第四話 トリニクは気をつけましょう【後編】
討伐を済ませて、無事に初クエストを終わらせた俺たちは、その報告のためにギルドを訪れていた。
「さすが昼間よりも賑わってるな」
酒場と併設しているギルド内は、多くの冒険者たちが酒を飲み交わして賑わっていた。
「ねえ!早く飲みにいきましょう!」
「待て待て、先に報告だ。まずは報酬を受け取らないと─」
「すいませーん!アワアワ酒一つ!」
「もう頼んでる…!?てか俺の分は!?」
カリエはすでに席に座って注文をしていて、結局報告には俺一人で行くことになってしまった。
てかやっぱり俺の分は!?忘れてくれるなよ!?
「依頼を受けていたミワトリの討伐依頼成功しました」
「では冒険者カードの提示をお願いします」
俺は俺のものとカリエから預かっておいたカードをカウンターに出す。
冒険者カードの機能の一つとして、討伐したモンスターがカードに記録されるように なっている。
討伐したモンスター魔力や霊素は、一部が倒した者に吸収、このカードはそれを検知しているのだそう。
ちなみに吸収されたそれらはその者の力となり、これが俗に言う〝レベルアップ〟なのだそう。
「ありがとうございました。こちら報酬の二万アドミになります」
一匹の討伐で二万…月の生活には最低十五万で、月に7、8匹の討伐が必要。
いくら簡単だったとしても一応命懸けの仕事。
それでたったのこれだけ……
この世界は世知辛い…
俺はそれを受け取り席に向かう。
カリエはこの世界のビール的なものであるアワアワを飲んで、もうすでに出来上がっている様子だった。
「おいおい…ただでさえ金に困っているのに飲み過ぎじゃないか?」
しかしまあどうせそんなことは聞いていないんだろう。
これからどうしたものか…
俺は天界に帰れるのだろうか…?
その前にその方法はあるのだろうか…?
それよりもこれから生活していけるのだろうか…?
様々な不安が俺を襲う中…
「汝、今を楽しみなさい…」
「─えっ…?」
カリエは俺に向かってそう説いた。
急なことに戸惑う俺。
「カリール教会の教えよ。ダイジョーブ!なんとかなるって!あたしたちは神様なんだし!不可能はないっていう…ね!」
カリエは満面の笑みでそう自信ありげに言う。
それを聞いて俺は……
「ったくよ…誰のせいでこんなことになっていると思って……はぁぁ…まあいいか!明日のことは明日考えるとする!初クエスト成功を祝って今日は飲もう!飲んで飲まれちまえ!乾杯!」
いつも通りの戯言なのだろうが、それでもなぜか俺は少し元気が出た。
とにかく自由人で気さくで陽気で後先考えなくて…
だけど俺はこんなどうしようもないやつでも、あまり放ってはおけないたちらしい。
その日は夜遅くまで安酒を飲み交わし、他愛もない会話をした。
思えば天界では衣食住は完全に保証され、何もかもが揃っていたが、それ故にこんな刺激は少なかった。
今はそれを楽しもう。
明日の事は明日考えよう。
きっと──なんとかなる……か…
***
それからというもの、しばらくの間クエストをこなし、なんとか生計をたてる生活を俺たちは続けていた。
情報の集まるギルドでも、天界に戻るための手がかりは見つかっておらず、これからどうしようかと考えていたある日、神様の悪戯か、いや悪戯では済まされないな。
俺たちの今後を大きく変える出会いが訪れたのだ。
「うう…気持ちわる……」
俺は人気のない街の川沿いの夜道を、しっかり酒に呑まれたカリエを背負って歩いていた。
「うっぷ…!吐く…」
「は!?おいちょまっ…!ああああああああ?!」
美しい夜の川のせせらぎに、もう一つの汚い音が加わる。
俺は近くのベンチにゲロ女神を座らせ、頭についた汚れを取るために川に近づき、その水で顔を洗う。
「ん…?」
その時…俺は川にかかった橋桁に人影を見つけた。
動かずにただそこに寄りかかっている姿が心配になり、俺はその人影に近づく。
それは濡れた体で大事そうにペンダントを握りしめた、金髪の少女だった。