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第二話 人助けも仕事【後編】

 静かな時が流れる。

 お互いがお互いを睨み合い、機会を伺う。

 強い者ほどこの間の取り方が上手い。

 しかしこのおっさんはこの間を耐えきれず、剣を振りかぶった。

「悪いが俺は元騎士で昔から何年も剣を振ってきたんだ! お前程度にはまず負けない! 俺を舐めんじゃねえええ!!」

 盗賊リーダーはその大剣で俺に斬りかかる。

 こうなれば後は簡単だった。

 

 これでも俺は神様なのだ。

 最近はサボり気味だったが、本当に昔は毎日剣の修練に勤しんできた。

 だからせいぜい数十歳の若僧なんかと比べてもらっては困る。

 目と鼻の先に迫った剣を俺は受け止め、相手の力を利用して受け流す。

「うぉっ!?」

 男は派手に一回転をして転がっていく。

 そして男は先程よりも興奮したようすでもう一度立ち直り、同じように力任せの剣術を俺の脳天に繰り出す。

 それを防御してみせると、剣を跳ね返された男は雄叫びを上げながら単純な斬りつけ攻撃をただひたすらに繰り出し、俺にことごとく弾かれるのを繰り返す。

 しかし限界がきたのだろう。

 だんだんと剣の速度やパワーが落ちていき、満身創痍になっていく男。

「これで終いだ」

 男が振りかぶっている最中に、ガラ空きの胴体に一撃を浴びせると、男はそのままうつ伏せに倒れ意識を失った。

「ふぅ…」

 

 ***


「いやーこの度は本当に助かりました!」

 あの後リーダーがやられた盗賊たちは、バラバラに散っていってしまった。

 俺の前にいる小太りで中年の白髭を生やした男はというと。

「わたくし、この商隊のリーダーをしております。商人のタウンと申します! いや〜助かりました!護衛もやられてしまって、もうどうしようもなかったものですから…お名前は確か…」

 その様子から、どうやらさっきのカリエの名乗りは聞こえていなかったらしい。

 それなら神様だというのは隠しておこう。

 どうせ信じてはもらえないだろうし、変人扱いされて後で面倒なことに──

「聞いて驚きなさい! 私は女神である…」

 ──コイツ…!

「むぐっ!?」

「めが…み?」

「あ、あーいえいえ!お気になさらず!…少し失礼します」

 俺は慌ててカリエの口を抑え、道端の岩陰に引き込む。

 俺はカリエに問い詰めた。

「ねえ…状況わかってます?」

 そうするとカリエは自信満々に言う。

「私たちが神様だとわかってもらえれば、祈られて貢ぎ物やらなんやらでここでの生活にも苦労しないはずよ!」

「バカか? バカなのか? いきなり現れたやつに「私は神様です」って言われて信じるやつがいるかっ!変人扱いされて終わりだ!」

 先程盗賊に囲まれて怯えていたはずなのに、もうこのザマだ。

「だって私神様なのよ!? 女神なのよ!? 祈られて感謝されて贅沢だってしたいのよ!」

 天界の校舎を消し飛ばした爆破魔が何をいっているのか。

「…とりあえず、今は大人しくしておけ。頼むぞ?マジで頼むぞ?」

 そしてまた馬車の近くに戻る。

「えーっと…私はゼーゲンといいます。さしずめ旅人といったところでしょうか。こいつは旅仲間のカリエです。たまに変なことを言いますが…まあ放っておいて下さい」

「あたしを手間のかかる子みたいにいうな!」

 手のかかる子供のことは置いておいて、この商隊のリーダー、タウンと話をしてみて色々とわかったことがある。


 まず、この場所はトルソニアという内陸の国の東にある街道らしい。

 そして彼らは、この先の街へ行商をしに行こうとしたところ、盗賊に襲われ俺たちに助けられたらしい。

 品物は少しダメになってしまったらしいが、大したことはないそうだ。


「あんたが俺たちを助けてくれたお方かい?」

 そう言って現れた若い丸刈りの男は、ゴトー。

 ファンタジーでお馴染みの冒険者という職業の男で、馬車の護衛を任されていたが盗賊にやられてしまったところを、俺たちが助けたという感じだ。

「ほんっとうにありがとう! 俺ももうここまでと思ったらが、あんたらのおかげでもう少し生きられそうだ!」

 今は回復魔法で治癒をして傷は塞がっているが、右肩から逆の脇腹にかけてシャツが斬られており、その部分が血で染まってしまっている。

 流石は文字通り〝命懸けの仕事〟だ。


 そして…こういうことには大体のテンプレが決まっているのである。

 命を助けてもらったんだ。

 そうなれば言うことは一つ─

「あんたらは命の恩人だ!何かお礼をさせてくれないか?」

 ──その言葉を待っていた…!!

 考えてみたが、今は持ち金もゼロだ。

 そしてこの身体は空腹になるらしく、現在俺のお腹の容量は10%を切っている。

 今は天界に帰るよりも先に、飢餓を避けるためにお金が必要なのだ。

「ああ、それならぜひ──」

「命の恩人だなんてそんな!自分たちは何もしていませんよ! お礼は結構なので…その代わりと言ってはなんですが…よかったら我がカリール教会に入信を…ってどうしたのゼーゲン? そんな怖い顔で私を見ないで頂戴? ねえ…ねえってばぁ!」

 そして俺の話を遮って余計なテンプレ台詞と余計な勧誘をする元女神を、俺は剣の柄頭で頭を殴打する。 またもや、痛そうに頭を抑えたこいつを岩陰に連れ込むと、俺は本日二度目の説教を開始したのだった。

  

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