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其の三 二度目の全国大会 大阪予選

 平成七年二月、ばあちゃんが亡くなった。満七十八歳だった。ヘビースモーカーだったばあちゃんは、亡くなる八年ほど前に肺がんの手術を受けていた。右の肺の三分の二を摘出し、医者からは余命半年と宣告され、それでもばあちゃんは1ミリのタバコに替えてまで、親の仇のように暇さえあればぷかぷかとタバコを吸い続けていた。亡くなる一か月ほど前まで『お好み焼き山ちゃん』で働いていたのが健康に繋がり、余命が延びた要因になったのかも知れないが、肺ガンになって肺を三分の二も摘出したら、誰もがタバコを止めようと思うのが普通だが、最後までタバコを止めず七年半も寿命を延ばしたばあちゃんに、北斗の拳のラオウの死に際が重なって見えた。ばあちゃんも天国でラオウのように、我が生涯に一片の悔い無し! ときっと右拳を天に掲げて言っている筈である。


 四月に入り、晴れてタッケンと健太が岸和田市立産業高等学校定時制の学生となった。元々二人は高校を卒業していたので、編入という形でオレ達と同じ二年生になった。

 タッケンはこの頃大手建設会社に就職していて、健太はオレ達に警察官だと言っていたが、誰も信用していなかった。それを信じさせようと健太はオレ達にピストルを見せて来たが、それを持ち出してオレ達に見せること自体が、自作自演のあれは空気銃だと更に誰も信じなかった。実際健太の職業が何であれ、オレ達に関係はなく、只々、サッカーを頑張ってもらう限りだった。

 タッケン達以外にも喜ぶべき事があった。新入部員の一年生二人が、一年前のプラティニや北野のように、すぐに即戦力になる実力を持った者が現れたのである。名は奥と西村である。

 一年前四年生だった加藤達三人は無事卒業したが、加藤だけは全国に行った経験が忘れられず、相も変わらずサッカーが始まる練習時間には現れ、オレ達と行動を共にしていた。

 二年生に上がった谷本と東坂は、新たな一年生のサッカーが上手い二人に加え、タッケンとキーパー志望の健太が入った事により、自分達にレギュラーが回って来ない可能性が大だと解ると、知らぬ間に部活を辞めていた。努力もしないで泣き言をいって辞めるヤツを誰も止めたりはしなかった。

 オレ達は六月中頃から行われる大阪の予選に向けて、来る日も来る日も練習に練習を積み重ねた。タッケンや健太、そして新たに加わった即戦力になる一年生を含め、今年のメンバーをおいて優勝を狙える年は後にも先にも無かった。勿論オレ達二度目の高校生軍団は、教頭先生との約束があるので、今年の全国大会が終われば自主退学する事を決めていた。柳井以外のメンバーは正直な話し、後に自主退学する二年間の内、授業に出た出席日数は二時間程度である。

 そんな新たなメンバー十五名でこの年全国を狙うのだが、オレは己のスキルを向上させようと、練習以外にも仕事の合間をみてはスポーツジムに通い筋トレを行っていた。それだけではない。週に三日は堺市南区茶山台に赴き、少年サッカークラブの指導もしていた。とにかく仕事以外は寝ても覚めてもサッカーづくしだったのである。

 そして数か月の時が過ぎ大阪予選が始まった。

 一回戦の相手は大阪府立成城高等学校定時制である。この試合をオレ達はなんと13対0と野球の試合のように圧勝し、続く二回戦の相手、大阪府立和泉工業定時制を5対1で降すと、勢いを付けたオレ達は、続く三回戦の相手、大阪府立大手前高等学校定時制を11対1とまたまた野球のコールド勝ちのような点数で圧勝し、続く準決勝の相手、大阪府立吹田高校定時制を5対2、そして決勝の相手、大阪府立桜塚高等学校定時制を6対1と5点差をつけて勝利した。この大阪予選の総合点数は、去年度予選の総合点数21得点を遥かに上回る、40得点という普通では考えられない総合点数で、大阪でダントツに優勝したのである。勿論オレ達の狙いは全国大会優勝なので、大阪でダントツに優勝してそれなりには喜んではいたが、気を緩める者は一人としていなかった。一年生の二人以外は全国のレベルを熟知していたからだ。

 この年、二年連続大阪で優勝した事もあって、岸和田テレビがオレ達の練習風景を撮影に来てくれた。あいにくこの日は雨でグランドが使えなかったので、撮影は体育館で行われた。皆テレビに映るとあって、前日に散髪屋に走り、眉毛のお手入れも欠かさなかった。てっちゃんなど肩より長い髪にパーマをあてるのに三時間を費やしたという。そんなおめかしした産高サッカー部のこの日の練習内容は、体育館でのミニゲームだった。カメラが回る中、皆カメラ目線も忘れて練習に没頭していた。そしてミニゲームが終わるとADさんが、オレ達の円陣を撮影したいと言って来た。


「どないする? どんなんで行く?」


 皆テレビに映るとあって、カッコいい円陣を思い描いていたが、


「いつものヤツで行こよ!」


 と柳井が言い、


「えっ、アレで行くんけ?」


 と健太が一声発し、


「そやけど今年キャプテン決まってないなぁ~、誰が真ん中で行くんよ?」


 とてっちゃんが言って来た。


「ほなもうてっちゃん行っときよ!」


 と、そこは最年長万年ベンチ暖め係りのてっちゃんに美味しい所を皆で譲った。因みにこれまでてっちゃんの暖めてきたベンチでは、目玉焼きが焼けるほど彼は熱くベンチから応援してくれていたのである。そんなオレ達産高サッカー部のマスコットキャラでもあるてっちゃんを皆で円になって囲むと、皆が手を取り合って中腰になった。

 我ら産高サッカー部の円陣は、


「ファイトォぉぉ~~~~ッ!」

「一発ァぁぁぁ~~~~ッ!」


 と、ワシのマークの大正製薬のテレビCMでお馴染みの、リポビタンDの円陣だった。

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