其の三 理不尽教師IB
学校行事の一環として、月曜日の朝は全校生徒の朝礼がある。校舎の上に備え付けられたスピーカーから響く、校長先生の長ったるい話が運動場を満たすと、四月のまだほんの少し肌寒い朝の空気が、より一層校長先生の話をじれったく感じさせた。中学に入学して初めての朝礼である。
校長先生の話が終わり、次に生活指導の大塚からの指導報告が終わると、整列している各クラス順に三年生から列をなして校舎に入って行った。二年生の順番が終わり、いよいよ一年生の九組から順に校舎に消えて行き、ようやく三組の順が回って来ると、我々三組も列をなして朝礼台の横を通り校舎に向かって行った。その時である。
「お前だけちょっと残れッ!」
オレだけ突然IBに引き留められたのだ。
「えっ、なんで?」
「お前さっき後ろでしゃべってたやろッ!」
言いがかりである。下を巻いて吠えて来るIBの物言いはまさにヤクザそのものだった。
「はっ?」
二組と一組が順に列をなしてオレの横を通る中、また大変なヤツに絡まれたものだと、憐みの目をオレに向けて来る二組の生徒達は、他人事のようにその後目を逸らして校舎に入って行った。
「オレしゃべってないやんかっ!」
「お前しゃべっとったやないかァ~いッ!」
とまずは右頬に一発ビンタされた。まったくもって言いがかりである。本当にしゃべって居たのなら、オレと一緒にしゃべっていたヤツも残される筈である。校舎の一階から三階までの窓からは、各学年の生徒が顔を出し、殴られているオレを物珍しそうに見ていた。IBはそれを見越してオレを残したのである。これはオレの推測だが、小学校には内申書は無いが、恐らく大芝小学校のPTAで問題になった、あの濡れ衣を着せられたイジメの主犯格だと大芝小の教員から報告を聞き、それでいて大芝小では目立っていたオレを、早い内に生徒達の見ている前でシメておけば、己の権力を双方に示す事ができ、その後続く教員生活が楽になるとでもIBは考えていたのだろう。言いがかりを付けて二発目三発目と殴って来るIBのパンチを両腕で亀のようにガードしながらも、オレは必死に両足を踏ん張り耐え忍んだ。
殴られている所を校舎から見られている事に内心情けなく感じた。IBの横に居る先生達もそれを傍観して止めようとはしなかった。その先生達にも無性に腹が立った。しかしそれよりも何よりも理不尽なIBの暴力に対して、
(今に見とけよオッサンッ! もうちょい大きなって身体が出来上がったら、必ずドツき返しちゃるッ!)
とこの時思った。