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第四話 トリニクは気をつけましょう

 トルソニアの隣の小国、トトゥルム合領国山中にて… 空は雲に覆われて薄暗く、雨が降り注いで道はぬかるんでいた。 

 そんな中……

 普段はひと気のない山の中を、数名の人影が歩いていた。

 先頭には黒装束で、兵士を従えているように歩く者がいるが、マントを羽織り顔を伺うことはできない。

 その後ろには屈強そうな兵士たちと、それに囲われた一人の少女。


 少女の腕は鎖に繋がれていた。


 体は痩せこけて殆ど骨だけに近い状態になっていて、背中まである金色の髪はすすや土埃で汚れて、本来の美しい色は霞んでしまっている。

 どこかへ向かっているこの集団は、少女の虚ろな目を除いて、顔が見えず表情を伺うことはできなかった。


 突然…

「うぐあぁっ!!」

 崖に差し掛かった所で、突然の断末魔が響き渡る。

 兵士のたちのうちの一人が剣を構え、黒装束の人物の背に向かって斬りつけたのだ。

 声からして男だと考えられる黒装束は、地面にうつ伏せ固まってしまった。

「よし…追手はいないな……」

 目の前で人が斬られたのにも関わらず、不思議と兵士たちは落ち着いていた。

「どうして……どうしてあなたたちはこんなことを…!これではあなたたちが……!」

 か細い声で少女が兵士たちに訴える

「シュトラール様…どうかこれを」

 そう言って兵士の一人が少女に手渡したのは、金色に輝くペンダント。

「これは……ってちょっと!?何をするつもりです!?」

「責任は全て私が……どうか…ご無礼をお許し下さい!」

 その兵士は崖から少女を放り投げ、少女は崖の下にあった川に落ちてしまう。 

 ─いやだ…

 まだ私には…やらなくてはいけないことが……

 私は…私は……!

 しかしその想いとは裏腹に、意識は段々と遠退いていった。

 流れによってその少女姿が見えなくなるまで、兵士たちはそれをどこか沈痛な表情で見守っていた。

「お許しを……あなたは、この国最後の希望(ヒカリ)…!〝神のご加護〟があらんことを…」


 ***


 冒険者登録を済ませた翌日。

 俺たち二人は街の郊外の草原に初クエストに出ていた。

 昨日はゴトーから貰った資金で宿の一室を借り、過ごしたが、それもいつまでもは続かない。

 早々にお金は稼いでおくべきだ。

 

 あーちなみに…さっきクエストを受けにギルドに行くと、何やら騒ぎになっていた。

 その原因は間違いなく俺だった。

 実は昨日の深夜に、やってはいけないとはわかっていながらも、自分の神パワー全開の力が知りたくて誰もいないギルドに忍び込んでいた。

 例の魔道具を使い案の定それは大爆発を起こしてしまい、翌日にはあの騒ぎだ。

 幸い誰にも見つかってはいないが、自分がカリエと同レベルの自制心しか持っていないことを知って、かなり反省している。

 お金が溜まったら匿名でこっそり全額賠償しておこう。

 それまでにバレないことを祈る……


「あっ!いたいた!ゼーゲン!あそこにいるわよ!」

「おい!見つかる前に早く隠れろ!」

 目標を見つけた俺たちは咄嗟に近くの草むらに飛び込み様子を伺う。

 白い羽毛、黄色いくちばしに赤い鶏冠、どこかの世界にいるような飛べない鳥。

 それでいて体長は俺たちの倍はある。

 そしてなんといってもそのモンスターの象徴とも言える分かれた三つの頭……

 こいつが今回の討伐クエストの討伐対象、[ミワトリ]だ。

 初心者冒険者の登竜門とも言えるモンスターで、下の中の強さ程度しかない。

 三つの頭はそれぞれの意思を持っているが、何せ知能がそのままの意味でチキンなので、コミュニケーションやチームワークは皆無で、全くその意味をなしていないらしい。

 普通に生活していても首が絡まり窒息死。

 餌を見つけても他の頭がそれに気づかず別の方向に行こうとして餌にありつけずに餓死。

 挙げ句の果てにはそもそも体が大きく、自然界では目立つ色のためあっさり天敵に見つかり殺される…

 なんか可哀想な生き物……!

 世界の生き物は全て創造神様が創ったらしいけど…

 変わった趣味でもあるのか…?

 

 だが今回はそう油断はできない。

 カリエはいくら才があっても杖がなければどうなるかわからないし、魔剣士の俺も持っているのは先日盗賊から奪ったショートソード一本のみで、魔法の威力は半減してしまう。

 圧倒的に装備が足りていない……

 せめて防具くらいは欲しかった。

 まあ…愚痴を言っても仕方ない……

「周りに他の魔物の気配はないわ!やるなら今よ!」

「よし…あいつに一発魔法をお見舞いしてやれ!」

「任せなさい!烈火の如く!燃え尽きろ!紅蓮の中で!《フラムシュトルーデル》!」

 カリエが魔法を唱えたことで、ミワトリの足元には赫色に発光する魔法陣が現れる。

 そこから炎が立ち昇り、渦を巻いてミワトリを飲み込んだ。

 抵抗する間も無く炎に焼かれたミワトリは、やがて炎が収まると、鳥の丸焼き姿になっており周囲に香ばしい食欲を誘う匂いを漂わせている。

「上手に焼けました!」

「どこで覚えたそんなセリフ……上手に焼けたはいいけど、別のモンスターがよってくるから処理しておけよ?」

「え?食べないの?」

「いやこういう生焼けのトリ肉は……ってもう食ってるし!腹下しても知らないぞ……!?」

 ちなみに、生焼けのトリ肉は危険。

 そのことを後日カリエは身を持って知ることになるのだが……それはまた今度だ。

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