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97 詰め込み式魔法授業

内容は、きっと基礎のおさらいと、一足飛びに軽めの応用だと思います。

 学習というものは、必要に迫られて行わねば身に付かない。

 これは一般論ではなく、今までの自身の足跡を見返して得た教訓である。


 よく理解(わか)らない、で済ませていたら強襲され、幾度か肝を冷やす思いも味わった。

 寧ろ思い起こせば、私の場合は実力で生き残ってきたと言うよりも、運良く死なずに済んで来たのではないかと思う。


 いや待て、そもそも死んだから、私は人形になったんだったか。


 ともあれこの先、油断どころか、警戒して居ても気付かぬうちに殺され兼ねない、そんな本物の化物が居るのだと、ここに来ていよいよ思い知らされた。

 格上の想定と言っても、いいとこレベル1000そこそこ程度しか想定していなかったのに、急に5000なんてのが現れたら正直、笑うしかない。


 実際には震えて縮こまっていた訳だが。


 そんな化物も今のところ敵対関係では無いし、何ならフレンドリーですら有るのだが、油断してはならない。

 ならないが、そんな化け物じみた魔導師が魔法の基礎を教えてくれると言う。


 正直恐ろしくも有るが、この際苦手を克服するのも、悪くはないだろう。




 そんな訳で始まった、賢者フシキの魔法教室。

 講師はフシキ氏、アシスタントはカーラ。

 生徒は私とエマとアリス、そしてキャロル。


 配役が可怪しくないか? 

 キャロルとカーラの役どころはそれで良いのか。


「キャロルさんも、少し魔法が荒いところがあるからね。マスター・ザガンは、魔法の教え方に偏りが有るのかも知れないね」


 賢者様の言葉に、私の疑問が速やかに晴れる。

 魔法戦仕様のこの2体は、恐らく攻撃系統に偏重しているのであろう。

 挙げ句妹の方は、魔法戦主体の戦闘を嫌っている有様である。


 エマはキャロルに襲い掛からなかったのか気になるが、変に聞いてそれが引き金になってもマズい。

 巻き込まれるのは正直、勘弁願いたい。


 そんな私の内心はしっかりと隠し、和やかに始まった魔法教室は、思いの外理解(わか)りやすかった。


 不完全とは言え既に魔法を使用しているのだから、理屈・理論は二の次で、感覚的な訓練を主軸に、どうしても理解できない部分に関しては、講師かアシスタントが掘り下げて教えてくれる。

 意外な事にカーラは教え方、と言うか、こちらが何処に引っ掛かっているのか、それを汲み取るのが上手かった。


 先代の感覚的かつ覚えるまで繰り返しのトレーニングが一般的なものだと思い込んでいたので、素直に感動してしまった。


 普段は油断するとすぐに部屋で寝ている、そんなカーラが今日は輝いて見える。

 光源がひときわ輝くのは、燃え尽きる寸前なのだ――とは、思っても言わないでおこう。




 体内魔力――体内を巡るホワホワしたやつ――の操作について理屈というか理論というか、ともかくそういった説明を聞いて、実践を行う。

 これは割りと集中力を使うのだが、講師は魔力操作の基礎訓練をしながら座学を受けろと、そこそこの無茶を要求してきた。


 少し気を抜いただけで魔力が霧散してしまうので、出来れば落ち着いて集中させて頂きたいのだが。

「いやあ。そうすると、僕は黙って見てるしかないでしょ? そうすると、ヒマだからさ」

「少しは生徒を見守る事も、必要だと思いますが?」

 ただの暇つぶしだという告白に対して、私が上げた異議は黙殺された。

 カーラまでがにこにこと、なにやら資料を用意している。


 いつ作ったんだ、そんな物。


 全身に纏わせた魔力が萎みそうな脱力感に耐えながら、渡された資料に目を通してゆく。

 読むことに集中し過ぎれば魔力操作に失敗するし、おざなりにしていると講師の質問に答えられない。

 知りません理解(わか)りませんで通用するのは、最初の数問だけなのだ。

 鍛えているのは魔力の操作の筈なのだが、腹筋やら二の腕やらに無駄に力が籠もる始末である。


 これは意外と、スパルタ寄りな講師どもだ。


 いよいよ楽しそうな賢者様とカーラの活き活きとした笑顔に、そう思わざるを得ない私だった。




 最終的には魔力操作が疎かになったり失敗したら軽めの攻撃魔法を打ち込まれるという、スパルタ寄りとか軽く見ていた数時間前の自分に、もう少し危機感を持てと言いたい状況に陥った。

 それで結果的に成果が上がっているのだから始末が悪い。

 問題提起しようにも、成果が上がってしまってはやり難いだろうが。


 もはや文句を言う対象が自分自身という、割りと進退窮まった感のある私だが、存外と魔力操作が出来てご満悦でも有る。

 そして、魔法に関する授業でも、なるほどと思わされたりもした。


 例えば魔法というのはパッケージングされたものが魔導書として出回っているのだ、とか。

 だから、パッケージの内容を理解できれば、カスタマイズも比較的容易なのだという。

 私も何を言っているんだ? と思ったのだが。

 例えば「火球」。

 ざっくりと言えば、


・火を灯す「魔法」。

・火力を増強する「魔法」。

・形を作る「魔法」

・指定した方向、或いはポイントに向けて打ち出す「魔法」。


 シンプルにしても、この程度の小さな魔法の組み合わせだ。

 更に好みで、


・着弾時、炸裂する。

・着弾しても暫く残る。

・籠められた魔力量に応じて威力を上げる。

 など、手を加える事も出来る。


 実際にはもう少し細かい魔法制御的なモノが色々と加えられ、それらを一纏めにパッケージングして、「火球」というひとつの魔法のように扱っている。

 それはつまり、その内容をきちんと理解して、不要なものは外したり手を加えたり、手順さえ踏めばカスタマイズ出来るのだ、と言う事だ。


 先に上げた「火球」で例えれば、指定した方向へ射出する魔法式を削除すると、なにかに触れるまではその場にとどまり続ける「火球」になる、とか、そう言った塩梅だ。

 初心者の使う「火球」と、上級者以上が使う「火球」では、そもそも中身が違う場合も有るというのは、こういう部分に起因していたのだと納得した。


 魔導書を読み込み、覚えて、そこで満足するか。

 それとも、更に踏み込むのか。

 これはもう、個人の資質による部分も大きいのだろうが、こうして学習する機会があれば、私でさえ気付ける事だ。


 欲をかいて魔法を詰め込みすぎれば、消費魔力が増える。

 魔法式をむやみに増やしても効率が落ちたり、却って手数が落ちたり、組み合わせ次第では暴発したりそもそも発動しなかったりと、パッケージの中身に手を出すのはなかなか敷居が高い。

 だが、知ってしまえば手を付けない等という事は有り得まい。


 私の使う障壁も一度構成を確認してみたいとも思っているし、何なら攻撃魔法の方だって、自傷せずに済む方法が有るのかもしれないのだ。

 魔法を障壁以外上手く使えないと、どこか不貞腐れ気味の私だったのだが。


 ここに来て俄然湧いてきた魔法熱と異世界感に、静かにテンションが上がってしまう。


 エマやアリスが疲れ顔でなにやらブツクサ言っているのを後目に、メディカルポッドを使ったら魔力炉が新造されてすこぶる調子が良い、そう自慢気に話すカーラにも、笑顔で対応出来る私がそこにいた。

ところで、私の教え方に不満があったようですね?

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