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其の二 ワッチャーネーム?(What,s your name ?)

 茂広組には瀬尾以外にもう一人仲の良い奴がいた。井口というオレと同い歳のその男はヒッピーな男だけに、オレや瀬尾と大層気が合った。週末になるとオレ達三人はミナミに繰り出し、この当時二丁目劇場の五階にあった『Bar Isn,t It?!(バー・イズント・イット)』という、当時流行りのサウンドが流れる、外人なども多数集まる伝説的なナンパスポットに出向いていた。そこには、タッケン、三浦、てっちゃん、柳井、藤田、北野、それに八幡町での幼馴染の伊戸ちゃんなどを交えて、その店で待ち合わせしてはよく遊んでいた。皆の目的はやはりナンパである。イズントで手ごたえの無い日は、ミナミをよく知るヒロさんに電話して、ヒロさん達のグループと合流しては場所を変えて大いに盛り上がっていた。

 そんなある土曜の夜の事である。イズントで集合した仲間達とこの日も愉快に酒を飲み、ビートに合わせてリズムを取りながら、それぞれがお目当ての女の子を探し求めていた。DJブースの前では大衆の背丈より頭一つ分飛び出た瀬尾が、片手をラッパーのようにファンキーに上げてノリノリで踊っていた。少し先のテーブルではてっちゃんが必死に女の子に話し掛けている。そこに便乗しようとタッケンと三浦がてっちゃんのサポートに入り、柳井、藤田、北野の同級生軍団はウロチョロと店内を徘徊していた。伊戸ちゃんはそのたぐいまれな容姿と饒舌(じょうぜつ)なトークでもうすでに女の子と話し込んでいた。オレはというと、念願のUSA金髪美女とショットグラスでテキーラを飲み比べしていた。金髪美女は次第に酒が回り、ついにはオレの首に両手を回し、ボインをオレの胸に密着させてリズムに合わせて踊り出したのも束の間、金髪美女はオレの首に回している手をグイッと引くと、オレの唇の上に自身の唇を重ね合わせて来たのである。外人さんとの初キッスである。彼女はその後、積極的にオレの手を引いて人気の無い五階と四階の踊り場に連れて行くと、先程の続きを始めたのである。唇の中に攻め込んで来る金髪美女の魔性の(タン)は、濃厚かつディープでこれまで味わったどの者とも違っていた。


(これが本場仕込みのUSAのキッスかぁ~~~ッ!)


 と、オレは先ほど飲んだテキーラよりもそのディープなキスにクラクラしていると、その時、階下からこんな声が聞こえて来たのだ。


 挿絵(By みてみん)


「あれぇ~、武くんちゃう~ん?」

「武くんあんな事せえへんよ」

「そやけどめっちゃ武くんに似てるけどなぁ~?」

「絶対ちゃうってぇ~、だって私、武くんの彼女の梨香ちゃんも知ってるもん」


(ヤバいっ!)


 と思った。梨香とは寄りを戻したばかりで、これがバレればまたヤバい事になると頭に過った。そしてこの四階の方から聞こえて来る声にも聞き覚えがあった。この当時柳井と付き合っていたミナちゃんだと解った。このまま金髪美女と重なり合わせている断定し難い横顔を、クルリと反転させて後頭部をミナちゃん達に向ければ、更にオレだとはバレないでやり過ごせるのではと思い、オレは断続ディープなキスをしながら、ペンギンの足付のように小回りにペタペタと身体を反転させた。この地点で、もうオレの後頭部しかミナちゃん達の目には映っていないので、もし万が一ミナちゃんが階段を上って来て横を通り過ぎられても、後頭部を向けたまま微妙に角度調整を行えばやり過ごせる自信があった。しかしその時だ! 金髪美女はオレから唇を離し、あろうことかこのタイミングで、


「What,s your name ?(ワッチャーネーム?)」


 とオレの名を尋ねて来たのだ。

 素直に答えなければ良いものを、本場USAの金髪美女とのキッスで浮かれていたのもあり、


「マイネーム イズ タケシ!」


 と、ついついうっかりと、中学一年生で習った英語をオレはこのとき披露してしまったのである。

 階下からはオレの方を指差したミナちゃん達の、


「やっぱり武くんやぁぁぁぁぁ~~~~~~っ!」


 と叫ぶ声が聞こえた。

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