第二十八章『目差せ! 全国二年目の夏』 其の一 楽しさの伝染
「ゆうさんほんで、ホンマに富士山まで自転車で行ったんけ?」
「そやしぃ~。なんかよぉ~、武らの全国大会目差してるのんとか話し聞いとったらよぉ~、俺もなんかしたいわぁ~って思い出してよぉ~。それやったら自転車で忠岡から富士山行ってこましちゃれ思て、さすがにママチャリでは富士山まで行かれへんしよぉ~。だからチャリンコまで買うたちゅうねぇ~ん!」
「そやけどよう行ったなぁ」
「そやろぉ~。そやけど奈良まで行った地点で、もうサドルで股のとこ擦れてズルズルなって来よるし、どないしよかなぁ~思てローソン行ったんやしぃ~」
「そんなんローソン行って股の怪我治るんけ?」
「いや、治りはせえへんけどナプキン買うて擦れてる所に貼ったろ思て入ったんやしぃ~。ほたらまた生理用ナプキン置いてる所に若い女の子ら居るし、買う時には店員に変な顔されるし、めっちゃカッコ悪かったわぁ~」
桜子の薄暗い空間に笑い声が響いた。
「そやけどゆうさん。あの富士山から絵はがき送ってくれたんアレ何よぉ~! 富士山ガオォォ~~~! しか書いてなかったわしよぉ~! もうちょっと頂上の風景はどやとか、登り切った感想とか普通書くでぇ~!」
「いや、それが俺のその時の心の心境やったんやしぃ~」
「なるほどな!」
静岡での全国大会から帰って来て間もない頃の話である。
それから数日が過ぎ、平成六年八月吉日、八幡町の入魂式が執り行われた。
植山工務店から曳き出し始めると、紀州街道を通って春木地区に入る手前には下野町があり、下野町を曳く山ちゃんとオレが親しかった事もあり、そしてまた八幡町の若頭に所属するたんぼちゃんと下野町の一八のマスター博くんが親しかったので、博くんの計らいの許、下野町は八幡町を見送る為にだんじりを出してくれていた。因みにこの一八のマスター博くんが、当時IBがヤクザにオレの家に行くように頼んでいたのを止めた男である。
オレとマッサンの八幡町青年団を活気ある町にして行く活動は、この頃オレ達の身近な者にも広まりつつあり、特に率先して動いてくれていた柳井や三浦の誘いで、産高サッカー部の現役高校生達も八幡町を曳きに来るようになっていた。まだ少人数ではあったが、小さな活動が徐々に波紋を広げつつあった。