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第二十九章『若狭湾からのぉ~』 

 夏の大会が終わった翌月、八月の真っ只中、オレ達三バカトリオは夏の馬鹿(バカ)ンスの計画を練っていた。狙いは水着のギャルである。

 一昨年の白浜旅行では漁獲でいう所の大漁だったオレ達は、若干一名を除いては懲りもせずこの年も夏のビーチで新しい出会いを求めていた。若干一名というのは三浦である。三浦は一昨年の琴代ちゃんとあれ以来うまく行っていた。三浦にしてみれば夏の大会の疲れを癒す旅だったのかも知れないが、オレ達二人はそうではなかった。夏といえば水着姿で海岸を楽しそうに走り回るギャルである。漁でいえば漁獲の時期である。これを放って置く手はないのである。目の前に食べて下さいと群がるカンパチを、「いやぁ~、俺は魚は苦手だから……」というヤツはアホである。据え膳食わぬは男の恥という言葉があるように、夏のビキニを身に付けたカンパチ達も、きっとオレ達に食して欲しいはずである。


「そやけどどうするねん。また白浜か?」


 三浦が言った。


「ん~ん。白浜も捨てがたいが、今年は日本海攻めてみやぁ~へんか?」


 オレが言うと、


「ほな若狭か!」


 とタッケンが乗って来た。


「そやのぉ~、日本海で獲れる新鮮な女体は感度抜群や言うしのぉ~」

「たけっちゃん。それ誰が言うとったねんッ!」


 タッケンの指摘に、


「この前NHKのニュースで言うとったんやかい!」


 とオレは答えた。


「んなアホな! そやけど暑いのぉ~、たけっちゃん麦茶か何かないかぁ~?」


 ややこしいがタッケンはオレの事をたけっちゃんと呼び、三浦はオレの事を武と呼んだ。


「ちょっと冷蔵庫見て来たるわ、待っとけ」


 オレは台所に行って冷蔵庫を開けた。冷蔵庫の中にはドリンク類は何も入っていなかった。


「何もないわぁ~、コーヒーやったら作ったるぞ!」


 台所から叫ぶオレの声に、


「それでええよ!」


 と壁越しに二人の声がした。


「砂糖は?」

「俺はブラック」

「俺は甘めで」


 卓上に置いたカップにインスタントコーヒーの粉を入れて沸かした湯を注ぎこむ。その横にはライフオリゴ100があった。ライフオリゴ100とはオリゴ糖純度100%の内のオトンが開発した商品である。通常のスーパーや薬局などで売っているオリゴ糖は純度30%前後に対し、効き目も30%前後あるかといえばそうではない。混ぜ物があるので効き目は更に落ちるのだそうだが、内のオトンが開発したライフオリゴ100は純度100%なだけに効き目も凄いのである。お通じがヤバいくらいに良く出るのである。味は水あめのように甘いが身体には糖分として吸収しないので、オレは甘めと言ったタッケンのコーヒーに大量にライフオリゴ100を投入してやった。後で何度もトイレに走る姿を見たかったからである。早い話がイタズラである。

 これまで健康食品を扱いながら新たな事業を立ち上げる為の準備を整えて来たオトンは、この年の初め五二歳という歳になって一念発起し、(株)ライブリィ・ライフという健康食品の会社を設立したのである。主にオトンの会社の商品の二本柱は、先ほど述べた『ライフオリゴ100』と『ライフ核酸』という栄養補助食品だった。


「ほらコーヒー出来たぞ!」


 オレは笑いを噛み殺しタッケンの前にコーヒーを置いた。


「わっ、めちゃめちゃ甘いやん」

「お前が甘めて言うたから大量に入れて来たったんやんけぇ~、甘すぎるか?」

「いや、ちょうどええ」

「ええんかいッ!」


 一応ツッコんでおいた。

 オリゴ糖の味は砂糖と変わらないのでまったくバレる様子はなかった。オリゴの効果が効いて来た時を想像すると、オレはこの場で笑いたくて仕方なかった。


「なんやお前二ヤけた顔して」

「いや別に……」


 オレは平常を装った。


「ところで今回ホンマに若狭に行くんか?」


 とタッケン。


「おう、行こよ」


 とオレ。


「バーベキューはどないする?」


 またまたタッケン。


「肉も買うて持って行こよ」


 とオレ。


「どうせ向こうで肉焼くんやったら、タッケン家の焼肉のタレ持って行こよ」


 と三浦。


「そやのぉ~、タッケン家の焼肉のタレやったら揉みダレで付けダレ要らんし、バーベキューには便利やしのぉ~」


 とオレ。


「タッケンとこの焼肉のタレ食たら市販のタレ食えんしのぉ~!」


 と三浦。

 それほどタッケンのおばちゃん秘伝の揉みダレは、舌鼓を打つほど美味いのである。オレは焼肉好きで数々の焼肉店に足を運んで来たが、タッケンのおばちゃんが作るタレに似た店は一度もお目に掛かった事がなかった。味を文章では表現出来ないがとにかく美味いのである。


「よっしゃ、とにかく今から用意やって若狭行こや!」


 こうしてオレ達三馬鹿トリオは颯爽と用意を済ませると、若狭湾に向けて三浦のデリカで旅立ったのである。

 若狭湾までの距離は思っていた以上に長かった。考えてみれば大阪湾から日本海に行くのだからそれも頷けた。若狭湾海水浴場に着くと、早速オレ達は海パンに履き替え打ち寄せる波に向かって走り出した。少し天候が替わってきたせいか、思っていた以上に日本海の水は冷たく、そしてまた女の子達の数も少なかった。女の子達にピピっと運命の第六感が働く事もなく、かといって、わざわざ日本海くんだりまで来たのだからと適当に声を掛けてみると、女の子達の対応は若狭湾の海水より冷たかった。


「上手い事いかんのぉ~、こっちの水はなんかぁ~オレらに合ってないような気がするのぉ~」


 とタッケン。


「そやのぉ~、ええのん居らんしのぉ~」


 とオレ。

 水が合ってない訳ではなかった。要するに女の子が引っ掛からなかっただけなのである。


「ほなどうするねん?」


 三浦の一声に、


「じゃあ今から白浜行くけぇ~!」


 と腐れ縁コンビが声を揃えた。若いというのは本当にバカである。青春である。エネルギッシュなのである。数時間かけて若狭湾まで来たというのに、女の子が引っ掛からないだけで次は大阪湾を通り越し、太平洋くんだりまで向かおうとしているのである。


「そやけど今から白浜に向かったら、向こう着いたら夕方になってまうぞ」

「三浦、白浜の女の子らは時間を気にせずオレらの到着を待ってくれているはずや!」


 オレの言葉に、


「運転は俺に任せとけ!」


 とタッケンも俄然ヤル気をみせた。

 そしてオレ達は若狭湾に着いて一時間もしない間に、次は太平洋に面した和歌山県の白良浜海水浴場を目差したのである。

 三人で運転を交代すると白浜までの距離はあっという間だった。ギャルパワーというやつである。しかし夕暮れ時の海水浴場は寂しい物だった。ぽつりぽつりと居る女の子はみな水着の上にTシャツやパーカーを羽織り、お天道様が上っている内に綺麗どころはみな引っ掛けられていたのか、夕暮れ時に居る女の子達は売れ残り軍団だけだった。そんな売れ残り軍団に、


「今から野外バーベキューするねんけど一緒にどう?」


 などと声を掛けてみたが、その女の子達にも、


「ふん!」


 と無視されるありさまだった。二海追う者には一海も制覇出来ず! といった所である。


「どうする? 腹も減ったしそろそろ肉食おや!」


 三浦の言葉に誰も反対するものはいなかった。かといって男三人虚しく白良浜海水浴場で、夜になってからバーベキューをするのも虚し過ぎるし、駐車場からバーベキューセットを運ぶのも億劫だった。そこでオレ達は無料で車が止められる空き地を探し、車の横でバーベキューをする事にした。周りにあるものと言えば生い茂った草むらと、腰ほどの低いブロック塀だけだった。海も見渡せないしけた場所である。腹が減った男達の行動はテキパキとしたものだった。火を起こす者、クラーボックスや簡易チェアー他諸々を用意する者、とにかくオレ達は手早く炭を熾し肉を焼く段取りを整えると、クラーボックスから缶ビールを取り出し、初の夏旅行空振りに乾杯した。焼肉がジュウジュウと香ばしい音を立て、オレ達はむさぼり付くように肉を食い出した直後、グルグルグルと大きな音が鳴った。


「アカン……、なんか腹がぁ~……」


 タッケンが突然言い出した。オリゴ糖が効いて来たのである。


「痛いんか?」


 解っちゃいるが聞いてみた。オリゴ糖は便秘薬と違い食品なので、腹痛は起こらないのである。むしろ腸が活発に活動しているのを実感できるのだ。


「腹痛いとかそんなんちゃうんやけど……、あかんババ漏れるぅ~っ!」


 タッケンは突然椅子から立ち上がり、肛門を抑えながら草むらに走った。


「どないしたんやろなタッケン?」


 三浦が聞いて来たので、その内情をコッソリと教えてやった。


「ウソや、マジで! めっちゃおもろいやんそれ!」


 オリゴ糖は腸内の善玉菌を増やし、便秘を改善し腸を活発に働かせる作用があるのだ。オレの知り合いにこんな女性がいた。その女性はあらゆる大手メーカーの便秘薬や下剤などを試したが、頑固な便秘は改善せず最終的に行きついた商品が、ライフオリゴ100だったのである。彼女はこれを初めて飲んだ時、自身の腸が活発に動くのを体感し、今はオリゴ糖で快便の感覚を覚え、ライフオリゴ100の虜になっている。そんな頑固な便秘の人で大さじ三杯くらいを目安に飲むところ、オレがタッケンのコーヒーに入れた量は、コーヒーカップに三分の一以上入れたのである。

 草むらからは、


「ぶりぶりぶりぃ~っ!」


 と大きな音が聞こえ、


「お前汚いのぉ~、音の聞こえんように出せよ!」


 と笑いもってオレ達が言うと、


「あかん……、うんこ止まれへぇ~ん!」


 と草むらから泣きそうな声でタッケンが叫んできた。その声にオレと三浦は腹を抱えて笑い合った。そしてしばらくするとタッケンは戻って来て肉を食い始めたが、二切れ口に入れた時、


「あかぁ~ん。またババ出るぅ~っ!」


 と叫んで草むらに走り、オレ達はそれを見てまた笑い合った。


「オレの分残しといてやぁ~っ!」


    挿絵(By みてみん)


 草むらから再びババを気張りながら肉をせがむ声が聞こえた。


「早よ来うな無くなるぞ!」


 あえて意地悪な事を言うと、


「ぶりぶりぶりぃ~っ、ぶっちゅんぶりぶりぃ~っ!」


 と快便な音が聞こえた後、


「早よそっち行って肉食いたいねんけど、うんこ止まれへんねぇ~ん……」


 と泣きそうな声に、オレと三浦は面白くて仕方なかった。

 この日海水浴場での漁獲水揚げ量はめざし一匹水揚げ出来なかったが、タッケンのババを気張りながら叫ぶ声は、この夏、思い出に残る一笑いだった。

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