第三話 新たな1ページ【前編】
その後、野営地にて。
話をしていると、まもなく日が暮れ、夜はモンスターも多く出てきて危険とのことで、俺たちはその場で一晩野営をすることになった。
馬車を円形に囲み、バリケードのようにすることで、比較的安全に過ごすことができるらしく、黒焦げになったものを除き、その形に馬車を移動させてある。
この世界に電気なんてものはなく、焚き火くらいしか明かりのないこの辺りは、夜になると真っ暗で本当に何も見えないのだ。
「お二人はどこを目指して旅をしていらっしゃるんですか?ああこれ、」
差し入れらしき焼肉を持って話しかけてきたのは、商隊のリーダータウンだった。
「まあ当てのない旅ですよ。世界を知るために色々まわってみようかと」
「なるほど。旅となると、お二人はやはりギルドへ登録されているのですか?」
「い、いや〜それが俺たちはそういうのはまだやってなくて…」
─とは言ったものの。
「ギルドかあ…」
[冒険者ギルド]
こういう世界ではお馴染みの、依頼やクエストをこなして、冒険者たちが一攫千金を狙う国を越えた組織だ。
助けてもらったお礼として、いくらかお金はもらっていたが、それも有限。
これから天界へ帰る方法を探すのにも、資金が必要になってくる。
まあ面倒くさがりのカリエは嫌がるだろうが、謹慎中のあいつには、無理矢理にでも手伝ってもらうつもりだ。
「タウンさんはこの先の街まで行くんですよね?その街にギルドの支部はあったりしますか?」
「はい、この先のトレードという街は、始まりの冒険者の街として有名所ですよ。ギルドはもちろん武器屋や魔道具店なんかもあるので、冒険者を始めるなら最適な場所ですよ」
「おっ、なんだあんたたち冒険者になるのか?」
そう言ってきたのは、護衛の冒険者のゴトーだった。
「それなら俺があんたらをギルドへ紹介してやるよ!紹介という形なら、登録もスムーズになる」
─それは願ってもないことだ!
「ぜひお願いします!」
「おうよ!あんたの腕前なら、すぐにランクは上がるはずだ。頑張れよ!」
そう言って歯を見せて笑ったゴトーは、持っていた酒を一気飲みして、他の仲間たちの元へと千鳥足で歩いて行ってしまった。
***
翌朝、俺とカリエは馬車の後方の席に乗せてもらい、街へ向かった。
街までは半日程かかってはしまったが、交通手段が馬くらいしかないこの世界では普通の事だろう。
「見えてきた!見えてきたぞ!」
揺れによって腰とお尻が少し痛くなって来た頃、同じ馬車に乗っていたゴトーから言われ、カリエは我先にと馬車から顔を出す。
「あれが目指していた街の……なんだっけ?」
「トレードだよ!始まりの冒険者の街トレード。忘れるなよ…」
[交易街トレード]、物流の要所であるこの街は、世界各国から一攫千金の冒険者を夢見る者たちが集まり、そして世界各地へ旅立ってゆく。
「この辺りのモンスターはそこまで強いものはいないし、街の周辺は資源が豊富で採集クエストなんかの簡単なものも多い。伝説の冒険者たちだってこの街出身らしいし……案外あんたらが次の伝説かもな!」
「はは……それは…どうでしょうか…?」
正直興味はない…というより伝説よりも俺は天界へ帰る方が先決。
向こうでの仕事も放っておいたままだし、早く帰りたくはあるが……まあ休暇と思えば案外悪くないのかもしれない。