序章〜第一話 思い出したこと
第一話投稿です。学生なので毎日は厳しいかもですが、なるべく早く投稿目指します。誤字があれば報告をよろしくお願いします。
青い空と白い雲。
いつの間にか草原に寝転んでいた俺の体には、心地よい風がふき、地面の草が素肌に当たって少しチクッとする。
〝何か大事なことを忘れてしまっている〟ような気がする…
こういうことは思い出しておこう。
ここで後回しにしてしまうと、きっと後々後悔することになる。
俺は少し前までの出来事を整理した。
***
どこかで見たことのあるような、古代ギリシャ風の神殿。
その周りは霧に覆われて、その先を伺うことができない。
穏やかな陽光に似た白い光が差し込むその神殿の中に、置かれた木製のデスクと椅子。
そこに俺が腰掛けている。
俺の名をゼーゲン。
まあ端的に言えば、人間たちの間でいう神と呼ばれる存在だ。
俺の仕事は、死んでしまった人間たちの魂を、新たな肉体に宿らせる、いわゆる転生をさせるというもの。
俺のデスクの前に置かれたもう一つの椅子。
魂だけとなった人間はそこに座って、俺から軽く説明を受けた後、どこかの世界の誰かの子となって、転生を果たすのだ。
そして、今日もいつも通り俺は仕事をしていた……のだが。
俺自身、元は人間から神という存在になってからというもの、この仕事は割と長い間やってきて、これまでに色々な人と会ってきた。
だがそんな俺でも、まさかこんな珍客は初めてだった。
霧を抜けてやって来たのは一人の少女。
俺は慌ててこっそり食べていたお供えものの、プライドポテト海苔塩味を片付け神様らしい神々しい座り方で椅子に座り直す。
腰まである一つにまとめられた白銀の髪、目を惹くような白い肌と、表現するならば女神のような美貌と呼べる美しい顔。
そしてその中にある吸い込まれるような魅力に満ちた真紅の瞳。それでいてどこか幼さを感じる表情。
出過ぎず足らなさ過ぎずの完璧なバランスの躰を、魔法使いが身に纏うような純白のローブで覆い、神殿内のこの空間とも相まって、どこか神聖な雰囲気が感じ取られる。
少女が無言で椅子に腰掛け、なぜかお互いを見つめ合う。
少し気まずいような沈黙が続いたあと、このままでは何もできないので、俺からきりだす。
「……何やってんだ? こんなところでお前……」
「……」
彼女は視線をそらして沈黙を続ける。
「俺は今仕事中だぞ?冷やかしに来たなら帰ってくれ〝女神様〟?」
そう…彼女の名はカリエ。俺と同じ神様である。
俺とは同時期に神様になった少女だ。
「い、いや〜まさかこんなところに来ちゃうなんてね……」
普段は後先考えずに突っ走る猪突猛進の彼女だが、今日はなんだか様子がおかしい。
笑顔をつくってはいるが、少し表情が暗い。
俺が悪口や文句を言えば突っかかって来るはずの彼女だが、今日はそんな様子もない。
「おい、どうしたそんな顔で? お前らしくもない……」
俺がそう問うと、カリエは一つ息をついて話し始めた。
「ねえ聞いてよぉー!実はね……この前あたし、ちょっとしたミスをしちゃって……」
「ちょっとしたミス?」
「ええ、先日天使たちの魔法学校に講師として行ったんだけど……そこで爆発魔法を披露したら火力調整を間違えて、研修に使われた校舎を……」
「焦がしちゃったとかか?」
「いえ、全部粉々になっちゃって……」
「あーそうか。確かにあそこの建物に何かしちゃうと上は黙ってな……今〝粉々〟って言った?」
「うん、それはもう綺麗に」
──なにやってんだコイツ…
天使たちの魔法学校は俺たちよりも、上位の神様によって造られた、結構歴史のある重要文化財。
魔法の実力こそあるカリエだが、講師なんて大役を授かって、調子に乗って変な魔法でもぶっ放したんだろう。
「それで、しばらくは女神の資格も剥奪されて、下界で人間としておとなしくしてろって上から……」
「なるほどそれで〝転生〟するためにここに来たわけか。ま、そういうことなら、上の指示通りにするしかないな。まあせいぜい人間の体の寿命はもって百年。それまで我慢だな」
人間に転生する時にはいくつかの世界がある。
例えば原始の世界や科学の世界、剣と魔法の世界もあれば機械の世界だってある。
幸せに暮らせる世界に転生できるかは、俺も選べない完全なる運なのだ。
「ねえ、せっかくだからあんたも一緒に来てよ」
「え? 嫌だ」
「なんでよ!」
カリエは口を膨らませこちらを睨むが、当たり前である。
そもそも俺には仕事がある。
コイツの後にも案内を待っている人間たちがいるのに、ここを放り出していけない。
そもそも問題起こして謹慎処分のこいつと一緒にいく理由がない。
そろそろ仕事も滞ってしまいそうなので、過去形で女神のこの少女をさっさと下界に送ることにした。
パチンっと俺が指を鳴らすと地面に大きな穴が現れる。
そこからは下界の平原が空高くから映し出されていて、風が吹き込んでいた。
これは下界に通ずるゲートで端的に言うと、ここへ入ると人間へ転生ができる。
「ねえ、あたしもう少しあなたとお話しできたらなーって……」
そう言って自分の頬に手を当て、あざとい表情でこちらを見つめる。
ただ──
「下手くそっ!! そんなレベルで俺が落とせると思ったら大間違いだっ! いいからさっさと入れっ!お前の後にも人がつっかえてるんだ!」
「下手くそって何よ!あたしの渾身の秘技なのよ!?ちょっと! 押さないでよ! 絶対に押さないよ!?」
「それはアレか? どこかの世界であったフリか!?」
「フリじゃないってばああああああああああああああああ?!」
俺は容赦なくカリエを突き飛ばし、カリエは穴に真っ逆さまに吸い込まれていく──はずだった。
カリエは落下を防ぐために咄嗟に、俺の腰のベルトを掴んでいた。
そして俺はそのまま穴に落ちそうになった所、俺はつっかえ棒の如く両手両足を広げ、落ちそうなのをギリギリ堪えていた。
「おまっ!? ちょっ、早くその手を離せ! 俺の腕がプルプルしてる…! さっき食べてた海苔塩で手が滑る…!」
「勤務中にそんなもの食べてるんじゃないわよ! それに思ったよりここ高いんですけど! 高いところはあたしあんまり得意じゃないんですけど!?」
「いやそれは見た目だけだから! 高いところから落ちるわけじゃなくてここから行けば人間の体になるだけ……」
その時
──ズルッ
「あっ……」
俺の抵抗虚しく、二人一緒に吸い込まれて行ってしまったのだった。
そして俺は心に誓った。
ポテトは……うすしおに乗り換えよう!!
***
あの穴は天界と下界を繋ぐゲート。
そして一方通行でつまり天界に帰る事ができなくなってしまった。
そのことを思い出した俺は。
「あんのバカたれがっ! なんてことしてくれやがった!」
俺は慌てて飛び起き、辺りを見回す。
俺の右隣には、さぞ気持ち良さそうに陽の元で寝ているカリエの姿があった。
そんなカリエの頭を俺は容赦なく引っ叩く。
「いったあーい?!」
俺はカリエを地面に正座させ、説教を開始した。
「お前…どうしてくれるんだ!」
「い、いやー…気づいたら無意識に掴んじゃってて……」
「掴んじゃっててー…じゃねえよ!どうしてくれるんだ!おれ帰れねーじゃん!」
さっきも言った通り、あのゲートは一方通行。
俺たち神でもあのゲートを逆からくぐることはできない。
そして気になる点がもう一つ。
「ねえそれにしても、あたしたち人間の肉体に宿っているのはいいけど、なんでそのままの見た目と年齢でいるの?」
さっきは凄く申し訳無さそうな駄女神だったが、話題を変えると、何事もなかったかのようにけろっとしていた。
この駄女神を一発ぶん殴りたい気持ちは置いておいて。
あのゲートをくぐると通常、魂はどこかの人間の胎児に宿って産まれてくるはず。
だが、なぜか俺たちはそのままの姿で、何もない草原に放り出されてしまった訳だ。
考えられる要因は。
「あのゲートの管理者は俺だ。ゲートを発動させた俺を、お前がそこへ引きずり込んだせいで誤作動が生じたんだろう。どうしてくれるんだ全く…」
「ま、まあそれでもしばらく畑でも耕しながら過ごしてたらすぐよ! すぐ! 人間の肉体はせいぜいもって100年だし!」
こいつの思考は楽天的過ぎる…
こいつはそうでも、俺は天界に置いてきた仕事が山ほどあるのだ。
それを俺は百年間も溜めることになる。
どこかの世界の事柄で例えたら、学生時代の全ての夏休みの宿題を、10倍にしてやらねければいけないというくらいのことだ。
こうしてはいられない…!
なんとかして天界へ帰る方法を見つけなければ…
そんなことを考えていた時──
それは静かな草原に突如鳴り響いた。
背後から体の奥底に響くような爆発音が耳を貫き、少し遅れて突風が俺たちをすり抜けてゆく。
振り返ると、少し遠くでは大量の黒煙が立ち昇っており、それは到底自然界では見ることができないもの。
人間…遠くから感じる大きな魔力、おそらくは魔法によるものだろう。
だが明らかにあまり良い事態であることは間違いない。
「行ってみましょう」
「そうだな…まあとりあえず行ってみるか」
下界に来て最初の出来事がこんな事件じみたこととは。
俺たちは煙に向かって駆け出した。