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第二話 人助けも仕事【前編】

 

「オラァ! さっさと金目の物を出しやがれぇ!」

 5台ほど連なるように街道に止まった馬車。

 その隣で縛られ、一つの場所に固めて集められている人たち。

 そしてその人たちに剣を突きつけ、金品を要求する全身黒装束の者たち。


 俺たちは木の影からその様子を窺っていた。

「あの煙を目指してきたらこんなことが起こっているとは…」

「下界に来て最初に目にする光景がこれだなんて…穏やかじゃないわね」

 大きな煙を見つけたのでそこへ行ってみると、商隊か何かだろうか?

 人間たちが盗賊に襲われていた。

 ふとみてみると、周りには護衛らしき数名の武器を持った者たちが倒れていて、怪我の具合から見てもう戦えそうにはない。

 そして馬車の中には一台、元々は馬車であっただろう残骸があり、さっき程ではないが黒い煙があがっていた。


「まだ終わってねえのか?さっさと金品を掻っ攫ってズラかるぞ!」

「「へいお頭!!」」

 すると馬車の陰から現れたのは、他の賊たちから「お頭」と呼ばれる筋骨隆々の男。

 仲間たちに色々と指示をしていることから、どうやらあいつが盗賊のリーダーらしい。

「あ、あなたたち!そんなことをしていては、いつか神の天罰がくだりますよ!」

 すると縛られていた人達の内の一人が、盗賊たちにそう言い放つ。

「これが成功すれば一生遊んで暮らせる! 神なんてクソくらえだ!」

 しかしそんなことは無視して金品を集め続ける盗賊たち。

 まさか本物の神様が目の前で見ているとも知らず…

 あいつらは今度本当の地獄送りにしてやる…!

 しかしここで飛び出して「俺は神様です」、なんて言っても信じてもらえるわけもないので、今はまだ大人しく様子を伺いながら策を──

「ちょっとあたし、あいつらに天罰くらわせてくるわ!」

「え? …おいちょまっ!」

「とりゃっ!」

 俺の制止も聞かず飛び出したカリエは盗賊達の一人に対して突っ込んでいき、脇腹に会心のライダーキックを食らわせた。

「ぐふおっ…!?」

「なっ…なんだ!? なにしやがるてめぇ!!」

 そんなことされて、盗賊達は武器を取り出しカリエを睨めつけ、一気に警戒をされる。

「ふっふっふ…聞いて驚きなさい! 私は崇高で美しく、気高きカリール教会が崇める御神体! そう…!この私こそ女神カリエなのです!」

 その自己紹介を聞いて静まりかえる現場だったが、残念ながらそのすぐ後には。

「ぶはははははははは?! なんだって? お前みたいなガキが女神?」

「そんなわけがあるかっ! 第一にそんな教会聞いたこともねえぜ?」

 だんだんとカリエの体が震えていくのがわかる。

 まあ、普通は信じないな。

 そもそもそこまで有名ではないだろうし。

 知らない人がいてもおかしくない。

「るっさいわね!? 女神にそんな態度とったこと…後悔させてあげるわ! この愚か者たちに聖なる裁きを!《白き絶望…我が力をもって神々の怒りを今ここに顕現せん!我は…》」

 多くの魔力がカリエが突き出した手元に集まってゆく。

 次第にそれは光を放ち、

「ん? …ちょっと待て! その詠唱は…! あのバカッ?! なんて魔法を…!!」

 それは端的に言えば、神のみが使うことの許された、いわゆるチート魔法。

 本来は世界を揺るがす大罪人に使うような魔法で、こんな地方の盗賊なんて小悪党に使用していいものではない。 

 俺が制止するまもなく、カリエは詠唱を終えて魔法を相手に向かって放とうとする……が。

「ありゃ…!?」

 盗賊たちに向かって突き出した手のひらからは、

「スカッ」というような音が聞こえてきそうな煙が出てきただけで、周囲に変化はなかった。

「え!? ちょっと!? なんで発動しないのよ!?」

 周囲の盗賊がカリエを小馬鹿にしている間、俺はあることを思い出した。

 ここへ来る前、カリエはボヤ騒ぎの責任として神様の権利をしばらく剥奪されている。

 つまり今のあいつは、本当にただの人間でしかないのだ。

「おふざけは終わりだ。大人しくしていれば悪いようにはしないぜ」

 盗賊の一人がカリエの腕を掴む。

「ちょっと!? 離して! 離してってば!!」

 身動きも取れず、どうしようもなくなったカリエは、必死に抵抗している様子だったが、非力な力で盗賊を振り払うことはできそうになかった。

「はぁ…しょうがない…やりますか……」

 いくらあいつが駄女神だったとしても、付き合いの長い友人なことに変わりはない。

 俺はそろそろあいつ助けることにした。

「があっ!?」

 突然盗賊の一人が地面に倒れ込む。

「おいおい…自分から出て行ってそれは流石に情け無いぞ」

 その背後から俺が姿を現すと、盗賊たちは一斉に武器を向けてきた。

 実はこっそり盗賊たちの背後に潜んでいた俺は、拾った岩でその盗賊の頭を殴打したのだ。

 なに?神様らしくないって?

 そんなの勝てばいいんだよ勝てば。

「ちょっと遅いわよ!」

「うるさい! 助けてもらってるのに、いちいち文句言うんじゃありません!」

 全くこの駄女神は……

 まあとにかく、今はこちらが先決だな。

 盗賊たちは武器を構え、少しずつ警戒しながらこちらに歩み寄ってくる。

 俺はカリエの前にたち、泡を吹いて気絶した盗賊から剣を抜き取る。

「剣はいつぶりかな…?腕は落ちてないといいけど」

 そうしているうちに盗賊の一人が斬りかかり、相手の横薙ぎをしゃがんで躱し、懐に入った俺は相手の防御が間に合わぬうちに上半身を斜めに斬り裂く。

 間髪入れずに、今度は盗賊三人が斬りかかってきたのを同時に受け止め、回転斬りで一掃。

「なんだよコイツ…!」

「おめえらは下がってろ!」

 すると奥で見ていた盗賊のリーダーが、俺の身長程はあろう大剣を取り出し俺に対して定番のセリフを言い放った。

「テメェ…なにもんだ?!」

 だから俺は正直に答えた。

「なにって…ただの《通りすがりの神様》さ」

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