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第二十六章『南紀白浜パート2からのぉ~』 其の一 南紀白浜パート2からのぉ~

 大阪府立和泉高等学校定時制を卒業した二年後の夏、以前にタツオちゃん達と訪れた白浜での女の子達との夏の思い出が忘れられず、オレとタッケンは同級生の三浦を誘って白浜旅行に向かった。お目当ては真夏の白良浜海岸で出逢う、可愛い女の子とのひと夏の恋である。

 彼女が居るのになんと浮気者な男かとお思いかもしれないが、そこは若気の至りである。タッケンと三浦に彼女が居なかったので、二人に付き添ったとでも言い訳しておこう。実際のところは違うのだが……。

 三浦の愛車三菱デリカワゴンで海岸線を走らせながら、車窓から流れるように映って見える果てしない海を眺め、真夏の海にはぴったりのロックステディのポピュラーなサウンドをボリューム大で流し、サンルーフから降り注ぐ真夏の光と、クラーをガンガンに効かせた送風口から送られてくる冷たい風が、オレ達をひと夏の恋の白浜へと(いざな)った。気分は夏、夏、夏、夏、夏真っ盛り、野郎三人ラブロマンスを求めた馬鹿(バカ)ンスの旅である。

 前回に引き続き、タツオちゃんの計らいで保養所を押さえてもらったオレ達は、荷物を置くなりビーチに繰り出した。前回の事もあったので、保養所を出る時、施設に完備されたプールを確認する事に抜かりはなかったが、この日プールに居た女の子たちは、あと十五年ほど待たなければならないほど、幼い女の子たちばかりだった。

 白良浜海水浴場は、彩色豊かなビキニやワンピースを身に付けた女の子達で溢れかえっていた。腹が減っては戦は出来ぬもの、オレ達は砂浜が見渡せる海の家でランチを摂りながら、焦ることなく双眼鏡で目ぼしい女の子を探していた。


「わっ、あの子らめっちゃカワイイやんけぇ~っ!」


 オレの声に、


「どれどれっ、ちょっと俺にも見せてくれや!」


 タッケンがオレから双眼鏡を奪い取った。


「どこやね~ん?」

「あそこよ」


 オレは指差し、


「あそこのパラソル二つ並んでる所よ!」


 詳しく説明してやった。


「おっ、ええやぁ~ん! ちょうど三人居てるしぃ~」

「どれよぉ~?」


 三浦も気になったのか、


「ちょっとタッケン俺にも貸してや!」


 タッケンから双眼鏡を奪い取った。そして三浦は少しの間眺めていたが、


「なんか男のヤツら声掛けに行ってるぞ!」


 と言い出したので、


「ウソや! マジで! ちょっともうっ回オレに貸してくれ!」


 とオレは三浦から双眼鏡を受け取ると、もう一度カワイ子ちゃん達に双眼鏡を向けた。

 レンズの中を覗くと、確かに三浦の言う通り、二人組の野郎どもが声を掛けに行っていた。柳井が山口県から越して来た時のような、明らかに地元ヤンキーのようだった。女の子達にレンズを向けてみた。女の子達は明らかに嫌な顔をしていた。これはチャンスである。


「タッケン、何も言わんとガリガリ君六本買え!」

「よっしゃわかった!」

「三浦、速攻で飯食てまえ! すぐ行くぞ!」

「よっしゃ!」


 そしてオレ達はカワイ子ちゃん三人組の許へ向かったのである。名付けて、


『白馬の騎士がガリガリ君ソーダ味を持って現れる、横ヤリ奪い取り作戦』


 である。


「ごめん遅なって、はいガリガリ君!」


 オレは連れのフリを装ってガリガリ君を手渡した。


「なんやぁ~、自分ら彼氏おったんけぇ~!」


 そう言って地元ヤンキーはその場を去った。

 ここまでは作戦通り順調である。問題はここからだ。


「あんたらまたベタな近寄り方してきたねぇ~」


 そう言った女の子も、そして他の女の子達も、オレ達の作戦に満足しているのか笑顔である。


「いやぁ~、さっきの男の子らに引っ掛けられてるのん、嫌がってるように見えたからな」

「もし嫌がってなかったらどうするつもりやったん?」

「そらぁ~、ガリガリ君渡して淋しく帰るよ」


 オレはちょっとつまらなそうな声で言った。

 その潔さが見込まれたのかどうかは解らないが、女の子達はオレのその言葉で警戒心を解き、この日から二日間に渡り、オレ達と行動を共にする事になるのである。

 彼女達に出身地を尋ねると、大阪の寝屋川市から白浜に来ていると答えてくれた。そしてオレ達が岸和田から来ていると知ると、彼女達はお決まりのだんじり祭りの事を聞いて来た。


「ほな今年見においでよ」


 そう言ったのは三浦である。八幡町のだんじりは、一昨年(おととし)三浦や柳井達が八幡町に入った平成三年の祭りが終わった明くる日、新調のため昇魂式を済ませて東大阪のとある町に売ったのである。平成元年から植山工務店を通じて新調の為のケヤキはもうすでに購入していた。去年一年だけはだんじりが無かったが、二年も続けてだんじりが曳けないのは辛いと皆が言い出し、まだ彫り物のない完成されていない箱だんじりを曳こうと、来年に入魂式を控えているにも拘らず、この年曳行をする事になっていたのである。


「ええの見に行っても?」

「まあ祭りの話しは置いといて、とりあえず自己紹介から行きますか!」


 オレには彼女が居たので、岸和田祭りに見物に来られて、万が一彼女と鉢合わせされてもマズイと思い即座に話を替えた。しかしジタバタしても運命というものはそう簡単に変えられるものではないのだが、一応回避措置は執っておいた。

 そんな具合で話が進み、琴代ちゃん、ひろ子ちゃん、淳ちゃんと一人一人の名前を教えてもらったのだが、自己紹介のオレの順番が回って来た時に、


「岸和田の加勢大周です」


 とベタな事を言ったらスベってしまった。

 夕方までの時をオレ達はビーチで楽しく過ごし、晩飯は居酒屋で待ち合わせてコンパ的な雰囲気を堪能した後、海辺に面したラウンジのカラオケに流れた。二階にあるその店は海岸に面してガラス張りの大きな窓があり、海辺が眺められる雰囲気ある店だったが、悲しい事に客は六十代のおばちゃん連中しか居なかった。三浦は音痴なりにもサザンの『真夏の果実』を歌い、タッケンは谷村新司&堀内孝雄のアリス『チャンピオン』をものまね付きで歌ったが、今一つウケなかったので、オレは十八番の徳永英明『レイニーブルー』を熱唱した。すると以外にもおばちゃん連中にウケ、その後おばちゃん連中にチークダンスをせがまれた。オレは年齢差が離れていようともサービス精神旺盛な男である。次から次におばちゃん連中にチークダンスをせがまれそれに対応していると、琴代ちゃん達はその光景が面白かったらしく、親子ほど離れたおばちゃんとオレが踊る姿をカメラに収めた。調子に乗ったオレはおばちゃん達が好みそうな山本譲二の『みちのくひとり旅』や、石川さゆりの『天城越え』などを次々に歌い、この日は山本武ディナーショーで大いに盛り上がった。

 あくる日、彼女達を保養所のプールに誘い、


「それじゃ~いくよぉ~!」

「そぉ~うれっ!」

「だめじゃないかぁ~、しっかりとパスしなきゃ~!」


 などと言って数年ぶりに関西弁を忘れ、ひと夏の青春を謳歌したのである。

 岸和田に帰る際に、それぞれの連絡先を交換し、また大阪で会う約束をして、オレ達は浮かれながら岸和田に帰ったのである。


 岸和田に帰ってしばらく経つと、オレ達はちょくちょく琴代ちゃん達と六人で会うようになった。因みにオレが気に入っていたのはひろ子ちゃんである。実際の所ひと夏の恋のつもりが、ちょくちょく会う内に本気になってしまっていたのである。彼女が居るのにいけない事だとは解っていた。しかし成人式を迎えて大人の仲間入りをしても、二十歳の未熟な湯沸かし器のような情熱は止められる筈もなく、一時期梨香と疎遠関係になるのである。本当にバカなオレである。その情熱の度合いを温度に例えるなら、沸点を軽く越え、その情熱でフライドポテトが揚げられる程だった。

 この頃浄水器の取り付け工事で自営業をしていたが、駆け出しだったオレはまだ軌道に乗っていた訳でもなく、浄水器の膜の交換も請け負うようになっていた。しかし膜の交換は顧客数を増やさなければ安定という文字には程遠く、安定するまでの期間もう一つ職業を増やそうと、同じ職を探すのならと、ひろ子ちゃんが暮らす寝屋川市で仕事を探した。そして寝屋川の萱島という地域で、マンション完備の茂広組という鳶職の会社に入った。この会社はオレの融通を聞き入れてくれ、浄水器の仕事が入っている日は浄水器の仕事を優先させてくれた。

 こうしてオレはひろ子ちゃんの近隣で住む事になったのだが、二人の仲はそれほど長くは続かなかった。この年の祭りが終わった頃には、二人の間には亀裂が入り、別れてしまったのである。しかし別れがあれば出会いもあるものである。その出会いは女性ではなかったが、非常に縁の深い出会いだった。若松部屋で力士をしていた、瀬王錦こと、本名、瀬尾 誠吉が、足の故障で相撲を断念し、地元大阪に戻り、オレが働く鳶の会社に就職して来たのである。歳はオレの一つ下で、身長は189.5センチ、体重は、この頃はまだ力士を辞めて日が浅かったので150キロと非常に重く、目の前に立たれるとベルリンの壁のように大きな存在感があった。そんな男だが付き合ってみると、性格はクマのプーさんのように非常に優しく温厚で、かくれんぼをして木の裏に隠れても、身体の一部がハミ出ている事にも気付かないようなお茶目なうっかり者で、加えて人懐っこさがプラスされ、誰からも好かれていた。

 そんな瀬尾とオレが親しくなったのは、当時、関西国際空港建設中の現場で一緒になった時の事である。同じ班になったオレは、瀬尾にアンチという材料を取って来てくれと頼んだ。人一倍力のある瀬尾は人の二倍材料を肩に担いで張り切って戻って来たのだが、アンチには1200やら900やらと様々なサイズがあり、瀬尾は間違えて違うサイズをオレの所に持って来たのである。


「瀬ちゃん、それ違うサイズやで、1200のアンチが欲しいねん」


 オレは優しく言ったつもりだったが、瀬尾は赤面して顔を真っ赤に染めたかと思うと、次に暗い表情になってもう一度1200のアンチを取りに行った。そんな現場帰りのフェリーの中で、互いに地べたに腰を下ろし、向かい合って座っていると、突然瀬尾が、


「たけっちゃん、今日足引っ張ってごめんなぁ~……」


 と、小学生が泣きそうな顔をして母親に謝るように、瀬尾は本当に済まなさそうな顔をしてオレに言って来たのである。その腰を下ろして座る姿と、小学生のような表情が非常にかわいらしく、そしてまた、オレがあのとき言った言葉をずっと気にしていたのだと解ると、無性に瀬尾の事が愛らしく思え、同時になんて心が純粋で誠実な男だと、オレは瀬尾の人間性に一発で惹かれた。これ以来オレは仕事が終わった後も、瀬尾とよく遊ぶようになった。

 茂広組は百五十人近くの職人を抱える大手建設会社だけに、茂広組のワンルームマンションには、オレや瀬尾以外にも年頃が近い連中がたくさん住んでいた。そんな中、茂広組の若い世代でオレ達はサッカーチームを結成した。すると今はもう代表取締役になっているが、この頃はまだオレ達とよく現場に出ていた社長の息子さんが、オレ達にサッカーボールをプレゼントしてくれた。嬉しい限りである。そんなチームを作ったのだが、正直な話しオレ意外には経験者が居なかったので、サッカーチームというよりは同好会と呼ぶべきものだった。試合は一度だけ岸和田にその同好会を連れ行き、柳井達と小学校のグランドで紅白戦をして楽しんだぐらいだった。因みにそのとき瀬尾はキーパーをしていた。


 関空の現場にオレは数回ほどしか行かなかったが、次の現場はりんくうタウンの鉄骨鳶のメンバーに振り分けられた。そんなある日の事、鉄骨材料を運んで来たトラックを見ると、良く知る男が運転していた。マッサンである。現場での懐かしい再会の後、オレはまた仕事に戻り、無線マイクを使って鉄骨の取り合いをレッカーの操縦士と行っていたが、そのとき無性に腹が痛くなった。オレは大便を持ちこたえ、休憩時間に入ると即座に仮設トイレに走り戦闘態勢に入った。目の前には誰が置いて行ったのか解らないがエロ雑誌が転がっていた。オレは大便を気張り終わると次にその雑誌を手に取った。興奮してやる事といえばお決まりのアレである。無線のスイッチが入りっぱなしになっている事など忘れ、オレはがむしゃらに我が息子に運動をさせてやった。この日レッカーの操縦士さんから、


「たけちゃん全部聞こえとったで!」


 と言われたのは、トイレから戻ってすぐの事だった。

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