其の三 帰郷
一か月が過ぎ、ようやく豊中のコルセットも取れ、顔面に至っては腫れが引いたがブサイクには変わりない顔に戻ると、
「お前もそろそろ家帰らなあかんのぉ~」
オレは豊中に言った。
「はい、そう思てます」
「電話一回入れてみたらどうな」
「はい、そうします」
春木駅に来た頃に比べると、豊中はとても素直な少年になっていた。教育した側は何も変わっていないのであるが、オレ達のスパルタ教育が彼をまっとうな好少年へと変えたに違いない。
豊中は実家に電話を入れてこの日家に帰る事を両親に伝えると、母親はなんば駅まで迎えに来ると言ったらしく、オレ達は南海線の終点なんば駅まで豊中を送ってやる事にした。
「純平、改札口こっちやど」
「アホやの武、忠岡はこの柵乗り越えたらタダで乗れるんやど」
などと言って純平が柵を乗り越えると、次々に忠岡軍団は柵を乗り越え始めた。その慣れた柵超えは一度や二度の代物ではなかった。こいつらは毎回こうして無賃乗車しているのである。
なんば駅に着くと、豊中の母親はわざわざ改札を通りホームにまで入って待ってくれていた。そして息子を見付けるなり駆け寄り、息子の元気な顔を見ると、母親は安堵したのか息子に向けて優しい笑顔を見せた。
「本当に長い間この子の面倒をみて下さりありがとうございました」
母親はオレ達に何度も何度も丁寧に頭を下げ、オレ達は親子が改札の向こうに消えるまで見送った。
「そやけど変わったヤツやったのぉ~」
親子を見送りながら秀吉が呟いた。