其の五 青年団
六月に入り、この年いよいよオレはだんじり祭りの青年団に入団する時期がやって来た。
「武どうする入るとこ決めたけ?」
マッサンがそう言って来たのには理由があった。
「マッサンの方は?」
オレ達は幼い頃から自町の八幡町を曳いて来たが、一年前マッサンが新団として青年団に入団する際に、二人で話し合った事があった。それは現代の少子化による引手の減少においての新団争奪戦でも同じ事が言えるのだが、子供の頃から自町を曳いていても、青年団に上がる際に子供達の中では様々な思いが芽生え、他町に行ってしまうというような事があるのだ。
詳しく述べると、子供達が祭りを続けて行く上で青年団という団体に入るのは、これまでの子供会や少年団といった大人の保護の許で祭りを曳いていたのと違い、青年団に入ると、十六歳から大よそ二十六歳までの若者社会でやって行かなければならないという責任が伴い、高校でいう所の進路を決めなければいけない状態になるのである。そうなると一度入団してしまうと辞めにくい状態になるのも然る事ながら、中学で仲の良かった友達と祭りを共に楽しみたいと他町に行ってしまう者や、旧市の祭りに憧れを抱く者も現れるのである。この旧市に憧れを抱く者には二通りあり、春木地区から一町旧市に参加する春木南に入団する者と、旧市その物の町に入団する者に別れるのである。
若者のこういった清純な想いは誰が何を言おうと止められるものではなく、ちょうど一年前のマッサンもオレにこう言って相談を持ち掛けて来たのである。
「武、俺……、青年団から戎町に入ろと思てんやけど……」
「戎? 八幡には入れへんのけ?」
「戎にはぐっちゃんやゴリらも居るし」
「そうかぁ~、まあオレも来年なったら身の振り方決めなアカンなぁ~」
「武は来年八幡町残るんけ?」
「ん~、正直な話し、旧市一回曳いてみたいって気はあるけど、マッサンも居れへんのやったらオレも他所行こかなぁ~」
「ほたらお互い一回他所行ってみるけ?」
「まあオレにはまだ一年あるからマッサンのしたいようにやってみたら」
この話が行われた後、マッサンは一年目新団として戎町の青年団に入団したのだが、一年が経ったこの日、思う所あってオレと話し合っていたのである。
「俺、戎町曳いたけど、なんかしっくりこえへんくってなぁ~」
「マッサンもけ? 実はオレもこの四月にあった四百年祭春木南曳いたんやけど、なんかしっくりこんかってなぁ~」
「武もけ?」
「うんオレも」
その理由はもうすでに二人には解っていた。自町を愛するあまり、他所の町を曳いても楽しめなかったのである。
この頃、磯ノ上や春木南などの青年団が多い町では、百人前後は青年団の数が居たのに対し、八幡町は青年団の数が少なく全体で四十人にも満たなかった。そんな弱小青年団だったが、
「武、俺らで八幡町盛り上げて行って、いつか磯ノ上や春木南よりも青年団多くしよよ」
「そやな、そうしよかマッサン。いつか必ずそうしよ!」
この時の二人の誓いが、いずれ訪れる八幡町伝説の始まりとなるのである。