業並に饒舌にアドバイスをくれる。

 とても有り難いが、賢者様も直接会ったことがない、というのが若干の残念ポイントか。

 それなりにリサーチはしているのだろうし、まあ、常識的な助言でも有るし、頭の片隅にでも留めておこう。


 良く考えるとマナー以前の、ごく普通の対ヒトの接し方なのだが、これは例の双子が案外普通の人間なのだという意味なのか。

 それとも私に対して、普通のヒトとの触れあい方を良く考えろというメッセージなのか。


 賢者様は当然にこにこ顔を崩さず、答えを教えてはくれない。


「エマのテンションが上ってはしゃぎ出さなければ、問題は無いだろうと思います。ご忠告有難う御座います」


 私も相手によっては多少バイオレンスな対応を選ぶことが有るが、元は日本と言う国で社会人として生活していた身だ。

 その気になれば、波風立てぬ人付き合いもお手の物。

 事無かれ主義では無く、揉め事を起こさぬ様に立ち回る。

 その程度の事は容易いのだ。

「本当かなあ……」

 私の自信満々な思考に、賢者様が冷水を掛ける。

 頭の中を覗くのをやめろと言っているのに、改善しないお方である。


「まあ、エマちゃんが仕掛けたくなる様な相手なんて、そうそう居ないだろうし。ここで私やマリア、キャロルと随分《《遊んでた》》から、暫くは大人しく出来るんじゃないかな? なあ、エマちゃん?」


 私に輪を掛けた楽観的な視点から、アリスが呑気な声を上げる。

 エマの戦闘意欲(あそびごころ)を刺激しそうな化物が2匹居そうだし、訓練はわりと命懸けでとても遊びとは言い難かったし、それで満足して大人しくなるなら私も悩みが減るのだが。


「そうだねぇ。面白そうなヒトが居ないなら、おとなしくご飯食べてようかなぁ」


 アリスに答えるエマの声には、私が楽観も安心も出来ない予感しか漂って居ない。


「なあに、私も居るのだ。並の人間程度なら、問題にもならんよ」


 横から、鍛えてはみたけどやっぱり一番弱い、そんなカーラが自信満々に口を挟んでくる。

 賢者様にもすっかり慣れ、いつしか尊大かつ傲慢な物言いが復活しているが、カーラを戦力に数えるのはそれこそ、並の人間を相手取る場面でしかない。

 なんだかんだで魔法関係は頼りになると判ったので、私もあまり邪険にはしなくなったが、時々失笑と溜息が漏れそうになるのはあまり変わっていないのだ。


 変わっていないと言えば、私も含め、全員が基本、変わっていない。

(私以外の)内部骨格(フレーム)や魔力炉の性能が上がろうが、魔法の習熟度が増して魔法の理解度が深まろうが、どうにも楽観的で。

 良くも悪くもそれが私たちなのだろう。


 いざという時の肉の盾が3枚、より強固になったのだと思えば、私にとって悪い話でもないのだし。


「まあ、うん、気を付けて。またいつでも立ち寄ってくれて良いからね。良い旅を」


 賢者様が少し呆れた色を浮かべたようだが、すぐにそれを隠して、のんびりと右手を差し出してきた。

 私達は順番にその手を取り、それぞれ短く礼を述べる。


 随分とのんびりしてしまったが、学びも多かった。


「それでは、行きます。また御縁が有りましたら」

「じゃあな、賢者サマ! キャロルも元気でな!」

「キャロルちゃん、また遊ぼうねぇ!」

「師匠、行って参ります!」


 それぞれがそれぞれの言葉で別れを告げ、南への旅を再開する。

 季節は、すっかり春だった。

……1週間どころでは無い滞在期間だったようです。

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