其の四 亀 頭
仕事が終わり学校に着くと、正門の前でてっちゃんと出くわした。
「武、昨日夜のヒットスタジオ観たけ?」
会うなりてっちゃんが聞いて来た。てっちゃんはミュージシャンだけあって音楽番組は欠かす事なく観ている男だった。
「観た観た」
オレも昨日はたまたま夜のヒットスタジオを観ていたのである。
「出てたやろっ!」
嬉しそうな顔をして聞いて来るてっちゃんのその笑顔は、明らかにてっちゃんが大好きな女性グループを指していた。しかし昨晩の夜のヒットスタジオにはてっちゃんの大好きな女性グループが二組出演していたのである。それは『ドリームズ・カム・トゥルー』と『プリンセス プリンセス』である。
「出てた出てた!」
しかし咄嗟にオレの頭の中で『ドリームズ・カム・トゥルー』と『プリンセス プリンセス』のどちらを指しててっちゃんが聞いて来ているのか混乱し、次にオレの口から出た言葉は、
「ドリンセス・カムー・セスやろっ!」
と二つのグループを合体させて言ってしまったのである。
「出たっ、スーパー神的新コラボ、ドリンセス・カムー・セス。武たまに天然ボケ嚙ましてくるよなぁ~!」
そして二人は笑いもって教室に向かうのである。
定時制高校はアットホームな雰囲気を持つ授業なのだが、まだ一学期も終わっていないこの頃は、中学校延長気分で学校に何をしに来ているのか理解していない、改造制服野郎達が後を絶たなかった。この日二時間目の授業が終わると、その中の二人が残りの授業を受けずに帰って行った。二学期にはケツを割って辞めて行くようなヤツらである。オレも学校は時として休む事があるが、一度学校に来たならば最後まで授業は受けていた。そんな四時間目の授業が終わって自転車で帰ろうとすると、鍵はかけた筈なのにオレの自転車が無くなっていた。
そんな事があってしばらくの間は姉の原付で学校に通っていたが、学校の帰りしな同級生の男の子が、オレの自転車が無くなった理由について話してくれた。内容はオレの自転車を学校の横にある畑に捨てに行ったヤツを教えてくれたのである。捨てに行った犯人は、二時間目の授業で帰った二人組だという事だった。こいつらは他所の高校でダブり、定時制にこの春入って来た忠岡中学出身の歳は一つ上のヤツだった。名前も解っていたのであくる日の日曜日、即、同じ忠岡中学に通っていた権田に電話を入れ、そいつを呼び出してもらう事にした。
「遅いのぉ~、まだ来えへんのぉ~!」
苛立ちながら忠岡のとある場所で権田と待っていると、そこに秀吉と純平も現れた。
「おっ、武、お前ら二人で何やってるねん?」
「まあちょと色々とあってな」
「色々ってなんやねん?」
「別になんもあるかいよ。気にせんとお前らはパチンコでも行っとけや」
「いや、なんかおもろそうな匂いするから俺らもここで居るわ」
秀吉はケンカ事にかなりの臭覚を持つ軍用犬のような男なのである。
「ええかお前ら、言うとくけどこれはオレの問題やからお前ら手だすなよ」
「やっぱりケンカか?」
「あっ、いらん事いうてもうたぁ~っ」
とそんな所に例の二人組が現れたのである。
「なんや権田ぁ~、俺らこんな所に呼び出して!」
「権田ァ~ッ? コラッ太志~ぃ、お前たかが太志の分際で、誰を呼び捨てにしとんのじゃァ~~~ッ!」
権田はいきなりオレの獲物に襲い掛かった。続いて秀吉もその片割れに襲い掛かった。オレは出遅れてしまったのである。秒殺である。というより太志やその片割れなど権田と秀吉にとっては飯に集るハエのような存在だったのである。もともとこの二人は忠岡中学の一学年上の中でも、四軍の補欠入りするようなヘボいヤツらだったのだ。早い話が高校生デビューだったのである。
「すいません権田さん。すいません権田さん」
ボコボコに権田にいかれた後、平謝りする太志を見てオレはドツく気も失せ、
「そらそうとお前、オレのチャリンコ畑に捨てたらしいのぉ~。明日学校でそれ取って来いよ!」
オレは言い、
「はい、わかりました」
と太志は素直にそう言った。
「あっ、それと、修理代は一万円で勘弁したるわ」
最後に優しく付け加えた。
その日の夜、愛の巣という名のオレの部屋で彼女と乳繰り合っていると、チンコの付け根、いわゆるVラインに激痛が走った。手で触れてみるとしこりが出来ていた。オレは即座に徳洲会に走り、診察のため救急外来で順番を待った。
「山本さん二番診察室にお入りください」
名前を呼ばれ診察室に入ってみると、白衣を身に纏った小太りの男の先生が、椅子に座りこちらに向き直った。
「どうしました?」
「チン毛の所が痛くってぇ~痛くってぇ~っ!」
「わかりました一度見てみましょう。その台の上に横になって下さい」
オレは先生の指示に従い台の上に横になると、その場でズボンごと下着を下ろそうとしたが、そのとき幸か不幸か小泉今日子のようなべっぴんさんなナースが、アシスタントとして診察室に訪れたのである。
オレはズボンに掛けている手を一旦止め、まずはパンツの中に手を入れた。その理由は、ジャングルのように伸びきったチン毛が、この日たまたま亀頭を包むように上がっていた皮に絡み付いていたからである。岸和田用語でその状態の事を『そばを食った状態』というのだが、まさに見るに無残な状態だった。男の先生だけなら恥ずかしがる事なくそばを食った状態でも見せれたが、助手には小泉今日子である。どうせ小泉今日子に見られるのなら、皮を下ろした男前な状態で見て頂こうと、オレは痛みに耐えながらも皮を一度下ろし、そしてパンツから手を出すと、ズボンごと下着と一緒に一気に下ろしたのである。だがオレはその直後皮を下ろした事を後悔した。そばを食った状態のまま自身のナニを拝まれていた方がましだった。なんと亀頭には乳繰り合った直後のティッシュの残骸が、無残にもこびりついていたのである。
そんな状態の中、小泉今日子にチン毛を剃られ、ドクターに切開された後、縫合されて無事処置は終わった。
「山本さん。今日はまだ縫合したばかりで傷が開いてはいけないので、あちらの方は控えて下さいね」
やはり亀頭にティッシュが先生の想像を駆り立てたのか、帰る間際にそう言われた。
「あっ、はい……」
とは言ったものの、縫合されたパイパン男は帰宅するなりハッスルした事は言うまでもない。